エピソード1403『道ーーその極は遠く』


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エピソード1403『道ーーその極は遠く』

登場人物

金元吉武(かなもと・よしたけ)
 
朝っぱらから人気の無い場所で練習する武術家。

早朝

鼻からゆっくりと息を吸い込む。朝の冷えた空気が、肺の中を一杯にする。心地が良い。体温で温まった空気を、今度は鼻から吐く、同時に下腹に意識を集中し、気を落とす。へその下で合わせた左右の縦拳を下ろし、曲げた膝をのばす。
 吉武の周囲には地面をえぐる無数の足跡が残っていた。
 小架式の鍛錬を終わらせ、そのまま成人男性の胴回り程の太さの樹の傍まで歩く。
 右手を肩の高さまで上げ、腕を伸ばし指先で軽く幹に触れる。前に構えた右脚のかかとを軽く浮かして、後ろに構えた左脚に重心を預ける。
 右掌底と樹の幹までの距離は数センチ。

吉武
……ッ

地面を踏み締める音と、掌が幹を撃つ音が冷えた空気の中に響く。

吉武
「(……まだまだだ)」

掌を撃ち込んだ樹を見上げる。
 老師の言葉が頭に浮かぶ。

吉武
「(『全てを理解することは不可能だ』)」

木の葉が一枚、枝を離れる。

吉武
「(『だが、理解する努力を止めてはならない』)」

通勤や通学の人間が現れる時刻になった。今朝の鍛錬はここまで。

吉武
「(極める程に、知らぬこと解らぬことが増えてゆく……)」

きびすを返し、樹から離れる。
 SE      : ザザザザザザ……
 掌を撃ち込んだ樹の枝々が、思い出した様に揺れ始め、次々と葉が落ちる。

吉武
「(だから、この道を進む甲斐がある……さあ、帰ったら朝飯だ)」

枝の揺れと葉の落下はまだおさまらない。吉武は、足の十指で地面を握り掴む独特の歩き方でこの場を去った。
 彼が姿を消した頃、枝の揺れもおさまり、樹の周りには無数の葉が落ちていた。時系列と舞台-------------
 1999年 秋 ある朝、何処かの神社で

解説

吉武の朝の練習風景



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