- るりるり
- 人語理解能力を持った鉱物猫。
- 水瀬璃慧(みなせ・あきえ)
- 人見知りな高校生の言霊使い。創作が趣味。
- 白月悠(しらつき・はるか)
- 璃慧の親友。かなりの人見知り。
- 向坂次郎(さきさか・つぎお)
- 世話好きなおっさん。紫苑にあげるための煮干しやら何やらを
- 常に持ち歩いているらしい。この後猫に惚れてしまう変な奴。
- 伊佐見由摩(いさみ・ゆま)
- いつも元気いっぱいの小学生。光ファイバー娘。
- 更毬剽夜(さらまり・ひょうや)
- 教えたがりの理論魔術師(サラリーマン)
よく晴れたある秋の日のこと。
おとなしそうな少女が二人。
璃慧と悠。
いつものように、とりとめのないこと、話しながら、
人気もほとんどない静かな路、ゆっくりと歩いていると。
- るりるり
- 「にゃ〜〜」
ないている一匹の猫。
まだ、子猫だろうか。かなり小さめ。
でも、真っ白な毛と瑠璃色の澄んだ瞳は、どこか凛としていて。
- るりるり
- 「にゃ〜〜(悠の方に)」
悠たちを見て、逃げないどころか、よってくる。
- 悠
- 「あ……可愛いっ」
- るりるり
- 「ふにゃあ(ごろごろ)」
- 悠
- 「可愛い〜」(そっと手を伸ばす)
- るりるり
- 「にゃ〜〜〜〜〜〜」
- 悠
- (そっと抱き上げて撫でる)
小さな甘えん坊の猫と。それを撫でている悠と。
微笑してみている璃慧。
ふと、思い出す。
いつか、こんな猫を見たな、と。
そう、こんな不思議な猫、そうはいない。
そう、真鶴公園で見た、あの猫。
- 璃慧
- 「あ、あの時の猫か〜(なでなで)」
とか、かわいがってると。
- るりるり
- 「ふにゃあ……(何かをねだってるような声)」
- 悠
- 「? なあに?」
- るりるり
- 「にゃ〜〜〜」
- 璃慧
- 「? おなかすいてるのかなあ?(るりるりから向き直って) 悠、なにかもってる?」
- 悠
- 「……うーん、食べ物はちょっと…… 飴くらいかなぁ……」
どうしようか、と言うところに。とおりすがる男性。
知らない人だけれど、あまり怖さはなかった。
- 剽夜
- 「子猫に牛乳をあげるとお腹を壊すときがあるから、注意するよろし」
- 璃慧
- 「?? (声がした方を驚いてみる)」
- 剽夜
- 「いや、通りすがりの戯言と思ってくだされ」
そうしていると。また一人。
- 向坂
- (とおりかかる)「猫か……」
- るりるり
- 「ふにゃあ………………」
- 向坂
- 「お嬢さん達、ほれ、これねこにやってくれ」(煮干し出す)
- 璃慧
- 「あ…………、すいません…………(消え入りそうな声)」
紫苑用に持ち歩いていた煮干を差し出す向坂。
少女たちは、煮干を持ち歩いている男性を不思議に思いながらも、
おそるおそる受け取って。
- 璃慧
- 「ほらっ(しゃがみこんで、手の上に煮干)」
- 悠
- 「…………ありがとうございます(向坂さんにぺこっ)」
- るりるり
- 「にゃ〜(ぱくぱく)」
- 向坂
- 「いやぁ、どうせ別の猫にやる為の餌だし」
- るりるり
- 「(食べ終わって) にゃ〜〜(向坂さんの方にとてとて)」
- 剽夜
- 「浮気はおとこの甲斐性ですかな」
- 向坂
- 「ほれほれ(抱き上げる)」
- るりるり
- 「にゃ〜〜♪」
- 向坂
- 「んー、結構毛並みがいいなぁ……種類は何だ、ん?」
ふと。
るりるりのほうを向いて聞く向坂。
そんなこと通じる訳ない、誰もがそう思っているけれど……。
- るりるり
- (…………………………わたしは………………)
気が付いたら、意識があって。
それが二月ほど前のこと。
どうやら鉱物に変身できるらしいこと、彫像が本来の姿であること、
人間の言葉を、学問とかとしてではなく、直感として理解できるらしいこと、
でも、それは普通じゃないらしいこと……
いろいろ知っていくと。
どんどん謎がふえてくる。
でも、どうすることもできなくて。
理解することはできても、人間の言葉、話せないから……。
- るりるり
- (必死で、考えることやめようとしてたのに…… 何も知らないこの人を責めるべきではないのだろうけど……)
でも………………
- 向坂
- 「んー、かわいいな〜〜ほれほれ」(耳の後ろすりすり)
- るりるり
- 「ふにゃあっ」
ふにゃあ、と。その心地よさに身を任せて。
そう、忘れようよ。
辛くなるから。
これ以上考えるのはやめよう。
頭の中から強引に締め出して、無理に笑った。
気が付くと、最初にきた背の高い青年は去っていってた。
そしてまた一人、今度は小学生くらいの女の子が通りかかる。
璃慧たちとは対照的に元気いっぱいで。
- 由摩
- 「わーい、ねこーねこー♪」
- るりるり
- 「にゃ〜(幸せっ)」
そう。今が幸せと言える環境にあるなら。
それでいいじゃない。
自分に言い聞かせて、ようやくでた笑いは。
ようやく心のそこからの明るさ。
一方璃慧と悠は。
そんなことには気づくはずもなく。
- 璃慧
- 「あれ、あの時のこかなあ……」
- 悠
- 「お知り合い?」
- 璃慧
- 「うー、顔見知りって言うのかなあ……。 この前この猫にあったんだけどね。その時、一緒にいた人。かむにゃは、伊佐見さんって教えてくれたかな……」
少女の方を見て。
思い出したこと、小声で悠に伝える。
- 悠
- 「ふーん……神酒さんもいたの? ご縁があるんだね」
- 璃慧
- 「だね(笑)」
にっこりと笑って返す。
かむにゃ、また、通りがからないかな、と。
ふと思ったのは秘密。
そんな感情に、璃慧自身戸惑いを覚えていた。
でも、そんなことはすぐに忘れて。
- 璃慧
- (あの時も、結構人が集まったよなあ。 こいつには、人を引寄せる何かがあるの……かもね)
と、るりるりを眺めて。優しく笑う。
そのそばには、煮干を持っていた男性と、少女と。
不釣合いな二人だけれど、どうやら知り合いらしい。
- 由摩
- 「ねこねこー♪」
- 向坂
- 「ほー、由摩ちゃんも抱いてあげるか? ほれ」
- 向坂
- (由摩にそっとるりるりを渡す)
- 由摩
- 「♪〜」
- るりるり
- 「にゅ?!!」
- 由摩
- 「なでなで〜〜〜〜〜♪」
- 向坂
- 「抱き方間違ってるぞ………それじゃ猫が苦しがる」
- 由摩
- 「ほえ?」
- 向坂
- 「こうやるのだ(と、なおしてやる)」
- 由摩
- 「るんっ♪」
璃慧と悠は、すっかり、ほのぼのしている二人+一匹を
微笑みながら見ていた。
- 向坂
- 「あ、すまんな……お前さん達の猫借りちまって」
- 璃慧
- 「あ、別に、誰の猫でもないですし…………」
- るりるり
- 「にゃ〜〜〜」
- 向坂
- 「あら、そうなのか。懐いてるからてっきり飼い猫かと思ったよ」
- 璃慧
- 「いえ、この前公園であっただけです……」
- 由摩
- 「かわいいねー(なでなで)」
- るりるり
- 「ふにゃ〜(ごろごろ)」
- 向坂
- 「そうか………」
- 璃慧
- 「誰か飼ってくれる人が見つかると良いんですけどね……」
- 向坂
- 「お嬢ちゃん達の家では駄目なのかい?」
- 璃慧
- 「わたしの家は、犬がいますから…………」
などと話していると。
いつのまにか日も傾いてきて。
- 璃慧
- 「あ、じゃ、そろそろ帰りますね……(悠の方を向いて) いこっ」
- 悠
- 「うん」
会釈して去っていく二人。
しばらくして、もう二人も去っていき。
夕日が沈みかけた頃、るりるりはまた独り残されて。
ねぐらへと帰っていった。
1999年10月初め。
ようやく秋らしくなってきた頃。るりるりがいる道端に集う人たち。
意識をもつようになってから二月あまり。自分の特異さと孤独が、気になってきた――。
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