エピソード1411『豆まく門には福来たる?』


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エピソード1411『豆まく門には福来たる?』

登場人物

水瀬璃慧(みなせ・あきえ)
言霊使いの高校生。オーケストラ部に所属。
雪丘望(ゆきおか・のぞむ)
クラスの誘眠電波発信源。豆は投げる方より食べる方(おい)
白月悠(しらつき・はるか)
璃慧と望のクラスメイト。実は美化委員らしい(苦笑)

節分〜音楽室編〜

2月の、3日。
 卒業式で披露する曲も決まり、音楽室には人が絶えない。
 朝も、昼も、放課後も。
 
 昼の教室には、いつでもうるさい音楽がかかっている。
 そのため、音楽室でお弁当を食べることは、璃慧たち3人にとっては恒例。
 まあ、同じような理由でここを昼食所にしている人間は多いらしいが。

部員1
「鬼はー そとっ☆ 福はー うちっ☆」
部員2
「あ、そっか、今日って節分か」
部員3
「そーですよ」
部員2
「あー、どーりで」
部員3
「どうかしたんですか?」
部員2
「んー、お弁当にいっぱい豆がつまっててさぁ(汗)」
部員3
「あー、なるほど」

ざわめきにまぎれて、3人の耳に微かに聞こえくる会話の切れ端。

「今日って節分かあ……」
「だね」
璃慧
「豆まきでもする?(笑)」
「そう言ったって、お豆ないじゃん」
璃慧
「あー、だね(苦笑)」

などと話していると。
 ストラップを首に、ファゴットを手にした部長が音楽室に入ってきた。
 …………実はもう、「元部長」なのだが、現部長よりも練習にきている(爆)
 基礎練のために隣の会議室にでもいたのだろうか。
 気づいて、近づいてきた部長は開口一番。

部長
「そういえばさ」

ねえねえ、と上下に手を振る。

「……なんでしょう?」
部長
「節分ってさ、『季節を分ける』から節分なんだね」

脈絡の無い人である。

「うきゅ?」
璃慧
「……あのお、部長? それ以外に何があるのかなあ?(汗)」
部長
「いや、本当に知らなくってさあ」
「……そーだったんですか」
部長
「今日、初めて知ったよ」
璃慧
「…………」
部長
「しかも英語の時間だし」
望&璃慧&悠
「えーご…………(汗)」

英語の時間、いったいなんの話をしていたのだろう……
 と、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。

部長
「あ、次体育だ。じゃ、ね」

格好がすでにジャージだとはいえ。
 今から楽器を片付けるあたり、体育だというわりにはのんびりしすぎているように思える。

「……遅刻しないでくださいね」

せめてものひとこと。
 聞いていたかどうかは不明だが。

「……って、僕たちも、次は英語だから教室じゃん(汗)」
璃慧
「だいじょーぶだって。 ちょっと遅れたって遅刻とられやないし(にこっ)」
「あうう…… 僕的にはちょっとでも急いだほうがいいと思うぞ……」

豆の回廊

しかしそれは杞憂だったらしい。
 角を曲がっても、なぜか廊下にはたくさんの生徒がいた。
 しかも、互いになにかを投げ合っている。
 授業にきた教師も、下手に進もうものなら流れ弾を浴びかねない。
 動かずにいるのは、賢明な判断である。

「……なにか、飛んでない?(汗)」
璃慧
「あれって……もしかして……」

なんとなく嫌な予感を覚える璃慧。

男子A
「鬼はー外っ!」
男子B
「痛っ、やったな、こいつっ!」

予想を裏切らず。
 随所随所で。
 …………豆が、飛び交っている。

男子C
「ほらほらーっ」
男子A
「このやろっ」

ばらばらっという音とともに。

「……まさか学校でまで豆まきするとは……」
璃慧
(げっそりした声で)「……うちらって、 ……優秀なモルモットだよねえ……」
「……特異事例の観察対象としては絶好かもねえ(汗)」

あっちこっちでざくざくと聞こえる音は。
 スニーカーや革靴が豆を踏み潰している音だろうか。
 炒った豆の香ばしい薫りがほのかに漂う。

「ああっ、掃除大変なのにっ(泣) 学校にお豆なんて持ってきた馬鹿、誰(泣)」

踏まれて細かくなったお豆と、それに混じった砂や土埃。
 風に吹かれ、まんべんなく廊下中に広がっていく。

「あーあ、お豆がもったいない……」

踏まれて砕かれごみとなる運命。
 本来ならば食されるべきものに、この仕打ちは酷過ぎる。

璃慧
「馬鹿ばっか…………」

一番妥当な感想かもしれない。

嵐の前の静けさ

それから5分ほどで、豆まき戦争は鎮圧された。
 
 が。
 それから1時間ほどあとに地獄が待っていると、誰が想像しただろう……
 
 戦争に参加していた生徒たちが続々と各々の教室に戻り、落ち着いたクラスから授業が開始されていく。
 そんな中、教室に足を踏み入れた途端に固まっているのが一人。

「……璃慧え、望くーん……ごめん、今日先に帰って」

盛大に豆が散らばった教室の後側を見て、虚ろにひとことつぶやく悠。

「ほえ?」
璃慧
「…………だぁめっ」

はしっと悠の手首を掴んで。

璃慧
「どうせ、掃除しようとか考えてるんでしょ(汗)」

じいっと、その双眸を見つめる璃慧。

「えっ? ……なんでわかるの(汗)」
璃慧
「……これだからなぁ(嘆息) 手伝うってば」
「僕だって手伝うさ♪」
教師
「そこ、早く席に着いて」
「あ、はい(汗)」

教室はいまだに豆まきの余韻でざわついている。
 騒がしい雰囲気の中、あわただしく5限目は終わった。

むべ山風を

6限目はホームルーム。前回からの話し合いの続き、の予定だったが……

教師
「はいはい、静かに」

なにやら大きな紙袋を小脇に抱えて教壇に立つ担任教師。

教師
「どうせ、話し合いをしても進まないからねえ。 今日のホームルームは別の活動になりました」
みんな
「??」
教師
「今日はなんの日か。 皆さんならば絶対ご存知だと思いますが」
みんな
「……(やーな予感)」

当然のことながら誰もそれを口にしない。

教師
「はい、Miss Yukioka、雪丘さん、なんの日?」
「……節分?(汗)」
教師
「その通りですね。ということで」
みんな
「……(嫌な予感増加中)」
教師
「みんなで豆まき大会です」
みんな
「えーっ」
教師
「まあ、実験科の定め、ということで(苦笑)」

さっき、飽きるほど投げ、しかもこっぴどく叱られたばかりだというのに。
 教師という人種も意地が悪い。

教師
「ちなみにそれが終わった後は全員で掃除です」
みんな
「げっ」

璃慧
「……やめてよねー。どーせ有志による掃除になるんだから…………(疲れた声)」

璃慧たちがその有志であることは言うまでもない。

教師
「あとで美化委員のほうから担当の発表がありますので、チャイムが鳴っても帰らないように。 帰った場合は、無許可の早退扱いにします」

…………
 そしてそのあと。
 50分間延々豆まき合戦が続き、そのあと同じくらいの時間をかけて掃除をしたのは言うまでもない。

掃除風景一こま

とりあえず、周囲にまかれた豆を見ると、無残。という言葉しか思いつかない。
 もうすでに踏み潰され、原型をとどめてないものが多いからか。
 教師があれだけ脅しても、しっかり掃除をする人としない人がくっきりわかれているのが、またなんともいえない皮肉である。

「やっぱり、ちゃんと掃除するのはこの面子なんだよねぇ」
璃慧
「もう、こればっかりはどうしようもないよ。(苦笑)」

璃慧、悠、望、そして他の数人の男女がほうきを動かす。まあ、一つの教室にほうきは数本しかないのだからしょうがないのかもしれないけど。
 
 すると。

「きゅっ きゅっ きゅっ♪ 鳩きゅっ きゅっ♪」
悠&璃慧
「……へ?」
「まーめがほしいきゃ そらやるきゅ♪」

「はとぽっぽ」のメロディーで何やら意味不明な歌を口ずさんでいる奴を一人発見。

璃慧
「えっと……望くん?」
「うきゅ?」
(何故か爆笑)

どーやら無意識の内に口ずさんでいたものが、悠のつぼにはまった模様。人生は不思議です。

時系列

2000年の2月3日、節分。

解説

日本人はお祭り好きな人種だ、とはよく言われることですが……
 学校でまで豆まきしないでほしいです。



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