某日、早朝。
路地には昨夜の雨が残っている。
雨に洗われたように、朝の空は青い。
すう、と幅広の筆で掃くように、風が路地を渡ってゆく。
花澄の肩から下げられた袋から、ぽこ、と、黒い頭が飛び出す。
まあ……そうではあるのだが。
そろーっと。
頭が引っ込みかけて。
ぴょいっと、小さな体が袋から飛び出す。
延ばされた手をかいくぐって。
そのままアスファルトの上に落下。
ぱしゃん、と、薄く溜まった水が跳ねた。
一応靴は防水の布で作ってあるとは言え、譲羽の体は木粘土と胡粉製である。
花澄からすれば冷汗ものなのだが、譲羽のほうは、てんで気にした風も無い。
小さく。
花澄は息を呑む。
路地に溜まった、水に。
空の青。
水溜りだけではなく、アスファルト自体が、うっすらと空の青を映して。
その、空の色も、もうすっかり春の色で。
くるり、と、小さな足を軸に回って。
とてとて、と、駈けよる譲羽を抱き上げて。
笑いながら。
そしてまた路地を歩いてゆく。
空の青を踏みしめながら歩いてゆく。
春の初めの日の出来事である。
2000年の三月中旬から下旬。
平塚擬似親子の、ある風景です。
本当に……アスファルトも青にうっすら染まるのです。