- 佐久間拓巳
- 幽霊もどきの学生
- 湊川観楠
- 「ベーカリー楠」の店長
- 蒼月かける
- ベーカリーの常連
- 浅井量子
- 〃
- 前野浩
- 〃
今日も雨。こんな日は客も少ない。
が、それでも常連の面々はこの店、ベーカリーに集まっていた。
からんころん。
- 佐久間
- 「こんちは〜」
- 観楠
- 「おや、佐久間君。珍しいねぇ」
- 佐久間
- 「いやぁ、珍しい物を見たんで誰かに話したくって」
- かける
- 「なんです? 珍しい物って」
- 佐久間
- 「あ、その前に……店長さん。アイスコーヒーお願いします」
- 観楠
- 「あ、うん。ちょっと待ってて」
しばしたち。
- かける
- 「で、なにを見たんです?」
興味津々といった顔で佐久間の方に耳を傾ける面々。
どうやらやることもなく、退屈していたらしい。
- 佐久間
- 「それなんだけどね。ネコなんだ」
- 量子
- 「珍しいネコ? 空でも飛んでたの?」
- 佐久間
- 「いや、地面を歩いてたよ」
- かける
- 「じゃあ、ねこみみ少女だったとか」
- 佐久間
- 「いや、ただのネコ」
- 量子
- 「あ〜〜じれったいわね。さっさと話してよ」
重大な秘密を明かすかのように声を潜めて、
- 佐久間
- 「なんと、そのネコにはひげが生えていたんだ」
- 一同
- 「…………」
皆、沈黙。
- 佐久間
- 「あ、その眼は信じてないな」
不満そうに言う佐久間にアイスコーヒーを渡しながら、
- 観楠
- 「いや、信じる信じないの問題じゃなくて……」
- 前野
- 「ネコにひげがない方が珍しいと思うんだけど」
- 佐久間
- 「いや、そんなことはないよ。少なくとも僕は初めて見たぞ」
- 前野
- 「そんな事無いって。ほら」
と、ネコの写真を見せる前野。
……どうしてそんな物を持っているだろう。
- 佐久間
- 「……ひげ、ないじゃない」
- 前野
- 「あるよここに」
と、ねこの頬(?)を指す前野。
- 佐久間
- 「……ああ(ぽん、と手を叩く)」
- 前野
- 「判った?」
- 佐久間
- 「いや、そのひげじゃなくてさ」
- 量子
- 「でも、ネコのひげって言ったらこれだよ?」
そう言った量子に冗談めかして、
- かける
- 「実はあごひげとか?」
- 観楠
- 「そんな馬鹿な(苦笑)」
- 佐久間
- 「あれ、良くわかったね」
- かける
- 「へ?」
言った本人もびっくり。
- 佐久間
- 「僕の見たネコにはあごひげが生えていたんだ」
- 観楠
- 「ほんとに?」
- 佐久間
- 「うん。こう、胸の辺りまでたれて」
と、あごから胸の上辺りにかけて、細長い三角形を描く佐久間。
- かける
- 「へえぇ」
- 量子
- 「でもさ、それが胸の辺りだってどうして判ったの?」
- 佐久間
- 「え? だってその猫、二本足で歩いてたから」
- 観楠
- 「そんな馬鹿な……」
- 佐久間
- 「ほんとですって」
- 前野
- 「何かの見間違いじゃない?」
- 佐久間
- 「いや、あれはたしかに……」
- 量子
- 「え〜、絶対変だよそれ」
- かける
- 「でも以外と……」
- 観楠
- 「やはり……」
………
……
…
結局、ちょっとした騒ぎとなったベーカリー。
外はまだ雨。
道端をあるく猫一匹。
そのあごには……。
1999年、梅雨時。
半分実話らしいです。世の中って、侮れませんね。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部