エピソード 1190『因果律のもう少し先』


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エピソード 1190『因果律のもう少し先』

登場人物

里見鏡介
死者救済を目的にする大学生。風見アパート在住
遠野勇那
幽霊の女子高生。
平塚花澄
書店瑞鶴店員。見鬼能力あり
湊川観楠
ベーカリー楠店長

本編

某日、ベーカリー楠、お昼時。
 喫茶の部分が、常連、一般客、双方でかなり混んでいる時間帯に。

SE
からんころん☆
観楠
「いらっしゃい」
花澄
「こんにちは」
観楠
「珍しいですね、この時間に」

込みまくっているのを知っているのと、仕事の関係上、花澄は大概昼の混雑時を一、二時間過ぎた頃にやってくる。

花澄
「今日は、店長が歯医者に行くんだそうで。私がお昼から戻ったら即、ってことで」
観楠
「成程……」

コーヒーとパンを選んでトレイに乗せる。

観楠
「今だと……でも相席になりますね」
花澄
「こちらはいいんですけど……」

席を見やる。
 一つのテーブルが、半分空いている。
 奥の、窓際に、赤い髪の青年が一名。
 その横、テーブルの上にとんと腰を下ろした、女子高生が一名。
 腰から足にかけて、半分透き通って見える。

花澄
「…………あの」

青年の方は、視線も向けない。興味深そうにこちらを見たのは、女子高生のほうである。

花澄
「えーと、こちら、宜しいですか?」

というわけで、花澄は少女の方に向き直った。
 相手が、少し驚いた顔になる。

勇那
「はいどーぞ……って、あ、ごめんなさいっ」

するーーっと、滑るように移動し、そのまま青年の横の椅子にすとんと座る。
 ぺこり、と頭を下げると、花澄は彼女の前の席に座る。

勇那
(ここってあたしのこと見える人、やたら多くない?)

それも全然疑問に思ってないしーー……との勇那の内心が、花澄に分かろう筈もない。
 ついでに言えば、幽霊に「あなた幽霊ですね?!」と驚いてみせる必要性も花澄としては感じない。(なんか問題がひどく違うわけだが……)
 ……発想として、果てしなく呑気である。

花澄
「……(コーヒーを含む)」
鏡介
「……」(ぼー)
花澄
「………………(食生活の悪そうな人だなあ)」

傍らの幽霊少女のほうが顔色がよく見える。
 と……

鏡介
「……仮に僕の因果律が現在の僕の望みと外れるモノであっても、それはそれで未来なんだ。こんにちは」

宙をさまよっていた視線が、急に花澄のところで絞られる。
 ごく唐突な台詞、なのだが。

花澄
「……それはまあ、因果律が望みと重なることも珍しいでしょうし、重なっても実現したらただの現実ですから……はじめまして」

……まともに答えるあたりが花澄である。

勇那
(……ぶっとんでる会話だねえ(^^;))

恐らく三名中、もっともまともな感覚の持ち主が苦笑するのを尻目に。

鏡介
「つまりはこの出会いも、この先どう言った意味合いを持つかのかわからないと言うことなんだ…名を里見鏡介という、よろしく」
花澄
「まあ、そうですね……平塚花澄と申します、よろしく(にこにこ)」

何となく、如何にも日本人、の、会釈だけを交わして、あとはまた沈黙。
 コーヒーを飲み干して、パンを一つ食べて……で、花澄は時計を見、残ったパンをとん、と、鏡介の前に置いた。

鏡介
「……?」
花澄
「失礼かもしれませんが……どうぞ」
鏡介
「?」
花澄
「因果律の先を見ること、叶わずって顔していらっしゃる」
鏡介
「どういう意味だい?」
花澄
「お嬢さんより、顔色が悪いってこと、です」

勇那がぷっと吹き出す。

花澄
「……じゃ」

一礼して立ち上がる。もう一度時計を見ると、慌ててトレイを返し、二言三言店長と言葉を交わして、そのまま走ってベーカリーを出てゆく。
 残された二人は、しばらくの間その花澄の後ろ姿を見送る。

勇那
「って……あ、あたしのことばれてたの(^^;)」
鏡介
「そうみたいだね」

そして鏡介はその残されたパンを見つめると、一口囓った。

時系列

1999年夏ごろ

解説

平塚花澄と里見鏡介・遠野勇那は、ぶっとんだ会話をもって出会いを果たす。



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