2月の、3日。
卒業式で披露する曲も決まり、音楽室には人が絶えない。
朝も、昼も、放課後も。
昼の教室には、いつでもうるさい音楽がかかっている。
そのため、音楽室でお弁当を食べることは、璃慧たち3人にとっては恒例。
まあ、同じような理由でここを昼食所にしている人間は多いらしいが。
ざわめきにまぎれて、3人の耳に微かに聞こえくる会話の切れ端。
などと話していると。
ストラップを首に、ファゴットを手にした部長が音楽室に入ってきた。
…………実はもう、「元部長」なのだが、現部長よりも練習にきている(爆)
基礎練のために隣の会議室にでもいたのだろうか。
気づいて、近づいてきた部長は開口一番。
ねえねえ、と上下に手を振る。
脈絡の無い人である。
英語の時間、いったいなんの話をしていたのだろう……
と、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。
格好がすでにジャージだとはいえ。
今から楽器を片付けるあたり、体育だというわりにはのんびりしすぎているように思える。
せめてものひとこと。
聞いていたかどうかは不明だが。
しかしそれは杞憂だったらしい。
角を曲がっても、なぜか廊下にはたくさんの生徒がいた。
しかも、互いになにかを投げ合っている。
授業にきた教師も、下手に進もうものなら流れ弾を浴びかねない。
動かずにいるのは、賢明な判断である。
なんとなく嫌な予感を覚える璃慧。
予想を裏切らず。
随所随所で。
…………豆が、飛び交っている。
ばらばらっという音とともに。
あっちこっちでざくざくと聞こえる音は。
スニーカーや革靴が豆を踏み潰している音だろうか。
炒った豆の香ばしい薫りがほのかに漂う。
踏まれて細かくなったお豆と、それに混じった砂や土埃。
風に吹かれ、まんべんなく廊下中に広がっていく。
踏まれて砕かれごみとなる運命。
本来ならば食されるべきものに、この仕打ちは酷過ぎる。
一番妥当な感想かもしれない。
それから5分ほどで、豆まき戦争は鎮圧された。
が。
それから1時間ほどあとに地獄が待っていると、誰が想像しただろう……
戦争に参加していた生徒たちが続々と各々の教室に戻り、落ち着いたクラスから授業が開始されていく。
そんな中、教室に足を踏み入れた途端に固まっているのが一人。
盛大に豆が散らばった教室の後側を見て、虚ろにひとことつぶやく悠。
はしっと悠の手首を掴んで。
じいっと、その双眸を見つめる璃慧。
教室はいまだに豆まきの余韻でざわついている。
騒がしい雰囲気の中、あわただしく5限目は終わった。
6限目はホームルーム。前回からの話し合いの続き、の予定だったが……
なにやら大きな紙袋を小脇に抱えて教壇に立つ担任教師。
当然のことながら誰もそれを口にしない。
さっき、飽きるほど投げ、しかもこっぴどく叱られたばかりだというのに。
教師という人種も意地が悪い。
璃慧たちがその有志であることは言うまでもない。
…………
そしてそのあと。
50分間延々豆まき合戦が続き、そのあと同じくらいの時間をかけて掃除をしたのは言うまでもない。
とりあえず、周囲にまかれた豆を見ると、無残。という言葉しか思いつかない。
もうすでに踏み潰され、原型をとどめてないものが多いからか。
教師があれだけ脅しても、しっかり掃除をする人としない人がくっきりわかれているのが、またなんともいえない皮肉である。
璃慧、悠、望、そして他の数人の男女がほうきを動かす。まあ、一つの教室にほうきは数本しかないのだからしょうがないのかもしれないけど。
すると。
「はとぽっぽ」のメロディーで何やら意味不明な歌を口ずさんでいる奴を一人発見。
どーやら無意識の内に口ずさんでいたものが、悠のつぼにはまった模様。人生は不思議です。
2000年の2月3日、節分。
日本人はお祭り好きな人種だ、とはよく言われることですが……
学校でまで豆まきしないでほしいです。