エピソード1042『ある日、道端で……』


目次


エピソード1042『ある日、道端で……』

登場人物(あるいは登場猫)

るりるり
人語理解能力を持った鉱物猫。
水瀬璃慧(みなせ・あきえ)
人見知りな高校生の言霊使い。創作が趣味。
白月悠(しらつき・はるか)
璃慧の親友。かなりの人見知り。
向坂次郎(さきさか・つぎお)
世話好きなおっさん。紫苑にあげるための煮干しやら何やらを
常に持ち歩いているらしい。この後猫に惚れてしまう変な奴。
伊佐見由摩(いさみ・ゆま)
いつも元気いっぱいの小学生。光ファイバー娘。
更毬剽夜(さらまり・ひょうや)
教えたがりの理論魔術師(サラリーマン)

ねこと少女たち

よく晴れたある秋の日のこと。
 おとなしそうな少女が二人。
 璃慧と悠。
 いつものように、とりとめのないこと、話しながら、
 人気もほとんどない静かな路、ゆっくりと歩いていると。

るりるり
「にゃ〜〜」

ないている一匹の猫。
 まだ、子猫だろうか。かなり小さめ。
 でも、真っ白な毛と瑠璃色の澄んだ瞳は、どこか凛としていて。

るりるり
「にゃ〜〜(悠の方に)」

悠たちを見て、逃げないどころか、よってくる。

「あ……可愛いっ」
るりるり
「ふにゃあ(ごろごろ)」
「可愛い〜」(そっと手を伸ばす)
るりるり
「にゃ〜〜〜〜〜〜」
(そっと抱き上げて撫でる)

小さな甘えん坊の猫と。それを撫でている悠と。
 微笑してみている璃慧。
 ふと、思い出す。
 いつか、こんな猫を見たな、と。
 そう、こんな不思議な猫、そうはいない。
 そう、真鶴公園で見た、あの猫。

璃慧
「あ、あの時の猫か〜(なでなで)」

とか、かわいがってると。

るりるり
「ふにゃあ……(何かをねだってるような声)」
「? なあに?」
るりるり
「にゃ〜〜〜」
璃慧
「? おなかすいてるのかなあ?(るりるりから向き直って) 悠、なにかもってる?」
「……うーん、食べ物はちょっと…… 飴くらいかなぁ……」

通りすがる人々

どうしようか、と言うところに。とおりすがる男性。
 知らない人だけれど、あまり怖さはなかった。

剽夜
「子猫に牛乳をあげるとお腹を壊すときがあるから、注意するよろし」
璃慧
「?? (声がした方を驚いてみる)」
剽夜
「いや、通りすがりの戯言と思ってくだされ」

そうしていると。また一人。

向坂
(とおりかかる)「猫か……」
るりるり
「ふにゃあ………………」
向坂
「お嬢さん達、ほれ、これねこにやってくれ」(煮干し出す)
璃慧
「あ…………、すいません…………(消え入りそうな声)」

紫苑用に持ち歩いていた煮干を差し出す向坂。
 少女たちは、煮干を持ち歩いている男性を不思議に思いながらも、
 おそるおそる受け取って。

璃慧
「ほらっ(しゃがみこんで、手の上に煮干)」
「…………ありがとうございます(向坂さんにぺこっ)」
るりるり
「にゃ〜(ぱくぱく)」
向坂
「いやぁ、どうせ別の猫にやる為の餌だし」
るりるり
「(食べ終わって) にゃ〜〜(向坂さんの方にとてとて)」
剽夜
「浮気はおとこの甲斐性ですかな」
向坂
「ほれほれ(抱き上げる)」
るりるり
「にゃ〜〜♪」

種類は……?

向坂
「んー、結構毛並みがいいなぁ……種類は何だ、ん?」

ふと。
 るりるりのほうを向いて聞く向坂。
 そんなこと通じる訳ない、誰もがそう思っているけれど……。

るりるり
(…………………………わたしは………………)

気が付いたら、意識があって。
 それが二月ほど前のこと。
 どうやら鉱物に変身できるらしいこと、彫像が本来の姿であること、
 人間の言葉を、学問とかとしてではなく、直感として理解できるらしいこと、
 でも、それは普通じゃないらしいこと……
 いろいろ知っていくと。
 どんどん謎がふえてくる。
 でも、どうすることもできなくて。
 理解することはできても、人間の言葉、話せないから……。

るりるり
(必死で、考えることやめようとしてたのに…… 何も知らないこの人を責めるべきではないのだろうけど……)

でも………………

向坂
「んー、かわいいな〜〜ほれほれ」(耳の後ろすりすり)
るりるり
「ふにゃあっ」

ふにゃあ、と。その心地よさに身を任せて。
 そう、忘れようよ。
 辛くなるから。
 これ以上考えるのはやめよう。
 頭の中から強引に締め出して、無理に笑った。

集う者たち

気が付くと、最初にきた背の高い青年は去っていってた。
 そしてまた一人、今度は小学生くらいの女の子が通りかかる。
 璃慧たちとは対照的に元気いっぱいで。

由摩
「わーい、ねこーねこー♪」
るりるり
「にゃ〜(幸せっ)」

そう。今が幸せと言える環境にあるなら。
 それでいいじゃない。
 自分に言い聞かせて、ようやくでた笑いは。
 ようやく心のそこからの明るさ。
 一方璃慧と悠は。
 そんなことには気づくはずもなく。

璃慧
「あれ、あの時のこかなあ……」
「お知り合い?」
璃慧
「うー、顔見知りって言うのかなあ……。 この前この猫にあったんだけどね。その時、一緒にいた人。かむにゃは、伊佐見さんって教えてくれたかな……」

少女の方を見て。
 思い出したこと、小声で悠に伝える。

「ふーん……神酒さんもいたの? ご縁があるんだね」
璃慧
「だね(笑)」

にっこりと笑って返す。
 かむにゃ、また、通りがからないかな、と。
 ふと思ったのは秘密。
 そんな感情に、璃慧自身戸惑いを覚えていた。
 でも、そんなことはすぐに忘れて。

璃慧
(あの時も、結構人が集まったよなあ。 こいつには、人を引寄せる何かがあるの……かもね)

と、るりるりを眺めて。優しく笑う。
 そのそばには、煮干を持っていた男性と、少女と。
 不釣合いな二人だけれど、どうやら知り合いらしい。

由摩
「ねこねこー♪」
向坂
「ほー、由摩ちゃんも抱いてあげるか? ほれ」
向坂
(由摩にそっとるりるりを渡す)
由摩
「♪〜」
るりるり
「にゅ?!!」
由摩
「なでなで〜〜〜〜〜♪」
向坂
「抱き方間違ってるぞ………それじゃ猫が苦しがる」
由摩
「ほえ?」
向坂
「こうやるのだ(と、なおしてやる)」
由摩
「るんっ♪」

璃慧と悠は、すっかり、ほのぼのしている二人+一匹を
 微笑みながら見ていた。

そして日は沈み

向坂
「あ、すまんな……お前さん達の猫借りちまって」
璃慧
「あ、別に、誰の猫でもないですし…………」
るりるり
「にゃ〜〜〜」
向坂
「あら、そうなのか。懐いてるからてっきり飼い猫かと思ったよ」
璃慧
「いえ、この前公園であっただけです……」
由摩
「かわいいねー(なでなで)」
るりるり
「ふにゃ〜(ごろごろ)」
向坂
「そうか………」
璃慧
「誰か飼ってくれる人が見つかると良いんですけどね……」
向坂
「お嬢ちゃん達の家では駄目なのかい?」
璃慧
「わたしの家は、犬がいますから…………」

などと話していると。
 いつのまにか日も傾いてきて。

璃慧
「あ、じゃ、そろそろ帰りますね……(悠の方を向いて) いこっ」
「うん」

会釈して去っていく二人。
 しばらくして、もう二人も去っていき。
 夕日が沈みかけた頃、るりるりはまた独り残されて。
 ねぐらへと帰っていった。

時系列

1999年10月初め。

解説

ようやく秋らしくなってきた頃。るりるりがいる道端に集う人たち。
 意識をもつようになってから二月あまり。自分の特異さと孤独が、気になってきた――。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部