某日、ベーカリー楠、お昼時。
喫茶の部分が、常連、一般客、双方でかなり混んでいる時間帯に。
込みまくっているのを知っているのと、仕事の関係上、花澄は大概昼の混雑時を一、二時間過ぎた頃にやってくる。
コーヒーとパンを選んでトレイに乗せる。
席を見やる。
一つのテーブルが、半分空いている。
奥の、窓際に、赤い髪の青年が一名。
その横、テーブルの上にとんと腰を下ろした、女子高生が一名。
腰から足にかけて、半分透き通って見える。
青年の方は、視線も向けない。興味深そうにこちらを見たのは、女子高生のほうである。
というわけで、花澄は少女の方に向き直った。
相手が、少し驚いた顔になる。
するーーっと、滑るように移動し、そのまま青年の横の椅子にすとんと座る。
ぺこり、と頭を下げると、花澄は彼女の前の席に座る。
それも全然疑問に思ってないしーー……との勇那の内心が、花澄に分かろう筈もない。
ついでに言えば、幽霊に「あなた幽霊ですね?!」と驚いてみせる必要性も花澄としては感じない。(なんか問題がひどく違うわけだが……)
……発想として、果てしなく呑気である。
傍らの幽霊少女のほうが顔色がよく見える。
と……
宙をさまよっていた視線が、急に花澄のところで絞られる。
ごく唐突な台詞、なのだが。
……まともに答えるあたりが花澄である。
恐らく三名中、もっともまともな感覚の持ち主が苦笑するのを尻目に。
何となく、如何にも日本人、の、会釈だけを交わして、あとはまた沈黙。
コーヒーを飲み干して、パンを一つ食べて……で、花澄は時計を見、残ったパンをとん、と、鏡介の前に置いた。
勇那がぷっと吹き出す。
一礼して立ち上がる。もう一度時計を見ると、慌ててトレイを返し、二言三言店長と言葉を交わして、そのまま走ってベーカリーを出てゆく。
残された二人は、しばらくの間その花澄の後ろ姿を見送る。
そして鏡介はその残されたパンを見つめると、一口囓った。
1999年夏ごろ
平塚花澄と里見鏡介・遠野勇那は、ぶっとんだ会話をもって出会いを果たす。