エピソード1425『ある雨の日……』


目次


エピソード1425『ある雨の日……』

登場人物

水島緑(みずしま・みどり)
内気な女子大学生。人見知りが激しい。
金元吉武(かなもと・よしたけ)
無口な怪しい小男。よく人に恐がられる

バス停で

SE
ザーーーーーーーーー…………

その日は朝から雨が降っていた。

SE
ザーーーーーーーーー…………
「んー、バス遅れてるのかなぁ……」

バスの停留所の庇の下で、水島緑は雨を避けながら一人でバスを待っていた

SE
ザーーーーーーーーー…………
「あれ?」

視界のずっと先に人影が現れた。

SE
ザーーーーーーーーー…………

人影はこちらへ歩いて来る。

SE
ザーーーーーーーーー…………

人影は、緑よりも身長が低く、丸い黒眼鏡をかけた黒ずくめの小男だった。
 安物の透明なビニール傘をさして、無表情にバス亭の方へやって来る。

「(ううっ、怪しい……)」

男はどんどん近づいて来る。

「(うー……早く通りすぎてよぉ……)」
 
SE
ザーーーーーーーーー…………

男はバス亭を通り過ぎなかった。

「(ええっ!? うそっ!)」

男はバス亭の庇の下に入ると傘を閉じた。

SE
カンカンカン…………

そして傘の軸先を地面に軽く叩きつけて傘の水を払った。
 その作業が済むと、男は無言で緑の横に並んだ。

吉武
「………………」
 
SE
ザーーーーーーーーー…………
 
「(ううっ、この人もバスを待ってるのぉ?)」
吉武
「……」
「(こ……この人、なんかこわいよぉ……)」

緑は首を正面に向けたまま、視線を合わさないようにビクビクしながら、チラチラと横目で隣の小男の様子を伺う。

(ちらちら……)
吉武
「……」
 
SE
ザーーーーーーーーー…………

不意に男が緑の方へ首を向けた。緑と小男の視線が合う。

吉武
「……」
(びくぅっ!)

緑は慌てて目線を正面へ向け、そのまま硬直する。

吉武
「……」
「(うぅ……バス早く来ないかなぁ……)」
 
SE
ザーーーーーーーーー…………

雨音が激しい。

吉武
「……」
「(うう……嫌だなぁ……)」

バス亭に他の誰かがやってくる気配は無い。バス亭には緑と小男の二人きり

SE
ペキパキポキ…………ポキパキペキ…………
 
(びくぅぅっ!)

突然、小男が指の骨を鳴らした。

吉武
「……」
「(うううう…………(どきどきどき))」

緑は、最早「バス、早く来てっ!」と心の中で繰り返し祈り続けていた。

吉武
「……」
「……(汗)」
吉武
「………………」
「………………(汗汗)」
吉武
「………………………………」
「………………………………(汗汗汗)」
吉武
「………………………………………………」
「………………………………………………(汗汗汗汗っ)」

バスはまだ来ない。

吉武
「……」
「……」
吉武
「……あの」
「(びくぅっ!)……え、あ、はい……」

男が緑に声をかけた。

吉武
「……激しいですね」
「え、えと、あの、その……」
吉武
「……いや、雨が……」
「あ、ああ、ええ……はい」
吉武
「…………」
「(うううううう……(汗汗汗汗))」
 
SE
ザーーーーーーーーー…………

再び沈黙が続く。又、男が口を開いた。

吉武
「……バス」
「は、はいっ(びくっ!)」
吉武
「……遅いですね」
「え、ええ……(若干の愛想笑)」
吉武
「……」
 
SE
ザーーーーーーーーー…………

それっきり、二人はバスが来るまで一言も言葉を交わさなかった。

時系列

2000.6.梅雨の季節のある激しい雨の日

解説

コミュニケーションがまるで成り立っていません(爆)



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