エピソード1417『鍋、肉体派を目指す?』


目次


エピソード1417『鍋、肉体派を目指す?』

登場人物

佐久間拓巳
にせ幽霊。日本語より人外との意志疎通の方が得意らしい。
富良名裕也
霊感まったくナシの天然お気楽大学生。
佐古田真一
スナフキンとサボテンを愛する青年。会話はギター
平塚花澄
書店瑞鶴店員。吹利大学生の食糧連鎖の上位に位置するらしい。
カレー鍋
風見アパートの古株。住人達の栄養状況についてはうるさい。

本文

某日。
 風見アパートから叫び声が聞こえる。
 
 ……というのが、珍しくないから困るのだが。

フラナ
「佐久間さん、どーしたのっ?」
佐久間
「い、いや、鍋が……(汗)」
フラナ
「へ?……(目が点)」

風見アパート名物(迷物)永久カレー鍋。
 その声を聞くことの出来る者もおり、出来ない者もいる。
 …………が、しかし。

フラナ
「……鍋が、体操してるー(汗)」

……表現としては、当たらずと言えども遠からず。
 長の年月、火にかけられ続けてきた寸胴鍋。大きさといい形といい、なかなかの良品である……筈なのだが。
 それが中のカレーをぽっちゃんぽっちゃんゆすらせながら、伸びたり縮んだりを繰り返している。

フラナ
「佐久間さん、これ、どーしたの?」
佐久間
「……わからない。今見たらこうなってて(汗)」
フラナ
「変だねー」

いやまあ変なんだけど(汗)

佐久間
「それにしても……フラナ君は聞こえない?」
フラナ
「へ?」
佐久間
「いや……いいんだ(汗)」

勘が良い、もしくは霊能があるというのも、時に災難である。

カレー鍋
『儂のぉ〜〜(ふんっ) かれーをぉ〜〜〜(むきっ) 残さずぅ〜〜〜(ふぬっ) 食べろぉ〜〜(むきっ)』

……合いの手が。
 なんかこー非常に特徴的というかなんというか(汗)

佐久間
(……動きと声が合ってるのが嫌だな(汗))

見ているうちに、ぽっちゃんぽっちゃんと、カレーの揺れは大きくなる。

フラナ
「ふきこぼれちゃうね(心配)」
佐久間
「いや、そーじゃなくて(汗)」

と。
 困惑している二名の肩越しに。

フラナ
「何、佐古田?」
佐古田
「じゃんっ(お客)」
フラナ
「お客?」

…友情とは、言葉の壁をも越えさしめるものである。
 玄関を見ると。

花澄
「こんにちは、フラナ君」
フラナ
「あ、こんにちはー……あ、花澄さん花澄さんっ」
花澄
「はい?」

靴を脱いで揃え、短い廊下を歩いて。

花澄
「………………?(汗)」
フラナ
「変でしょ」
花澄
「変ね」

のびーっ、ちぢみーっ……と鍋がやってれば、それはまあ変である。

花澄
「んーと……(小声)通訳お願い」
『了解』

コンロの火が、一瞬延びて縮む。
 と、同時に。

カレー鍋
『儂のぉ〜〜(ふんっ)かれーをぉ〜〜〜(以下略)』
花澄
「…………(脱力)」
佐久間
(……聞こえてるのか(汗))

台詞はともかくとして。
 合いの手には、聞き覚えのある花澄である。

花澄
(肉体派の鍋………………(頭痛))

とはいえ。
 一人暮し歴相当、その間自炊歴も相当、となってくると。
 この程度の鍋の反乱には負けないもので。

花澄
「……中のカレー、こぼれますよ(ぼそっ)」

一瞬。
 鍋の動きが止まった…………かに見えたのだが。

カレー鍋
『ぬう……』
佐久間
(諦めたかな?)

しかし今度は、中のカレーに注意を払いながら動き出したものである(爆)

カレー鍋
『このっ〜〜(ふぬっ) ポーズならっ〜〜〜(むきっ) カレーはっ(ふんっ) こぼれないぃ〜〜〜(むききっ)』

…………。

SE
ぷっつん☆
佐古田
「…………(汗)」

後ろから、ギターを持ったまま覗いていた佐古田が、一歩後退した。

花澄
「…………そういう問題なのかなあ……」

にっこー、と。
 笑みを顔に張り付けたまま、なのだが。

佐久間
「…………(何となくつられて一歩後退)」

何となく、春雷一歩手前の空気を漂わせながら。
 花澄はよいしょ、と、お鍋を持ち上げた。

カレー鍋
『む? ……こ、こらこらこらこらこらっ』

なんと言っても永久カレー鍋である。
 その身体(とゆーのか?)がコンロから離れるというのは、椿事である。

花澄
「……肉体派を、目指しているんですよね?(にっこり)」
カレー鍋
『こら離せ、離せと言うにっ(一心にぢたぢた)』
花澄
「赤銅色の肌は、理想ですよね?(にっこりにこにこ)」

笑いが………恐い。
 そのまま真っ直ぐに流しへと向かい。

カレー鍋
『こら、中のカレーがっ〜〜〜〜』
花澄
「ちゃんと、赤銅色の肌に戻るまで研いて差し上げますっ」

どん、と、流しに置く。
 と……ぴたり、と、鍋の動きが止まった。
 
 沈黙。

花澄
「……諦めたかな?」
カレー鍋
『…………中のカレーがぁ……(涙声)』
佐久間
「みたいですね(溜息)」

すんすん、と、泣き声と愚痴のまざったものが、佐久間の耳には届いている。

カレー鍋
『カレーがぁ……』
花澄
「もう、やらない?」
カレー鍋
『…………了承(しぶしぶ)』

では、と、花澄はカレー鍋をコンロに戻そう……として。

花澄
「……重い(汗)」
フラナ
「あ、手伝うっ」

先程は、さほど重いとも思わなかったのだが。
 ……火事場の莫迦力という奴かもしれない(苦笑)

花澄
「……大体、カレー鍋がマッチョになりたがってどうするんだか(憮然)」

鍋は元通り、静かにコンロの上に乗っかっている。
 動き回っていたのが、嘘のようではある。
 ある……のだが。

佐久間
「…………(沈思黙考)」
フラナ
「どーしたの?」
佐久間
「……このカレー、食べて大丈夫かな(汗)」

時系列

2000年2月初め。

解説

風見アパートの(七つでは納まりそうにも無い)不思議の一つのカレー鍋。
 彼が何故肉体派を目指したのかは……永遠の謎かもしれません(爆)



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部