エピソード1404『化ーー陳某に倣う』


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エピソード1404『化ーー陳某に倣う』

登場人物

金元吉武(かなもと・よしたけ)
 
小柄な武術家。貧乏人。

早朝

手のひらの上に雀が一羽。
 はばたき、飛び立とうとする。

SE     
チチチチチチ………

バランスを崩し、翼をバタつかせるだけで、飛び立てない。焦るように雀がさえずる。

吉武
「…………」

自分の手のひらの上でもがく雀を無表情に見つめる。
 雀は体制を立直し、両脚で体を支える。
 雀が飛び立とうとする力が掌に伝わる。

SE
チチチチチ…………

またもバランスを崩し、もたつき、飛び立てない。

吉武
「…………」

雀はこの動作を何度も繰り返していた。
 吉武は掌の上の雀を見てはいない……

SE
チチチチチチ………

手のひらの上の空気を雀の小さな翼がかき回す。
 吉武は掌の皮膚感覚に全神経を集中させている。

SE
チチチチチチ………

雀の飛び立とうとする僅かな力が伝わる度、掌を微妙に下げ、その力を化す。
 足場に向けた力が失われ、雀はバランスを崩し、もがく。

吉武
「…………」

力の方向と強さを感じ、瞬時に化す。
 小兵が武術を修得する上で不可欠の技術を古の達人に倣い、小鳥で訓練する。

吉武
「……!」

早朝の陽の角度はすぐに変わる。木々の合間をぬって、陽光が眼に刺さり、吉武は眼を細める。

SE
チュチュチュンチュンチュン……

吉武の気が逸れ、雀が飛び立つ。

吉武
「(…………まだまだか……)」

雀が飛び去った方向を見上げる。眩しさで雀を見失った。

吉武
「…………」

ポケットから米粒を一掴み取り出し、地面に撒く。編み篭を紐を結わえた棒で支え、撒いた米に被せるように置き、茂みの裏側へ隠れる。

SE
チュンチュン……

しばらくして雀が現れ撒いた米を、ついばみ始める。

SE
(腹が鳴る)
吉武
「(……次のは朝メシにしよう………)」
「……ちゅんちゅん」

時系列

1999年 秋 早朝

解説

吉武の朝の練習風景。かつてとある太極拳の達人がこのような鍛錬をしていたという話がありまして。



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