エピソード1426『水無瀬の旅行 北関東篇』


目次


エピソード1426『水無瀬の旅行 北関東篇』

登場人物

水無瀬香子(みなせ・きょうこ)
吹利高校鉄道研究部副部長。最近は弾き語り通信クラブにも出没
する。HNは花咲香織。吹利市在住。実際は鉄研最強の「をたく」。
三橋徹(みつはし・とおる)
水無瀬に萌え萌えの同級生。よくこんな感じで旅行へ行く。吹利市
在住。
沢野口博康(さわのぐち・ひろやす)
水無瀬・三橋コンビの共通の友人。知識欲の怪物。三橋いわく、
「彼は知識をもっているからすごいというんじゃなくて、どこに
どんな知識が転がっているかをすべて知っているから凄いんだ」
とのことである。東京都目黒区在住。
水無瀬香澄水(みなせ・かすみ)
香子の妹。マッドな小学生。将来の夢は新谷ゼミに入ること。学校
では「オカルトネタは香澄水に聞け」が合言葉になりかけている。
滝川健一(たきがわ・けんいち)
数学研究部部員。実は三橋の後輩だったりする。
水島緑(みずしま・みどり)
全身戦闘サイボーグ。吹利市在住。

出発前、バスセンターにて

三橋
「何時のバスに乗るの?」
香子
「8時ので十分でしょ? 9時半京都がタイムリミットだから」
三橋
「じゃあ、いつものように一行掲示板にカキコしてく?」
香子
「さいころだしといて」

三橋が水無瀬のノートパソコン(自作!)を借りて、cdmaOneにつなぐ。そしてTRPG.NETの一行掲示板にカキコする。
 
 花咲+さいころ
  これから出発です。2D6で、出目は[ 3 ]です。

三橋
「出目3だったよ」
香子
「不吉な予感が…… 如月さんにでもお祓い頼んどく?」
三橋
「それを言うなら京極堂でしょ?」
香子
「バスがそろそろ入るわよ」
三橋
「それよか、明日どこ行くの?」
香子
「まだちょっと悩んでるけど、水戸線に乗ろうかな…… といったとこ」
三橋
「沢野口さんに会うんでしょ?」
香子
「渋谷駅で18時30分に待ち合わせしてるの」
三橋
「関鉄常総線は辛いよね?」
香子
「今回は水戸線を優先しましょうよ」

京都駅行きの特急バスに乗り込む水無瀬と三橋。

特急バス車内にて

三橋
「まさか372Mの指定はとってあるよね?」
香子
「さあ、どうかしらね?」
三橋
「北海道の二の舞はごめんだよ」
香子
「あら、北海道って?」
三橋
「高速バスにキャンセルが出なかったら野宿するところだったじゃないの! 忘れたとは言わせないよ!」
香子
「あら、忘れてたわ」(にっこり)
三橋
「もう! 香子ちゃんったら!」

京都駅ビルにて

香子
「(7分早着の、35分待ちだから、42分と……あら、あれは水島緑さん?)あの〜」
「あ、こんにちは……」

なにやら考え込んでいる風の緑に声をかける水無瀬。

三橋
「水島さん! お久しぶり! 今日はこれからどこへ?」
「いえ、瀬田へ行った帰りなの」
香子
「やっぱり! おっひさ〜! これからお帰り?」
「ええ」
香子
「当面奈良線はないですよ。七条歩いちゃったほうが早いんじゃないですか?」
「え? え? ……」(水無瀬ちゃん、時刻表見たのかしら?)
香子
「つぎは22分の鈍行です。七条出れば13分の急行があるはずです」
「あ、そうですかぁ。(詳しいんですねぇ)」

大垣駅

香子
(ぐぅ〜)「夜行乗る前に、そばでも入れておきましょ」
三橋
「八番線だっけ?」
香子
「そば屋? 確かそうだったと思うわ。でもまずいのよね」
三橋
「でも明日乗り継ぎが大変でしょう。今のうちに食べとこ」

快速ムーンライトながらに乗る二人。いつもあの列車は込んでいる。
 まあ、定番中の定番だからしょうがないと……

車内・横浜駅発車後

香子
(今日の分を占いましょう)

例によって一行掲示板。
 
 花咲+さいころ
  いま横浜を出ました。 2D6で、出目は[ 4 ]です。

香子
(やっぱり…… 不吉だわ)

東京到着前

香子
「どうする? 常磐線のタイムリミットは11時上野だから、どこか回れるわよ」
三橋
「それじゃあ、臨海副都心とやらに行ってみようか。この時間だとゆりかは走ってないよね?」
香子
「臨海高速線を使わないと。帰りはゆりかでいいわね?」
三橋
「まさかコミケやってないよな? ああ、あれは夏と冬か」
香子
「そのくらいの知識は入れましょう。常識です」
三橋
「そうだよな」

東京駅

三橋
「たしか僕は京葉線初めてだったような気が……」
香子
「そうなの? ここの乗り継ぎ大変なのよね」

悪名高い京葉線。「遠京」とか「東楽町」とか、茶化した表現には事欠かない駅。全力疾走しても乗り換えに5分はかかる。京葉線で新木場乗換え。

東京ビッグサイト

香子
「ここが問題のコミケ会場なのね。また今度問題の日に来てみようかしら……」

水無瀬の頭の中には同一ルートを往復するという発想はほとんどない。しかし、ゆりかもめの展望席を確実に狙うなら同一ルート往復がもっとも適切という説もある。彼らは結局ゆりかもめ往復を選択。

有明テニスの森

いったんゆりかもめで新橋を往復し、品川へ都営バスで出ることにした二人。有明駅から徒歩20分。

香子
(次のバスは……9時16分?)
三橋
「まったくすごいとこだな」
香子
「記憶が正しければ、これは確か都営で唯一首都高経由便なのよね」
三橋
「ふーん」

遠くにバスが見えてきた。

三橋
「あれ?」
香子
「たぶん」
三橋
「品川駅行き?」
香子
「そうよ。滅茶苦茶な大回り路線なのよ。ゆりかもめよりはましだけど」
三橋
「確かにあれはひどいな」

首都高有明入り口

首都高の料金所で一時停止する。前方には東京港トンネルが口を開けている。

香子
「首都高は何回目だっけ……」
三橋
「そういえば、路線バスで首都高を通るのは少ないよね」
香子
「東京エリアでは臨海がらみしかないんじゃないかしら」
三橋
「福岡は派手に都市高速を使ってたでしょう」
香子
「大宰府までつながったのよね」

品川駅

バスから降りてこれからの予定を相談する二人。

三橋
「常磐線はどうなるの?」
香子
「11時ちょいだから、10時半に出れば間に合うわよ。 どこかで何か食べてきます?」
三橋
「いいね」
香子
「改築したから、駅の中に何かいいものがありそうよ」
結局駅の中で食事をして、京浜東北線に乗る。

三橋
「快速? 停車駅は?」
香子
「東京、秋葉、上野」
三橋
「新橋通過? ゆりか乗り継ぎを無視ってんの?」
香子
「わけわかんないわよね。東海道線もあるって言うのに」

ふたたび東京駅

有楽町を通過するとすぐに東京駅につく。

三橋
「上野の乗り継ぎは?」
香子
「6分。10番線」
三橋
「きつくない?」
香子
「筋トレだわね」

東京駅到着。しかし発車する気配がない。

車掌
「神田駅付近で架線にビニールが付着しました。現在除去作業を行っております」
とらぶる、勃発。

香子
「やば!」(山の手じゃ時間が……)車掌に尋ねる。「山手線は動いてますか?」
車掌
「山手線は大丈夫です」

香子
「乗り換えよ! 山手線」
三橋
「時間は大丈夫?」
香子
「日暮里まで行けばぎりぎりOKかな? くらい」

上野の乗り換えは基本的に遠いです。
 山手始発〜宇都宮・高崎線の乗り換えは池袋・赤羽経由でやりましょう(教訓モード)

日暮里駅

香子
「乗り換えランニングよ。常磐下りは4番線」
三橋
「らじゃー」

三橋が階段にたどり着いたとき、すでに乗り換えターゲットの土浦行きはホームに入っていた。

香子
「急いで!」

瀬戸際で乗車成功。乗ると同時にドアが閉まった。

常磐線車内

ちょうど着席ができる程度の混雑。まあ、時間帯と方向を考えればこんなものか。

香子
「ふう。間に合ったわね」
三橋
「瀬戸際だったね」
香子
「これに乗れれば関鉄竜ケ崎線はいけるわよ。どうする?」
三橋
「GO!」
香子
「じゃあ佐貫駅下車ね」

佐貫駅前

常磐線も取手を過ぎると少々ローカル色が出てくる。
 朝夕は殺人的混雑だが。

香子
「食事どうする?」
三橋
「よく胃袋に余裕があるな。立ち食いくらいしか無理だろ?」
香子
「そうね。ちょっとバス停を見てくるわ」

つくばからは近いはずなのに、筑波路線のバスは存在しなかった。

関鉄竜ケ崎線ホーム

ろーかる。片面ホームに線路一本。
 こういう終着駅は実は日本全国を見渡しても少ない。

三橋
「まったくローカルだな」
香子
「DC単行は凄いわね。しかもタブレット閉塞」
三橋
「車内置きっぱなし? ひょっとして交換駅ないの?」
香子
「スジによると、なさそうね」
三橋
「でも関鉄は儲かってるんだろ?」
香子
「前読んだ本によると、関鉄は電化していないためにかなりの損失を出す計算になっているらしいわよ」
三橋
「確かに国鉄なら電化しかねないな。これだけ乗ってれば」
香子
「明神行きJR吹利線よりはよっぽど乗ってるわね」

再び常磐線

勝田行きに乗った二人。土浦を過ぎると鈍行の本数が急減するので、気をつけないといけない。

三橋
「あと何分くらい?」
香子
「一時間。そうそう、土浦で長時間停車あるわよ」
三橋
「ホームに下りる?」
香子
「あたりまえじゃないの。分割するはずだから見に行きましょ」

土浦駅

三橋
「ここから分割?」
香子
「そのはず」

編成の前半分を切り落として、身軽になって水戸方面へ向かう。

三橋
「こっちの車両はここ止まりですよ」
客A
「そうなの?」(慌てる)
香子
(独り言)「行き先表示くらい見ましょう」

友部駅

常磐線を捨て、水戸線電車に乗り換え。4両。

三橋
「空気輸送とまでは言わんが、輸送過剰だな」
香子
「そうね。まさか混みそうにないし」

TRPG.NET にアクセスし、一行掲示板に書き込む水無瀬。
 
 花咲@常磐線友部駅+さいころ
  なんか列車の遅れが続いてます。 2D6で、出目は[ 3 ]です。
 
 書き込んだ直後に、再び不吉な放送が。

車掌
「発車時刻となっておりますが、常磐線上り電車が遅れております関係で、発車を待ちます。しばらくお待ちください。お急ぎのところ大変申し訳ございません」
香子
「大丈夫かな……」
三橋
「なんとかなるだろ?」
香子
「それがねえ〜」

時刻表を開いて、上り列車と下り列車の時刻を見比べる。
 ポイントは各駅間の所要時間。

香子
「このとおり、余裕時分がぜんぜんないのよ」
三橋
「すれ違いを変えて調節できない?」
香子
「それも無理なの。やると、もっと遅れが激しくなるばかり」
三橋
「まあ、東北線は二十X分乗り換えだろ?」
香子
「それもそうね」

とりあえず3分遅れで発車。これならうまくいけばぎりぎり小山は定時に着けるかも知れない。期待は出来ないが。

下館駅手前

香子
「次が下館ね。関鉄常総線乗換え」

列車はホームのないところで停車した。しかも、雰囲気的に駅とはかけ離れている。関東鉄道のレールもまったく見えない。

車掌
「置石がありました関係で、しばらく停車します。お急ぎのところ大変申し訳ございません」

慌てて一番前へ移動する水無瀬。
 三橋は「水無瀬ノートパソコン」を開いて TRPG.NET にアクセス。
 
 花咲@水戸線下館駅手前+さいころ
  置石で立ち往生。 2D6で、出目は[ 8 ]です。
 
 8分ほど停車していただろうか。列車は発車した。

香子
「まったく置石はいやね。 ……って、ひょっとしてカキコした?」
三橋
「うん。さいころ8出たよ」
香子
「上向いてきたわね」

小山駅

香子
「13分遅れ…… 少し回復したようね」
三橋
「どーする? 宇都宮行きを待つ?」
香子
「せっかくだから、小金井行きがあればそっちにしましょ?」
三橋
「すぐ出るよ」
香子
「ちょうどいいわね」

小金井行きは次が終点。しかし……
  空気輸送。

香子
「何これ! 空気輸送じゃないの」
三橋
「客=ぜろはひどいな」

前のほうの車両は2両くらい人がいなかった。

小金井駅

上に新幹線の高架が覆い被さってくる。一応運転上の主要駅だからそれなりの駅の規模ではあるが、客は少ない。朝はひょっとしたら満員になるのかもしれないが。

香子
「さすがに小山過ぎるとローカルね。水戸線といい、宇都宮線といい」

再び宇都宮行きを捕まえる。さっきよりは混んでいたが、がらすき。

宇都宮駅〜

香子
「宇都宮といえば、餃子を忘れちゃだめよね。たしかこっちに立ち食い餃子屋が…… あった、あった」

宇都宮駅には「立ち食い餃子」なるとてつもないものがある。メニューは餃子と酒類。水無瀬はもちろんビール1缶追加。

三橋
「餃子、…… 1人前。って180円?」
香子
「安いわよね」

すかさず一人前の持ち帰りを確保する三橋であった。

香子
「意地汚いわよ」
三橋
「いいじゃないの」

渋谷での待ち合わせを考えると、宇都宮滞在は30分程度。

香子
「そろそろ行きましょ」
三橋
「そうだな」

宇都宮線鈍行。行きのルートをもどるだけ。
 大宮をめざす。

香子
「あら、もう東大宮?」
三橋
「そろそろだな。そういえば列車も込んできたし」

そろそろ逆方向とはいえラッシュに差し掛かる。こんでくるのはある意味であたりまえ。
 大宮では地下ホームへの乗り継ぎ。ラッシュの関係で乗り換え通路が込んでおり、普段より余計に時間がかかる。

渋谷駅到着

京葉線東京駅よりはましだが、それでも悪名高い埼京線渋谷。
 まあ、新南口の工事は始まっていたが。

香子
「さっきの8から調子がいいわね」
三橋
「まったくだ」
香子
「どこで待ち合わせだっけ?」
三橋
「君が待ち合わせたんじゃないの?」
香子
「ハチ公口だったかな?」
三橋
「俺は君についてくしかないんだから」
香子
「ふ〜ん、フツーそこまで言う?」
三橋
「あれじゃないの?」

手を振る沢野口。待ち合わせ成功。

香子
「あれだ。こんばんわ!」
沢野口
「お久しぶり。旅行はどうだった?」
香子
「遅れがひどくて……」
沢野口
「みたいだね。一行掲示板は見せてもらったよ」
三橋
「おひさしぶりでございます」
沢野口
「それじゃうちへいこうか。東横線祐天寺」
香子
「バス乗りません?」
沢野口
「洗足路線? 代官山路線?」
香子
「代官山路線って……」(汗)
沢野口
「知らないの? トランセ便だよ」
三橋
「ミニバスですか?」
沢野口
「そう」
香子
「じゃあ代官山路線でお願いします」

東急バスの風物詩・滅茶苦茶な道路を一回りして代官山駅へ。
 途中、18%の下り坂とかを通る。どう見ても路線バス向けの道ではない。

沢野口家

なんだかんだで、とにかく沢野口家で宴会。

沢野口
「とりあえず前途の無事を願って乾杯〜!」
香子
「かんぱ〜い!」
沢野口
「来年はがんばってね〜」
三橋
「入試問題、事前に手に入らないですか?」
沢野口
「それはさすがにまずいよ。やる気もないし」

そりゃそうだ。入試問題が事前に流れたらやばいが。

沢野口
「まあ、出そうな問題くらいはわかるけど。」
香子
「何が出るんですか?」
沢野口
「理系だよね?だったら、数3積分と……」
三橋
「あたりまえじゃないですか」

確かに後1年。そろそろ水無瀬も旅行を押さえなければ……
 
 でも、血が騒ぐのはとめられない……

三橋
「東京で誰かと合流するの?」
香子
「うん、香澄水ちゃんと。」
沢野口
「ああ、いつかの妹さん?」
香子
「はい」
三橋
「またねずみの黒焼きとか持ってくるんじゃねーだろーな?」
香子
「さあね。香澄水ちゃんのことだからやりかねないかもね」
沢野口
「黒魔術師だっけ?」
香子
「オカルト系は黒魔術でも、なんでもOKです。」
沢野口
「そういえば、こないだ『イエツィラーの書』の原書を手に入れたから、そちらに送るよ。私が使うより香澄水ちゃんに使ってもらったほうがよさそうだ。」
香子
「どうもありがとうございます。」

結局、一晩でビール大瓶4本、ウイスキーボトル1本が空いた。
 まあ、水無瀬香子が絡む宴会はいつもこうなる。
 75%は水無瀬一人で片付けたようだ。

沢野口
「Mえちごでしょ?そろそろ出たほうがいいな。」

新宿駅へ東横・山手線で移動する。

新宿駅

沢野口
「僕も行こうかな……」
香子
「いらっしゃいよ。実は指定が1枚あまってるのよ」
三橋
「払い戻さなかったの?」
水無瀬
「払い戻しに行くと面倒くさいじゃん。190円のために?」
沢野口
「どこまで?」
香子
「どこまでもどうぞ」
沢野口
「じゃあ新潟までいい?」
香子
「どうぞ」

ひょんなことから新潟までお宅二人と同行する羽目になった沢野口。

香子
「あ、そろそろだわ」
三橋
「どうしたの?」
香子
「香澄水ちゃんが来るのよ」
三橋
「君、旅行に連れてく気?」
香子
「いいじゃん?」
沢野口
「体力大丈夫か?」
香子
「よくあちこち連れまわしてますから、大丈夫なはずです」
三橋
「それはいいけどねえ……」

みんなで中央快速ホームへ移動。新宿始発高尾行き特快の待ち客がホームを埋める。

香子
「あ、いたいた。香澄水ちゃ〜ん!」
三橋
「おっひさっしぶっり〜」
沢野口
「あれ? 香澄水ちゃんははじめましてかな?」
香澄水
「この方、どなた?」
香子
「沢野口さん。ごあいさつするのよ」
香澄水
「はじめまして」(ぺこり)
三橋
「こういうことか。これで指定4枚取ってたんだな」
香子
「これは俊治君の分なんだけど、来れなくなったのよ」
沢野口
「そろそろ入線じゃないの?」
香子
「そうよね。じゃあホーム移動!」

車内

快速ムーンライトえちご。東京人にとっては定番の夜行列車だが、吹利在住の人間にとってはなかなか乗れるものではない。ただしこの状況は実質的には水無瀬香子によって無効化される。彼女にとってはこれも定番夜行。

沢野口
「君はMえちご何回目だっけ?」
香子
「たしか17回目です」
沢野口
「うわ〜、俺より多いや」
三橋
「彼女、M九州とかは100回越えてますから」
香澄水
「いっつもお姉ちゃん旅行いっちゃって家にいないの〜」
三橋
「そんなに?」
香澄水
「私を連れてかないとカバラ十字切っちゃうから〜」
沢野口
「おいおい、それはやめとけ」
香澄水
「アッテ〜、マルクトゥ〜」
香子
「やばい!」(香澄水の頭を叩く)「こんなとこで黒魔術発動するんじゃない!」
沢野口
「凄いね、小学生でGD団の儀式をちゃんと知ってるなんて」
香子
「確か香澄水ちゃんはもう内陣入ってます」
沢野口
「それって、洒落にならなくない?」
三橋
(……ちんぷんかんぷん)
香澄水
「秘密にしなさいよ、おねえたん!」
三橋
「何の話?」
沢野口
「君は知らないほうが身のためだ」
香子
「フリーメーソンの話よ」(ふぅっ、うまく誤魔化せた……)

列車は無事定刻に発車。

香子
「明日の朝の乗り換え、遅れたらどうする?」
沢野口
「乗り換え3分だっけ?」
香子
「はい。まともに信越線で柏崎出ちゃいますか?」
三橋
「ほくほく乗れない?」
香澄水
「いけなかったらそのときよ、お姉ちゃん」
香子
「まあ、そうしましょうか」

闇を突いて走るMえちご。とっくに日付は変わり、次の停車駅は高崎。

香澄水
「高崎でコンビニ行きたい〜」
香子
「そりゃ行くけど、って寝なくて大丈夫?」
沢野口
「いま香澄水ちゃん時刻表見てないよね?」
香子
「はい?」
沢野口
「長時間停車を覚えさせたの?」
香子
「だってこれくらい常識でしょ?」

1:00、高崎到着。30分停車。

三橋
「コンビニは東口だっけ?」
沢野口
「だよね?」
香子
「ローソンが24時間なのよ」

荷物を客席においてみんなでコンビニへ繰り出す。
 小学生が混ざっているのは内緒(爆)
 
 お約束のC2H5OH関連アイテム仕入れも完了し、車内へ戻る。
 
 翌朝までは謎ということにしておこう(核爆)
 香澄水ちゃんに睡眠薬+アルコールを飲ませ、三人で酒盛り……してない!

新潟到着

香子
「もう新潟よ!」
香澄水
「えっ、早いね」
三橋
(笑)→凍りつく。よく考えたらこんなちっちゃい子が夜行でぐ〜すか寝ていること自体おかしい。
沢野口
「乗り換えは階段渡って別ホームよね」
香子
「2番線到着、4番線発車です」
沢野口
「僕は新幹線で帰るよ。1時間くらい待てばあるでしょ?」
三橋
「そんなもんです」
香子
「じゃあ私たちは乗り換えがあるんでこれで」
沢野口
「また今度ね」

越後線

このルートだと新潟でちょうど夜が明ける。そして吉田を過ぎて……

香澄水
「海がみえない〜」

そのとき、車掌が通りかかる。

車掌
「越後線からは海は見えないです。信越線に入らないと」
香子
「あ、どうも」
三橋
「しかし、君は吹利から東京まで香澄水ちゃんを一人で来させたわけ?」
香子
「吹利から東京なんて近いわよね。ねっ、香澄水ちゃん」
香澄水
「うん!」(にっこり)
三橋
「まったく水無瀬家は謎だ……」

信越線

香澄水
「駅弁は?」
香子
「直江津まで待って」
三橋
「このプランって、実は直江津で駅弁買い込まないとピンチじゃない?」
香子
「そうよ」
香澄水
「駅弁はお昼ごはん?」
香子
「そうね。直江津は立ち食いそばにしましょうか」

そして青海川駅。防波堤併設の駅として知られる。

香澄水
「海がきれい!」
香子
「そうね。今回は信越線で海は見納めよ」
三橋
「泳ぎたくならない?」
香子
「鉄道優先」

直江津駅

香澄水
「コンビニないの〜」
香子
「直江津にはないのよ。だから立ち食いそばで我慢ね」
三橋
「味は?」
香子
「う〜ん、そこそこ」
香澄水
「じゃあ、モズクそば!」

横には贅沢極まりない編成の快速信越リレー(特急編成!)が停まっている。しかもかなり空気輸送。

三橋
「車両が余ってるのはよ〜く分かるけど、贅沢だね」
香子
「後で分かるわよ」

この後、遅れているトワイライトエクスプレス(有珠山噴火による山線迂回の影響)からの接続待ちで5分ほど遅れて直江津発車。

信越線(続き)

新井、妙高方面へ向かう快速信越リレー。快速とはいうが、通過駅のほうが停車駅よりはるかに少ない。
 妙高高原。すでに新井あたりでぎっしり乗り込んで空席は消えうせているのに、まだまだ客が大量に乗ってくる。これでは積み残しが出かねない。

三橋
「何これ!」
香子
「こういう事なのよ」

豊野駅

本来は北長野で乗り換えの予定だったが、少々信越線が遅れた関係で北長野では間に合わなくなり、豊野。

香子
「ここは初めてなのよ」
三橋
「え? JR全駅完全乗降達成したんじゃないの?」
香子
「そんな無茶な!」

飯山線が到着する。1両ワンマン、通路までかなりぎっしり。

香澄水
「……」

飯山線

飯山を過ぎると、車窓に白いものが目立ち始める。

香澄水
「わーい、ゆきだ〜」
香子
「今年はたいしたことなさそうね」
三橋
「てーか、本命は只見線だろ?」
香子
「何メートル残ってるのかなあ」

結局、すわれたのは戸狩野沢を過ぎてから。

上越線

香子
「本数が少ないから、座るのも大変よね」
三橋
「後ろのほうには空席ありそうだよ」
香澄水
「移動しよ〜」
香子
「すいません」

さすがにボックス単位では空いておらず、相席。

地元人
「どうぞ。旅行中?」
三橋
「はい」
地元人
「ご一家で?」
三橋
「……」
香子
「……」
香澄水
「はい!」(元気たっぷり)

車内の温度が100度ほど落ちたことはいうまでもない。
 
 20分間の沈黙の後、小出駅到着。

小出

香澄水
「わ〜い、只見線只見線……」
香子
「二両…… これじゃ空気輸送決まりね」
三橋
「てゆ〜か、只見線は本数少なすぎ」
そのとき、車内前方から見覚えのある顔が……

滝川
「あれ? 『水無瀬徹』さん?」
三橋
「?」
滝川
「なんで只見線に……」
三橋
「射殺するぞ!」
香子
「滝川君? おひさしぶり〜」
三橋
「しかし、何で君が只見線に?」
香澄水
「滝川さんでしたっけ?」
滝川
「香澄水ちゃん? おひさしぶり〜」
香子
「あれ? どこで会ったんだっけ〜」
滝川
「いつかお宅にお邪魔させていただいたことがありまして」
香子
「あれ? うちに来たことあったっけ?」
三橋
「ほら、あのとき!」

(ここまで設定を詰めていないんで、ぼやかしモード)

香子
「ああ!」(思い出した)
三橋
「とゆ〜か、何で只見線……」
滝川
「書道部の合宿なんです」
三橋
「ど〜して只見沿線でやるかなあ〜」(呆)
香子
「ひょっとして、山菜共和国?」
滝川
「よくご存知ですねえ!」
香澄水
「おねーちゃんは日本のことは何でも知ってるの!」
滝川
「あっ、そうか」

そうこうしているうちに発車。入広瀬まで約30分。

只見線

香子
「只見線のスジを持ってきたんだけど、結構見事よね」
滝川
「スジって……」(汗)
三橋
「香子ちゃん、一般人の前でマニア用語は止めようよ」
香澄水
「ダイヤグラムです」
滝川
「読めないよ〜」(汗)

なんだかんだで、30分をタイムスリップさせることにする。

三橋
「それじゃまた学校で〜」
滝川
「おせわになりました」

香子
「まったく、只見線で吹利学校の人と出くわすとはね」
三橋
「全くだ。初めてでしょ?」
香子
「う〜ん、山口駅と中央線では一回ずつやったことあるけど、只見線で出くわすとは……今回の旅行では一番確率の低そうなとこだわ」
香澄水
「おね〜たん、そろそろ大白川でしょ?」
香子
「そうよ」

大白川駅。残雪2.5メートル以上(爆)
 そして六十里越。

三橋
「何これ! 3メートル越えてるよ!」
香澄水
「うわ〜」

何しろ、3月末というのに雪の壁で車窓が見えない(核爆)
 六十里越のトンネルを越えるとまもなく田子倉。

香澄水
「こんな駅、誰が乗るの?」
香子
「山男たちが乗ってくるの」
三橋
「それを言うなら雪男だって」

何しろ、この時期は駅へのアクセス道路である唯一の国道が「冬季閉鎖」で不通。常識的には誰も乗ってこないはずだが…… 乗客約6名。
 ついでに駅のホームは人間ではなく、テントで埋まっていた。

三橋
「……」(沈黙)

福島県突入

只見線は福島県内に入ってからしばらくが一番ローカル色の濃い区間である。なにしろ、しばらくは1日3往復の区間が続く。もちろん客は乗ってこない。

香澄水
「あ゛〜、ねむ」
三橋
「雪もおとなしくなってきたしねえ……」
香子
「携帯の電波も入らないし……」

会津若松駅手前

香子
「夕食、どうする?」
三橋
「喜多方だと最大滞在何時間?」
香子
「2時間くらいは取れるわよ」
香澄水
「ラーメン食べたい〜」
香子
(苦笑)

喜多方

ラーメン屋にて。

香澄水
「おいちい」
香子
「よかったわね〜」
店員
「どちらからいらっしゃったの?」
香子
「吹利からです」
店員
「今晩はここでお泊り?」
香子
「最終の磐西を捕まえて、新潟から東京回りで帰ります」
店員
「大変ねえ!」

喜多方レベルの街だと19時には完全に眠りについてしまう。最終の新津方面行きは19時59分。

磐越西線

磐越西線は完全に闇の中。山都、咲花、日出谷、五泉と鉄道マニアにとって聞き覚えのある(SLばんえつ物語関連)駅名が続く。
 五泉付近から新潟都市圏に差し掛かる。

三橋
「あれ〜、乗客総数11?」
香子
「で、4両? 金の無駄使いモードだわ」
香澄水
「すいてるね〜」

新津

香子
「さて、どうしようか?」
香澄水
「本買いたい〜」
三橋
「本屋とか開いてるのか?」
香子
「まあ、歩いてみましょう」

ちょうど雨が降り出した。でも駅前にアーケードがあるから大丈夫ということで……

三橋
「左!」
香子
「あら! 古本屋!」

全くぶったまげた。こんなところに古本屋がこんな時間(22時過ぎてます)まで開いてるとは……
 少し本を仕入れるが、すぐにひまになる。

香子
「新潟行っちゃいましょう」
三橋
「そうだな。夜行は早いうちに乗れと」

新潟

新津とはうってかわって、まだ人ごみが存在する。時刻はすでに23時。

駅員
「まだ使うの?」(18切符を指差して)
香子
「はい」

18きっぷは24時までの切符だから、そろそろ普通は使い終わりの時間。でもこのグループの場合はこれから夜行に乗るからまだまだ使う。
 当然のようにC2H5OHなドリンクを仕入れて、車内に持ち込む。

新津駅停車中

24:00.この瞬間、香子と三橋は正式に高校3年生になった。

香子
「進級おめでと〜」
三橋
「君に言われる道理はねえよ!」
香澄水
「まあ、いいじゃん」
香子
「そういえば、火撫くんはだめだったのよねえ」
三橋
「彼の冥福を祈って、乾杯!」
香澄水
「……」

そして睡眠モード。おやすみなさい〜

新宿駅

早朝5時。東京の町はとっくに目覚めている。
 ホームは混雑。

香澄水
「何これ〜 混んでる〜」
香子
「こんなもんよ。いつも。」

さて、関西方面へのルートは東海道か中央か二通り。

香子
「どっちで帰ろうか?」
三橋・香澄水
「中央線!」
香子
「OK」

さすがたっきー^3(爆)

時系列

2000年3月29日深夜吹利発、4月1日夕方吹利着。

解説

水無瀬一家(親除く・三橋含む)の旅行。ある意味定番ルート。
 基本的にはオール鈍行である。



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