残り時間3分。壁に掛けられた時計が刻々と時を刻む。
『障害』を前にして一人呟く。腹部に重圧感。脳が「これ以上は無理だ」と信号をよこす。
自分でも判る。明らかに速度が落ちている。意志とはうらはらに動きが鈍い。気力を振り絞っても、肉体の感覚に逆らうことはできない。
残り時間1分。焦りは時の流れを遅らせない。
覚悟は決めた。いや、挑んだときからこうなることもあり得ると覚悟はしていた。
敗北を受け入れる。
時間切れを示すブザーが鳴る。
それはちょっとした気まぐれだった。
その日はいろいろあって、朝から何も食べていなかった。
つまり、その日は食費に1円も使っていないということだった。
その日は、もう日も暮れていた。
思い付きで通りがかりのカレー屋に入る。店員のチェーンの店らしいマニュアルな感じの対応を受け、カウンターの席につく。
メニューを眺める。だいたいどれも600円前後ぐらいの価格である。
メニューの一番下に目が行く。
腹一杯食えてタダとくれば、こんなにおいしい話は無い。しかし、失敗した場合の1400円という価格は吉武の一日の生活日を見事にブッちぎっている。いや、二日分かも。ともかくリスクは大きい。
危険を知ってあえて挑むのが漢である(笑)
店員はにこやかにルールを解説する。
などと考えているうちは、まだまだ食いきれると思っていたのである。
巨大な皿にご飯が山と盛られ、波々とかけられたカレールーを見ても、
と思っていたのであるが、20分という時間は短かった。
結果、食べ終えたのは10分オーバーの30分後であった。
金を払う以上、残すのはもったいないし、初めから完食する気だったので、文字どおり、一粒残らず食べきった。
店員は空になった皿を賞賛したが、負けは負けである。
重い腹を抱え、ヨタヨタとレジへ歩く。その足取りはペンギンのようである。下手に動くと中身が飛び出しそうだ。
己の力量を見誤ってはいけません。