- 佐久間拓巳
- 幽霊かもしれない
- 里見鏡介
- 死者救済を使命とする死人使い
- 遠野勇那
- 死んでも元気な幽霊
- 風籟
- 風神の子供
- 雷影
- 雷神の子供
春休みも半ばを過ぎた頃。
佐久間は新しい下宿に引っ越した。
親の仕送りが減ったので、前の下宿では家賃を払うのが厳しくなったのだ。
- 佐久間
- 「ここが新しい我が家ってわけだな」
- 風籟
- 「留年しなけりゃ引っ越しもしないですんだのにな」
- 佐久間
- 「済んだことだ。人の古傷をかき回すんじゃない」
- 風籟
- 「ほんとーに傷になってんのかね?」
- 雷影
- 「あまりそうは見えないんだよねぇ」
隣の部屋では。
- 勇那
- 「ねぇ、おとなりさん誰か越してきたみたいだよ」
- 鏡介
- 「ふぅん」
- 勇那
- 「関心無いの? どんな人だろう、とか」
- 鏡介
- 「そのうちに挨拶に来るだろう? そのときに判るじゃないか」
ところが3日経ってもおとなりさんは挨拶に来なかったのであった。
- 風籟
- 「そういえばタクミ、“ひっこしのあいさつまわり”とかいうのはやらなくて良いのか?」
- 佐久間
- 「そーいうのはタオルとか持って回るもんなんだ」
- 雷影
- 「じゃあ、買って来なきゃ」
- 佐久間
- 「ところがその金も引っ越しでなくなった、というわけで挨拶回りはなし。めんどくさいし」
- 雷影
- 「挨拶くらいはしたほうがいいんじゃない?」
- 佐久間
- 「挨拶だけなら顔を合わせたときにできるし……ってそういえばまだ二人くらいしか顔会わせてないな」
普段、窓から出入りしていれば当然である。
- 佐久間
- 「まぁそれはともかく、ここに住んでる人がどういう人か判るまではあまり外をうろつくなよ」
一方。
- 勇那
- 「挨拶、来ないじゃない」
- 鏡介
- 「僕に言われても困る」
- 勇那
- 「気になるなぁ。ほんとに隣に住んでるの?」
- 鏡介
- 「たまに部屋の出入りの音がするから住んでるんだろう」
- 勇那
- 「でも顔合わせた事無いじゃない。あ〜気になるよ〜」
- 鏡介
- 「そんなに気になるなら、行ってみればいいじゃないか」
軽い気持ちで言ったのだが。
- 勇那
- 「……それもそうね。どうせ私幽霊だし。覗いて見よっと」
- 鏡介
- 「おい、そういう意味じゃない!」
制止したときには勇那は隣の部屋に行った後だった。
- 勇那
- 「ふーん、、隣の部屋ってこんな風になってんだ」
その声に佐久間が本から顔を上げると、そこには女の子の幽霊がいた。
- 佐久間
- 「え〜と……どちらさん?」
- 勇那
- 「なにあんた。あたしが見えるの?」
- 佐久間
- 「まぁ、一応は」
- 勇那
- 「なによ。もしかしてあたしって誰にでも見えてるんじゃないの?」
- 佐久間
- 「そんなことはないと思うけど。で?」
- 勇那
- 「なに?」
- 佐久間
- 「どちらさん?」
- 勇那
- 「ああ、あたし遠野勇那。隣に住んでるんだ」
- 佐久間
- 「……何か心残りなことでも?」
鏡介と出会った時のことを思いだして、思わず笑う勇那。
- 佐久間
- 「笑うなよ」
- 勇那
- 「ごめんごめん(カラカラ) ……たまに遊びにきていい?」
- 佐久間
- 「いいよ、たいしたもてなしもできないけどね」
- 勇那
- 「もしかしてお祓いとかする人?」
- 佐久間
- 「まさか。僕がそう見える?」
- 勇那
- 「見えない」
- 佐久間
- 「だろ? ま、これからは部屋に入る前に声かけてくれると嬉しい」
- 勇那
- 「ふぅん。ま、気がむいたらね」
そういうと、鏡介の部屋に戻る勇那。
- 鏡介
- 「どうたっだんだい?」
- 勇那
- 「んー? 男の人がいた」
- 鏡介
- 「あんまり人の部屋を覗くもんじゃないよ」
ちなみに、佐久間拓巳と里見鏡介が実際に顔を合わせたのは、これよりさらに一週間ほど後のことであった。
1999年3月。
風見アパートには、実は幽霊のたぐいが見える人は多いようでして。……本人が幽霊に近いというのも、多々あったりして。
……へんな人は、集まるものですなぁ。
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