エピソード1201『雨と猫とひげと』


目次


エピソード1201『雨と猫とひげと』

登場人物

佐久間拓巳
 幽霊もどきの学生
湊川観楠
「ベーカリー楠」の店長
蒼月かける
 ベーカリーの常連
浅井量子
    〃
前野浩
    〃

本編

今日も雨。こんな日は客も少ない。
 が、それでも常連の面々はこの店、ベーカリーに集まっていた。
 
 からんころん。

佐久間
「こんちは〜」
観楠
「おや、佐久間君。珍しいねぇ」
佐久間
「いやぁ、珍しい物を見たんで誰かに話したくって」
かける
「なんです? 珍しい物って」
佐久間
「あ、その前に……店長さん。アイスコーヒーお願いします」
観楠
「あ、うん。ちょっと待ってて」

しばしたち。

かける
「で、なにを見たんです?」

興味津々といった顔で佐久間の方に耳を傾ける面々。
 どうやらやることもなく、退屈していたらしい。

佐久間
「それなんだけどね。ネコなんだ」
量子
「珍しいネコ? 空でも飛んでたの?」
佐久間
「いや、地面を歩いてたよ」
かける
「じゃあ、ねこみみ少女だったとか」
佐久間
「いや、ただのネコ」
量子
「あ〜〜じれったいわね。さっさと話してよ」

重大な秘密を明かすかのように声を潜めて、

佐久間
「なんと、そのネコにはひげが生えていたんだ」
一同
「…………」

皆、沈黙。

佐久間
「あ、その眼は信じてないな」

不満そうに言う佐久間にアイスコーヒーを渡しながら、

観楠
「いや、信じる信じないの問題じゃなくて……」
前野
「ネコにひげがない方が珍しいと思うんだけど」
佐久間
「いや、そんなことはないよ。少なくとも僕は初めて見たぞ」
前野
「そんな事無いって。ほら」

と、ネコの写真を見せる前野。
 ……どうしてそんな物を持っているだろう。

佐久間
「……ひげ、ないじゃない」
前野
「あるよここに」

と、ねこの頬(?)を指す前野。

佐久間
「……ああ(ぽん、と手を叩く)」
前野
「判った?」
佐久間
「いや、そのひげじゃなくてさ」
量子
「でも、ネコのひげって言ったらこれだよ?」

そう言った量子に冗談めかして、

かける
「実はあごひげとか?」
観楠
「そんな馬鹿な(苦笑)」
佐久間
「あれ、良くわかったね」
かける
「へ?」

言った本人もびっくり。

佐久間
「僕の見たネコにはあごひげが生えていたんだ」
観楠
「ほんとに?」
佐久間
「うん。こう、胸の辺りまでたれて」

と、あごから胸の上辺りにかけて、細長い三角形を描く佐久間。

かける
「へえぇ」
量子
「でもさ、それが胸の辺りだってどうして判ったの?」
佐久間
「え? だってその猫、二本足で歩いてたから」
観楠
「そんな馬鹿な……」
佐久間
「ほんとですって」
前野
「何かの見間違いじゃない?」
佐久間
「いや、あれはたしかに……」
量子
「え〜、絶対変だよそれ」
かける
「でも以外と……」
観楠
「やはり……」

………
 ……
 …
 結局、ちょっとした騒ぎとなったベーカリー。
 
 外はまだ雨。
 道端をあるく猫一匹。
 そのあごには……。

時系列

1999年、梅雨時。

解説

半分実話らしいです。世の中って、侮れませんね。



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