ここ吹利駅前商店街も、年の瀬が近づくに連れてその賑わいを増している。
年末商戦向けの POPや、クリスマス向けのレイアウトなどがショーウィンドウを飾り、活気のある売り声があちこちから聞こえてくる。
もっとも、私の今日の買い物は、あまりそれらには関係ない。
実際、一つ二つが値引きしていたくらいのものだった。
店員の声に送られて店を出る。
さて、どうしたものか……
人込みに揉まれるのは好きじゃないが、そこまで混雑しているわけじゃない。
それに、少し店を覗いていくのも良いだろう。
クリスマスのこともあるし……
本屋から、一人の女学生が出てくる。
高校生くらいか……どこかで見た顔だ。
学校帰りらしく、手には鞄を下げている。
本の包みは無いようだが、買わなかったのか、鞄の中か……
顔を上げたところで目が合う。
向こうも、なんとなくどっかであったことが在ると思ったのだろうか。
名前も思い出した。
確か、水瀬璃慧。美樹さんのChat仲間だ。
おずおずと返事を返してくる。
露骨に怖がられてるな。
声をかけない方がよかったのかもしれない……
とりあえず、話は続いてしまう。
こうして、ついつい詮索してしまうんだな……
嫌な奴だ。
ま、実際よっぽどマシだ。
やりたい事で無駄に出来る時間が在るだけ幸せだと思うが、実感は湧かないだろうな。
少し羨ましい。
熱意を持って取り組んだ記憶が薄いからかな。
何か手助けでも出来ればいいんだが……
もっとも、そんなのは身勝手な親切の押し売り。
わかってはいるんだがな(苦笑)
返答に困って、ちょっと沈黙。
自分でもこれと言って原因がわかっているわけでもなし。
強いて言うならこの性格が問題なのだろうけど……
愚痴めいてしまうのは分かっているから、あまり親しくないこの人に言うのも悪いだろうし……
悩んでる様子に気づいたのか
と。
気づかってくれてる優しさが嬉しかった。
反射的に出た声は、我ながらとてもか細い。
外見とその言葉のミスマッチに、ちょっと笑ってしまった。
でも、そんなあたしに怒る風でもなく、にこっと笑ってみせた。
外見はちょっと怖いけれど、こうしていると、すごく優しいんだろうということがよく分かる。
そういって手に持った紙袋の中を見せてくれた。
中には缶詰やら、お砂糖、猫缶やメディア類まであった。
親しくもない人に、失礼かな、とは思ったけれど。
いつの間にか、緊張もほぐれてきていたようで、思わず口にしていた。
ちょっと首を傾げて見せながらも、ごそごそと懐から名刺を名刺を差しだす。黒い金属質のものでできている、ちょっと変わったそれには、この近くだろう住所と、「前野浩」という名前が書かれていた。
お屋敷、というあまりなじみの無い言葉に。嘆声を返す。
そんな、思いがけない申し出に、ちょっと驚いたけれど。
さしてひどい方向音痴というわけではないと思うけれど。出歩かない性格のせいもあってか、どうも土地勘と言うものがまったく無い。
ちょっと困ったような顔をしていたのだろう。向こうから、
と、言ってきてくれた。
えへへ、と苦笑いと共に返す。
そう言って、差し出された彼の手に、さっきの金属を渡す。
思わず手元を覗き込んでみると、何かを擦り付けるように貼っている仕草が窺えた。
そういって再び差し出された名刺には、裏に白略地図が書かれている。
いったい何をしていたのだろう。どんな手品だろうか?
困惑しながらも、とりあえず礼を返した。
そんなあたしの様子には気付かないのか、それとも故意に無視しているのか。何事も無かったかのように、彼は話を続ける。
人付き合いが苦手な親のせいもあって。来客はせいぜい年に一、二度あるかないかという環境で育ったあたしには、ちょっと理解しがたい感覚だ。
でも……。楽しそう、だな……
そういって、お辞儀を返した。
ちょっと珍しいことが続いたせいか、しばらく呆けた様子でその場に立ちどまっていたらしい。不意に、吹きつける風で、体が冷たくなっていることに気付いて、急いで帰路についた。
その後、無道邸にて。
1999年12月末。
題名どおり(w クリスマスでにぎわう町中での情景です。
(sf補注) 前野くんは、探し物についてすこーし勘違いしてるかも知れない。無道邱での事件は、また別の話として。