エピソード1409『システムファイルにご注意』


目次


エピソード1409『システムファイルにご注意』

登場人物

白月悠(しらつき・はるか)
内向的な高校一年生。
生活、特に宿題などはPCに依存(笑)
白月里花(しらつき・さとか)
PCの操作よりも、つくりに興味を示す中学一年生。
動作がおかしくなったりしたら、90%はこの子のせいである。
白月透(しらつき・とおる)
二人の父親。最近ホームページを開設。
PC関係はちょっとだけ詳しくなった(らしい)
白月佑実子(しらつき・ゆみこ)
二人の母親。家の中で一番PCと縁がない人。
しかし、常識というものをうまく適用して扱っている。
麒麟(きりん)
父親のDTM・MIDI関連の仕事仲間。
PCの操作には詳しいらしい。

休日のできごと

今日は建国記念日なので、学校がお休み。
 明日は第2土曜日、明後日は日曜日。
 久しぶりに訪れた3連休は、かなり貴重だし、嬉しい。

「さて、と……」

いい加減、ためちゃってる小説の宿題も片付けなくちゃいけないなあ……
 そんなことを考えて、いつものようにパソコンを立ち上げる。

「……だいたいっ。たかが2週間くらいの冬休みに小説書く宿題なんて出さないでほしいなあ……」

立ち上がるまでの間に、資料でも持ってこよう。
 そう思い、本棚をあさりながらつぶやく。
 璃慧は「書けない〜」と騒いでた挙句に、まともに書くことを放棄。
 望くんは、1日で20枚だか30枚だか書いて、危機を脱したらしい。

「よいしょっと」

図書館から借りてきた本と、自前の資料。
 それらを、どさりと机の上に積む。

アクシデント

「あれ?」

いつものとおりにパソコンのスイッチを入れてから、ずいぶん経ったのに。
 いつまで立ってもWindowsの起動音が聞こえないなぁ、と本を運びながら思ったのは、気のせいではなかったらしい。
 画面には、横文字がずらりと並んでいる。

「何か間違えたかなぁ?」

間違えるも何も。立ち上げるだけなのに間違いようもないのだが。
 とりあえず、Alt+Ctrl+Delで、強制終了してみる。
 
 ……1分後。
 ディスプレイには相変わらずいっぱいに横文字が並んでいた。

「(……また里花が何かやったかな)」

いろいろなサイトからのダウンロードや、レジストリファイルをいじることに異様な興味を持ち始めている妹御は、この手のことを良くやらかすのであった。

「(……頭痛い)」

とりあえず、横文字の解読を進める。

「……cannot find……missing……」

……

「里花っ!!」

呼びに行こうと立った拍子に、スカートの裾を引っかけて。
 ……机の上の本と資料が、全部崩れた。

元凶:白月里花

「さ・と・かっ!!」
里花
「ほえ?」

元凶であると思われる妹御は、部屋で優雅に読書になど興じていた。
 その本の題名を見て、またもや頭痛が襲う。
 ……『Windows98 裏技&高等テク』。

「さっきまでパソコン使ってたよね?」
里花
「ほへ? うん」
「立ち上がらないんだけど、……もしかして何かした?」

沈黙。
 ややあって、里花が引きつった笑みを浮かべた。

里花
「あ、あはははっ(滝汗) ちょっと待って、このあたしに任せてっ(あせあせ) ちゃんと、直すからっ(滝汗)」
「……やっぱし、何かやったのね(うう、頭痛いよう)」

読んでいた本を机に置いて、引出しから他の本を数冊引っ張り出して。
 里花はパソコンの置いてあるリビングへと走っていった。

SE
ずがしゃっ☆
里花
「痛ぁーい(TT)」

廊下に並べてあったダンボール箱に足を取られてひっくりこける。
 しかも、騒音に驚いて部屋から顔を出したお父さんは開口一番。

「わっ、なにごとだ、宇宙人の侵略か?」

……また、SFのビデオを見ていたらしい。

「そんなわけないでしょっ、里花、大丈夫?(汗)」
里花
「だいじょぶだいじょぶ」

ひょこんと起き上がると、里花は何事も無かったかのようにリビングへと走っていった。

「……ってえ、もしかして…… 段ボールの片付けおしつけられた?(汗)」

とりあえず、畳んで壁際に立てかける。

「お姉ちゃん、さっき、呼んだか?」
「へ? 呼んでないよ?」
「じゃあさっき騒いでたのは、……里花か」
「その通りっ、じゃあっちの部屋に行ってるね」

In the Living

リビングに戻ると、ただひたすらディスプレイを見つめている里花がいた。

里花
「あっちゃあ……」

何やら一人でぶつぶつとつぶやいている。

里花
「ねーねーお姉ちゃん」

視線は膝の上の本に落としながら。
 手だけがひらひらと揺れる。

里花
「これ、読んで」

画面いっぱいの横文字を指差す。

「(頭痛いい……) ここの上にざーっと出ているファイル名は、みんな見つからないかアクセスできないファイル名」
里花
「ふんふん」
「ってこれみんなシステムファイル……(滝汗)」

拡張子がみな、「.SYS」である。

「で、これとこれは存在しないって言われてて」
里花
「うんうん」
「これは見つからないって……ってWIN.COM……(滝汗)」
里花
「ほへ?」

WIN.COMが無いと言うのは、何か問題である。

「里花……あんたいったい何したの(汗)」
里花
「んーと(汗) 何かディスクの残り容量がこの前まで800MBあったのに600MBくらいに減ってたから……。 いらなそうなものまとめて圧縮したんだけど(滝汗)」

絶対必要なものばっかり選んで固めてる……
 そうとも思いたくなった悠であった。

(じとーっ)
里花
「あっ、あははは(汗) だいじょーぶ、ちゃんと直す」

こうして里花の格闘が始まったのであった。

大騒ぎ 〜起動ディスク編〜

里花
「えっと、たしか起動ディスク作ったはず……」
「(……いつの間に)」
里花
「あー、でも見つからないよう(うがあ)」
「探す?」
里花
「はやく直したいんなら探して〜2枚組みのフロッピーだから、すぐわかる」

かくして大捜索。
 パソコン周辺の紙の束や本をひっくり返す。

里花
「あ、あった♪」
「良かったね……(疲れた声)」

発見したフロッピーをドライブにさしこんで。
 もう一度、パソコンを立ち上げる。

里花
「あれえ?」

またもや、アルファベットの羅列。

「起動ディスクの使い方間違えたんじゃないの?」
里花
「だって使い方なんて知らないもんっ」

…………おーい。

里花
「ただ、作っとけってあったから(ぐっすし)」
「…………(滝汗) 怒ってもいい?(にこにこ)」
里花
「嫌」

大騒ぎ 〜ファイル名編〜

「さっきからぎゃあぎゃあと、なに騒いでるんだ(汗)」
里花
「あっ、あははは(汗)」

捜し物の大騒ぎは壁を数枚隔てた仕事部屋にまで届いたらしい。

里花
「パソコンが動かなくなったのっ(汗)」
「……は?」
佑実子
「あらあら」

つい30分前まで無事に稼動していたのだから、誰だって耳を疑う。
 お母さんまで洗いかけの皿を手に台所から出てきた。

「……システムファイルを固めたんだって」
「……おい(滝汗)」
里花
「だいじょぶだいじょぶ、あたしに任せて(汗)」

その「だいじょぶ」が、実は一番危ないのでは……
 画面は相変わらず「C:/>」と表示させたままで止まっている。

里花
「ねーねー、簡単圧縮かけたファイルって、うしろにつくのなに?」
「……『.lzh』」
里花
「はーい」

「C:/>」のあとになにやら画面に打ち込んでいる文字列は。
 「taisetu.lzh」「daiji.lzh」「taisetsu.lzh」「juuyou.lzh」…………

里花
「あれえ、なんて名前つけて圧縮したんだっけ」
「いくら打とうが圧縮かかってんなら無理だと思うぞ」
里花
「うっ…………」

麒麟さん登場

「仕方ないな、麒麟にでも聞くか」
佑実子
「あらあら、昨日なら家にいらしてたのにねえ」

「麒麟」というのはお父さんの仕事仲間の一人で、パソコンに詳しい人。
 昨日は久しぶりに家に顔を見せた。

「ってあいつの家、電話して繋がるかな……(汗)」
「(璃慧の家みたい……)」
佑実子
「それより、お姉ちゃんのチャットのお友達のほうが、そういうことには詳しいんじゃないの?」
「あー、みんな確かに詳しいけど(お……お友達……)」

お母さんにとっては回線の向こうの人間はみなお友達らしい。

「……パソコン立ち上がんないってことは、チャットにも繋げないってことなんだけど(汗)」
佑実子
「ああ、そういえばそうねえ」
里花
「お父さんのノート借りれば?」
「……そんなに長い間は貸せないぞ(汗)」
「そーだよねえ」

しばしの静寂。

佑実子
「とりあえず、麒麟さんに電話してみたら?」

お母さんの提案。すでに受話器を手にしている。

「そうだなあ」

受話器を受け取り、ダイヤルする。

「……ああもしもし、LUNAですけど、麒麟? ああよかった実は……」

LUNAというのは「白月」の「月」から取ったお父さんのハンドルネーム。
 最初に聞いたときは月の精霊を連想し、2人で爆笑したことをふと思い出す。

「システムファイルを固めたらしくて……」
里花
「…………(むー)」

その説明を聞いて里花がぷっと頬を膨らませる。
 お母さんはそんな里花の頭を撫でて、お皿を台所に下げに行った。

「あ、ほう、うんわかったありがとう。 じゃ、また今度でも……」

そう言って、お父さんは電話を切った。

大騒ぎ 〜Windows再インストール編〜

「んーと、うちにWindows98のCD-ROMはあるか?」
里花
「あるよん☆」
「それをドライブにいれて起動してみろと言ってた」
里花
「はーいっ♪ 探しといて良かった〜」

この前大騒ぎして家中をひっくり返したばかり。
 どうしてこんなに進歩が無いのだろう。

里花
「で、これからどうすんの?」

画面には、やっぱり横文字。

「さあ?」

……をい。

里花
「さあ? って、これからどうすんのっ?」
「いや、それしか聞いてない」
(ぼそっ)「電話した意味無い……」
里花
「……あうー」

とりあえず、また地道な努力を続ける里花。
 「C:/>」を「D:/>」と打ち変えることには成功した。

里花
「あ、たしか前ぶっ壊したときに……」
「……へ? 前?(汗)」
里花
「あっ(汗)」
「前のパソコンがどうして使えなくなったのか日頃疑問だったけど……もしかして里花……」
里花
「あっ、あはははっ(汗)」

作業に夢中になるあまりに口走ったひとことが大きな墓穴を掘った。

里花
「と、とにかくっ」
「はいはい」
里花
「セットアップ……と。あっ♪」

さっきまでとは明らかに違う画面――Windowsのインストール画面――が表示された。

里花
「……再インストールしたら、前にあったものって消えちゃうの?」
「さあ?」
「たしか、間違ってるところだけが書き換えられると麒麟は言ってたが……。 こんなケースは初めてだと言ってたしなあ……」
里花
「あうあう(TT)」

そりゃ普通はシステムファイルを固めたりはしない。

宿題は?

「いいじゃん、やればパソコンは使えるようになるし」
里花
「だってお姉ちゃんの宿題っ」
佑実子
「ああそう、お姉ちゃんバックアップ取ってないの?」
「まともなフロッピー無かったから、取ってないよ(汗)」

30枚くらいある空のフロッピーが、ことごとく壊れているのである。

里花
「あううううう」
「いいってば、消えてたら今度はまとめ版書くから」
里花
「だってだってえ……(半泣き)」

いつもは生意気でも、こういうときはやっぱり可愛い。

(ぎゅっ)「いいからいいから…… どっちにしろ入れなおしてくれないと作業もできないのっ」
里花
「はぁい……」

そのころ外野は。

佑実子
「あらあら、いつのまにか悠もずいぶんと大人になったわねえ」
「ほんとだな、てっきり大騒ぎして姉妹喧嘩になると思ったんだが」
佑実子
「わたしも。もうちょっと大騒ぎして手が出ると思ってたわ」
「時間が過ぎるのは早いな……」
佑実子
「あたしに似て性格がいいのよ、あの子たちは」
「…………(ノーコメント)」
「……何言ってるの?(汗)」
里花
「お父さんもお母さんも……変……」

これ以外に何も言いようがない。

大騒ぎのあとは

それから一時間後。無事に修復インストールが済み、中身もほぼ消えなかったことを確認した里花は。

里花
「あたし……今日はもう寝る…………」(ふらふら)

まだ8時だというのに部屋に戻って布団に突っ伏してしまった。

「(汗)」
佑実子
「……疲れたのね」
「まあそりゃ……しかし、システムファイルを固めるなんてのは、あいつくらいしかやりそうにないな(笑) いい経験をしたよ(苦笑)」
「あー、うー、設定やりなおしが面倒(TT)」
佑実子
「(苦笑)」

それからさらに一時間後。

「……わたしも一回寝る……」
佑実子
「おやすみ」

「しっかし、うちの娘たちはすごいな…… 自力でちゃんと直したもんなぁ(汗)」
佑実子
「あれだけ使ってるんだから、 当然と言えば当然じゃないからしらねえ(くす)」
「それでも、さ(笑) 俺が詳しくないだけだが」
佑実子
「アシスタントとして雇えば?(くす)」

かくして夜は更けていく。

時系列

2000年2月11日。

解説

ディスク領域を空けてくれようとするのは、ありがたいんだけど……
 システムファイルを固めるのはやめようね(汗)
 悠と里花、家族を巻き込んだ日常の大騒ぎEPです。
 ……何となく、姉妹の仲がちょっと良くなったかも。



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