エピソード1423『吉武敗北!!』


目次


エピソード1423『吉武敗北!!』

登場人物

金元吉武(かなもと・よしたけ)
貧乏な人。一応武術修行者。

タイムリミット

残り時間3分。壁に掛けられた時計が刻々と時を刻む。

吉武
「(己の力を見誤ったということか……)」

『障害』を前にして一人呟く。腹部に重圧感。脳が「これ以上は無理だ」と信号をよこす。
 自分でも判る。明らかに速度が落ちている。意志とはうらはらに動きが鈍い。気力を振り絞っても、肉体の感覚に逆らうことはできない。
 
 残り時間1分。焦りは時の流れを遅らせない。

吉武
「(……これまでか)」

覚悟は決めた。いや、挑んだときからこうなることもあり得ると覚悟はしていた。
 
 敗北を受け入れる。
 
 時間切れを示すブザーが鳴る。

その20分前

それはちょっとした気まぐれだった。
 その日はいろいろあって、朝から何も食べていなかった。
 つまり、その日は食費に1円も使っていないということだった。
 その日は、もう日も暮れていた。

吉武
「(……たまには外食でもするか…)」

思い付きで通りがかりのカレー屋に入る。店員のチェーンの店らしいマニュアルな感じの対応を受け、カウンターの席につく。

吉武
「(ええと、一番安いのは……)」

メニューを眺める。だいたいどれも600円前後ぐらいの価格である。

吉武
「(チョット高いな………………ん?!)」

メニューの一番下に目が行く。

メニュー
1300gカレー 1400円 ただし、20分以内に食べれば無料
吉武
「(……タダか……)」

腹一杯食えてタダとくれば、こんなにおいしい話は無い。しかし、失敗した場合の1400円という価格は吉武の一日の生活日を見事にブッちぎっている。いや、二日分かも。ともかくリスクは大きい。

吉武
「……この『1300gカレー』というのをお願いします」
店員のお姉さん
「『1300g』挑戦ですね。かしこまりました(にこ)」

危険を知ってあえて挑むのが漢である(笑)
 店員はにこやかにルールを解説する。

店員のお姉さん
「挑戦されている間は、席を立ったり、お手洗いに行かれたりなさってはいけません。ルーが足りない場合は、お申しつけ下されば、無料で追加いたします。ルーは残されてもけっこうですが、ご飯は一粒残らずお召し上がり下さい。 制限時間終了時にお口の中にご飯が残っている場合は失格です(にこにこ)」
吉武
「わかりました」
店員のお姉さん
「あと、今回完食なされた場合、次回のご来店からは、どのチェーン店で『1300gカレー』を完食なさっても無料サービスはございません。それから、今回完食なされた場合、記念撮影があります。よろしいでしょうか?」
吉武
「……ああ、はい、わかりました」
店員のお姉さん
「それではがんばってください(にこ)」
吉武
「(……写真を撮られるのか……不精髭剃っときゃ良かった……)」

などと考えているうちは、まだまだ食いきれると思っていたのである。

つわものが夢のあと

巨大な皿にご飯が山と盛られ、波々とかけられたカレールーを見ても、

吉武
「(……ああ、食いきれる)」

と思っていたのであるが、20分という時間は短かった。
 結果、食べ終えたのは10分オーバーの30分後であった。
 金を払う以上、残すのはもったいないし、初めから完食する気だったので、文字どおり、一粒残らず食べきった。
 店員は空になった皿を賞賛したが、負けは負けである。
 
 重い腹を抱え、ヨタヨタとレジへ歩く。その足取りはペンギンのようである。下手に動くと中身が飛び出しそうだ。

店員
「またの挑戦をお待ちしております」
吉武
「(むう……俺もまだまだだな……(げふう))」
時系列-----
 2000年1月下旬

解説

己の力量を見誤ってはいけません。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部