ここは吹利の無道邸。
昼餉もすませて、しばしくつろぎの時間である。
居間では、前野が何やら熱心に読んでいる。
そう言って前野が示したのは、エアガンの雑誌。
それも、『愛蔵版』と銘打たれた特集版らしい。
最後までじっくりと読み終えると、いくつかのページにチェックを入れ、また読み始めた。
所変わって聖書協会吹利支部。
ツタの絡まる、嫌な雰囲気の小さなビルである。
その一階。
駄目ハンター平田は、新聞を閉じながらつぶやいた。
そういう問題ではない。
しかし、平田は大欠伸をひとつすると、そのまま椅子にもたれてうとうとしはじめた。
と、その時。
寝起きが良いとは言えない平田の声は、限りなく不機嫌である。
長い間の慣習や組織的な決まり事の欠点に気付きにくいあたりが、無駄に独逸的である。
なら来るな、と口ほどに物を言う平田の視線を受けながしながら、中へと入る。
ろくな事務仕事もしなければ、当然散らかる要素も無かろう。
もっとも、それ以前にたいして物が無いのだが……
数少ない調度品である応接セットに腰を下ろすと、手に提げていた袋を机の上に置く。
そう言って、袋の中から汚れた紙包みを取り出した。
紙包みを机の上に置く。
ずいぶんと染みが在るが、どうやら外国の新聞のようだ。
とりあえず、紙包みを開こうと手を伸ばす。
と、きれいに包まれていなかったのか、紙包みに触れた瞬間、何かがこぼれおちた。
見覚えのある形である。現在一般的に見られるハンドガンのもののように洗練されていない、無骨なフォルム……
答えてから自分が穴があくほどその部品を凝視していた事に気付く。
努めて冷静に、包みを開いていく。
次第に姿を見せる、特徴的なグリップやバレル……なによりボディの刻印がこの雑多な部品の集合体の正体を示していた。
うめくように呟く。
鑑定結果を口にしながらも、平田の両手は休まず動いている。
前野の言葉が耳に届いているのかどうなのか、とにかく平田は無言で銃を組み上げていく。
数分後、新聞紙の上の部品が全て姿を消し、平田の右手にはモーゼルが握られていた。
スライドを操作し、トリガーを引く。問題無くハンマーが撃針を叩いた。
なかば呆けたような表情でモーゼルを机に置き、平田が告げた。
試すような調子で前野が言った。
両腕を組んだまま、考えこむ平田。
立ちあがろうとした前野を制止し、平田は事務机から紙の束を取り出す。
それは無道邸に関する詳細な調査報告書だった。
そう言って、平田は報告書に手をかけると真っ二つに引き破った。そのふたつを重ねてもう半分に、さらに半分……
適当な大きさになったところで、灰皿にばさばさと落とし、ライターオイルをポケットから取り出すと、その上にふりかけた。
平田は煙草に点火し、うまそうに一吸いしてから灰皿にねじこむ。
無道邸に関する調査報告書は勢い良く燃えだし、あっという間に煙と灰へ変わっていった。
二人は立ちあがって握手を交わし、ドアへ向かった。
こうして、無道邸とヴァンパイアハンターの間には両者満足のうちに不可侵条約が結ばれたのである。
が、
ヒビの入ったクリスタルガラスの灰皿を見ながら、経済的苦痛に悩む駄目ハンターであった
2000年1月下旬の聖書協会事務所吹利支部。
怪しい二人の怪しい会談。
トモダチに贈り物をするのも、トモダチのために便宜をはかるのも、正しい行いなのです。多分。