エピソード1407『君と僕とはトモダチだから』


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エピソード1407『君と僕とはトモダチだから』

登場人物

前野浩(まえの・ひろし)
 贈賄技能持ちのダークハンター。以下略
平田阿戸(ひらた・あど)
 収賄技能持ちの駄目ヴァンパイアハンター。以下略

まずは品定め

ここは吹利の無道邸。
 昼餉もすませて、しばしくつろぎの時間である。

前野
「(ぱらり) ……ふむ……」

居間では、前野が何やら熱心に読んでいる。

「ん〜〜……(のびっ) ……旦那ぁ、なにやってん?」
前野
「……ちょっとな……(ぱらり)」
「ちょっとじゃ分からんがな( ̄▽ ̄;;)」
前野
「ん……これだよ」

そう言って前野が示したのは、エアガンの雑誌。
 それも、『愛蔵版』と銘打たれた特集版らしい。

「銃? なんでまた?」
前野
「ちょっと贈り物に……な……」
「ほえ〜……( ̄▽ ̄)」

最後までじっくりと読み終えると、いくつかのページにチェックを入れ、また読み始めた。

包装には気を配りましょう

所変わって聖書協会吹利支部。
 ツタの絡まる、嫌な雰囲気の小さなビルである。
 その一階。

平田
「ふむ。今日も平和だ」

駄目ハンター平田は、新聞を閉じながらつぶやいた。

平田
「汚職に、コンビニ強盗に、少年犯罪……私の業務に関係しそうな事件は何一つ無い。平穏無事とはこういう事を言うのだろう(んむんむ)」

そういう問題ではない。
 しかし、平田は大欠伸をひとつすると、そのまま椅子にもたれてうとうとしはじめた。
 と、その時。

SE
ぴんぽーん
 
平田
「………営業時間外だ」

寝起きが良いとは言えない平田の声は、限りなく不機嫌である。

前野
「お届け物ですよ」
平田
「…………」
前野
「昼間から施錠して閉じこもってないで、中に入れてくれませんか?」
平田
(今更、この男が素手で象を倒そうと、単身月に行って石を拾って来ようと驚くにはあたらないが……何故こうもあっさり活動拠点を探り当てられてしまうのだろうか?)

長い間の慣習や組織的な決まり事の欠点に気付きにくいあたりが、無駄に独逸的である。

前野
「もしもし?」
平田
「今、開ける」
 
SE
ガチャ
 
前野
「お忙しいところすいませんね(笑)」

なら来るな、と口ほどに物を言う平田の視線を受けながしながら、中へと入る。

前野
「意外と片付いているんですね……」
平田
「そんな事を言いに来たわけじゃないだろう」
前野
「まぁ、そうですけどね(苦笑)」

ろくな事務仕事もしなければ、当然散らかる要素も無かろう。
 もっとも、それ以前にたいして物が無いのだが……

前野
「お茶ぐらい出ません?」
平田
「…………」
前野
「ほんの冗談ですよ(苦笑)」

数少ない調度品である応接セットに腰を下ろすと、手に提げていた袋を机の上に置く。

平田
「……一体、何の用なんだ」
前野
「実は、ちょっと見てもらいたいものが在りましてね…」

そう言って、袋の中から汚れた紙包みを取り出した。

君の名は

紙包みを机の上に置く。
 ずいぶんと染みが在るが、どうやら外国の新聞のようだ。

前野
「これなんですが……なんなのか、良く分からないんですよ」
平田
「…………」

とりあえず、紙包みを開こうと手を伸ばす。
 と、きれいに包まれていなかったのか、紙包みに触れた瞬間、何かがこぼれおちた。

SE
カタン
平田
(銃のハンマー? ………ま、まさか!?)

見覚えのある形である。現在一般的に見られるハンドガンのもののように洗練されていない、無骨なフォルム……

前野
「何かわかりましたか?」
平田
「…………いや」

答えてから自分が穴があくほどその部品を凝視していた事に気付く。

平田
(落ち付け……まだそうと決まったわけではない……)

努めて冷静に、包みを開いていく。
 次第に姿を見せる、特徴的なグリップやバレル……なによりボディの刻印がこの雑多な部品の集合体の正体を示していた。

平田
「…………Schnellfeuer」

うめくように呟く。

前野
「?」
平田
「Mauser M1932…………モーゼルだ…………」
前野
「ほう……」

鑑定結果を口にしながらも、平田の両手は休まず動いている。

前野
「たまたま手に入れたものなんですが、モーゼルでしたか」
平田
「………」

前野の言葉が耳に届いているのかどうなのか、とにかく平田は無言で銃を組み上げていく。
 数分後、新聞紙の上の部品が全て姿を消し、平田の右手にはモーゼルが握られていた。

SE
ガシャッ カチッ

スライドを操作し、トリガーを引く。問題無くハンマーが撃針を叩いた。

平田
「部品の欠損もない……最高の状態だ」

なかば呆けたような表情でモーゼルを机に置き、平田が告げた。

前野
「なるほど……使い方が分かるようなら、お預けした方が良いかもしれませんね」
平田
「…………」
前野
「ご迷惑でなければ、ですが」

試すような調子で前野が言った。

前野
「どうです?」
平田
「む…………」

両腕を組んだまま、考えこむ平田。

前野
「まあ、ご迷惑でしたらこれで……」
平田
「待った」

立ちあがろうとした前野を制止し、平田は事務机から紙の束を取り出す。

平田
「私も忘れていたのだが、こういうものがあった」
前野
「……ほほう」

それは無道邸に関する詳細な調査報告書だった。

平田
「……しかし、私にはとんと覚えがない。きっと手の込んだいたずらなのだろう」
前野
「そうでしょうね」
平田
「すると、こういった出所のわからないものを提出するのは職務上よくないことだな」

そう言って、平田は報告書に手をかけると真っ二つに引き破った。そのふたつを重ねてもう半分に、さらに半分……
 適当な大きさになったところで、灰皿にばさばさと落とし、ライターオイルをポケットから取り出すと、その上にふりかけた。

前野
「……銃なんかあっても、手入れも出来ないし、処理にも困りますから、預かってもらえますか?」
平田
「それはもう、責任をもって」

平田は煙草に点火し、うまそうに一吸いしてから灰皿にねじこむ。

SE
ボッ

無道邸に関する調査報告書は勢い良く燃えだし、あっという間に煙と灰へ変わっていった。

平田
「さて、こんな煙たいところに長い間引きとめるのもなんだ。外までお送りしよう」
前野
「これはご丁寧に」

二人は立ちあがって握手を交わし、ドアへ向かった。
 こうして、無道邸とヴァンパイアハンターの間には両者満足のうちに不可侵条約が結ばれたのである。
 が、

平田
「ううむ、カッコつけて灰皿の上で焼いたりしなきゃよかったな……熱で割れてしまった(TT」

ヒビの入ったクリスタルガラスの灰皿を見ながら、経済的苦痛に悩む駄目ハンターであった

時系列と舞台

2000年1月下旬の聖書協会事務所吹利支部。

解説

怪しい二人の怪しい会談。
 トモダチに贈り物をするのも、トモダチのために便宜をはかるのも、正しい行いなのです。多分。



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