エピソード1421『南瓜の日』


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エピソード1421『南瓜の日』

登場人物

平塚花澄(ひらつか・かすみ)
書店瑞鶴店員。父親は戦前生まれ。
譲羽(ゆずりは)
花澄の擬似娘。木霊の少女。

本文

まあそれなりにそれなりに。
 煮物を作る暇のある日は幸いである。

花澄
「かぼちゃ、と……」

ついでに大豆の水煮を足して。

花澄
(あ、しまった)

ざく、と刺し込んだ包丁が、そこで止まってしまったらしい。
 こうなると厄介で。

花澄
「よいしょ……っと」

包丁に体重をかけて、南瓜を割る。

譲羽
「ぢ?」
花澄
「っとゆず、危ないからちょっと退いてて(汗)」
譲羽
「ぢい(汗)」

……時折かぼちゃをすっ飛ばした経験者の言である。

花澄
「お兄ちゃんも、これなら結構好きだから……」

よいしょ、と、結局あるだけの南瓜を割りながら、花澄は微かに苦笑する。
 
 好き嫌いを言うこと自体、許さなかった父親が、しかしほぼ唯一手をつけなかったのが、南瓜だった。「お父さんは召しあがらないで下さいな」との言葉を聞き流して、食卓に乗った南瓜の煮付けの鉢を、睨んでいたこともある。
 
 一生分、既に食べたから俺はもういい、というのが口癖で。

南瓜の葉から、茎から。
 当時は甘くて旨かった……と。
 酒の傍ら、昔話していた記憶がある。

花澄
(その割に、あとの家族はみんな好きなんだけどなあ)

甘くて旨かった筈のものを、嫌うほどに食べざるを得ない環境。
 それは……確かに、想像の外にある状況かもしれない。

花澄
「……贅沢なんだろうなあ、こういう食べ方も」
譲羽
「ぢ?」

とりあえず、切った南瓜の面取りをしながら。
 細く、細く角を削りながら。
 
 花澄は一つ苦笑した。時系列-------
 2000年3月初旬

解説

IRCでの、年代談義からふと生まれた話です。
 親の世代、というものは、手の届くくらい近くという印象もあるんですけど。その生活は既に、想像でもきついものがあるのかもしれません。



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