エピソード1043『食料連鎖の怪』


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エピソード1043『食料連鎖の怪』

登場人物

平塚花澄(ひらつか・かすみ)
書店瑞鶴の店員。料理好き。
一十(にのまえ・みつる)
風水師にして修験者。食糧事情に難有り。
狭淵美樹(さぶち・みき)
医大生。 :情報とコーヒーを栄養源にしているらしい。
湊川観楠(みなとがわ・かなみ)
ベーカリー楠の店長。

本文

某日、お昼時……を、小二時間ほどずれた時刻。
 ベーカリー楠。

SE
からからん☆
観楠
「いらっしゃい……あ、花澄さん、こんにちは」
花澄
「こんにちは(ぺこ)」

店内を見まわす。
 時間が時間だけに、やはりいるのは常連である。

花澄
「えーと、あの、コーヒーと、サンドイッチ…… (見まわして) 三つ、下さい」
観楠
「(三つ?) ……(見まわして) ……はい(笑)」

視界に入ってくるのは、常連内でも特に食糧事情の悪い二名である。
 一人の前には、コーヒーがある。
 もう一人の前には、パンの耳がある。

花澄
(……なんだかなー(苦笑))

お盆に乗っけてもらったコーヒーとパンを受け取ると、そのまま前進し、二人の前にサンドイッチを一つずつ置く。

花澄
「どうぞ(苦笑)」
美樹
「へ? ……あ、こんにちは」
「あ、こんにちは、花澄さん」
美樹
「……で、これは?」
花澄
「どうぞ(苦笑)」
美樹
「いや、でも頂くわけには」
花澄
「……私が、食べ辛いんです(きっぱり)」

二名がぐっと詰る。
 座り込んで、コーヒーを持ち上げ……たところで。

「……花澄さん。今日の僕には心配は無用」
花澄
「………………今日、に限るわけですね(溜息)」
「う”………いやあのっ、実習でフィールドに行ってきましてっ!」
花澄
「はい?」
「なんたって、宿泊施設では朝飯と昼飯があるっ!」
花澄
「…………」
「一日で3日分の栄養をゲットだぜ!」
花澄
「……………………」

日頃の食糧事情の寒さが如実に現れる台詞である。

美樹
「それは、良い条件ですね(にこにこ)」
「でしょ。しかも、今回は宿泊は僕一人!」
花澄
「?」
「まかないのおばさんが、庭で取れたたけのこや蕨を食べさせてくれたんで、どーです、このほっぺたの色艶の良い事」
花澄
「…………………………(はあ)」

溜息しか出ないというか何というか……

花澄
「……美樹さんは、今日は?」
美樹
「え〜〜〜〜〜〜っと。今日の食事は……… 朝一の授業にまにあわなさそうだったから、とりあえず電車に飛び乗って……」
花澄
「……」
美樹
「電車に乗ってから何か買おうかとも思ったけど、本を読み耽っているうちに忘れてて…………」
花澄
「…………」
美樹
「授業中に先生が廻してくれた本を読んでいるうちに昼休みが終わってしまって……………」
花澄
「………………」
美樹   
「その後話し込んで、研究室でコーヒー飲んで…………」
花澄
「……………………で?」
美樹
「で、忘れていたわけですな。うむ」
花澄
「…………後生ですから、それ食べてください」

聞いているほうが疲れる(苦笑)

美樹
「まぁきっと、明日は食事をちゃんと取るかも知れないし」
花澄
「自信もって言えます?」
美樹
「……(汗) ばたばたしていると、つい食事って忘れてるんです(汗)」
花澄
「……ばたばたしてても、普通は忘れないんですっ」

この勝負、美樹に勝ち目が無い。

花澄
「なあんか……そう考えると、一さんより美樹さんのほうが問題ですよね」
「そーですよね……って、こちらにも問題ありですか?」
花澄
「大有りです(断言)」
「……」
花澄
「でも、一さんはまだ、何か食べようとするから……美樹さん」
美樹
「はい?(汗)」

居ずまいを正してじっと見上げる。
 案外……怖いものである。

花澄
「身体が覚えていないんですね。食事、という行為を」
美樹
「う”」
花澄
「麻樹さんに言いつけますからね、そのうち(じとー)」
美樹
「はははははは(ちょっと引きつり笑い)」
花澄
「一さんも……直紀さん心配しますよ」
「……って……待った、花澄さんっ(汗)」
花澄
「はい、何でしょう?(にこにこ)」

沈黙。
 但し、えらく雄弁な。

観楠
(……わ、笑っちゃいけないっ)
花澄
「あ、時間だ……それじゃ、また(にこにこ)」

からころん、という音に重なって、溜息が二つ。
 食料連鎖の先に居る者は、強い……のかもしれない。

時系列

1999年4月頃の風景。

解説

相も変らぬ、大学生の食生活…………(てか、食生活悪過ぎです>06の学生達)



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