- 比企玉緒(ひき・たまお)
- 吹利高校実験科の二年生。化学部には
-
- ごくたまに顔を出す程度。やや悪趣味。
- 染木忍(そめき・しのぶ)
- 謎多き美人教師。化学部顧問。
- 火撫楓(ひなず・かえで)
- 吹利高校実験科の二年生。化学部の部長。
いつもより早めにホームルームが終わったある日のこと。火撫が意気揚々と化学実験室の扉を開けるのだが。
- 火撫
- 「比企さん、ビーカーでトマトジュース飲むのはやめてぇ」
目に入ってきた光景に力なく呻く。
薄暗い化学実験室で独りジュースを飲んでいたのである。
- 玉緒
- 「トマトジュースに……見えるのね?」
- 火撫
- 「おいっ、まさか、生き血じゃないだろうなっ!?」
真っ赤で、トロリとしている液体……。トマトジュースではないとしたら、生き血の他に何がある?
- 玉緒
- (窓の外を見て)「……もうすぐ、梅雨ね」
- 火撫
- 「話、そらすし(しくしく)」
- 玉緒
- 「気にしないで、そのうちいいことあるわ……たぶん」
- 火撫
- 「あうぅ〜、もう生き血でもなんでもいいから他の人が来る前に飲んじゃって……。化学部が変な目で見られかねないからぁ……」
ビーカーの中の液体はまだかなり残っている。
- 玉緒
- 「わかったわ……」
そう言って、玉緒が飲みだすと同時に。
- SE
- がちゃっ
謀ったかのように、実験室の扉が開かれた。
- 染木
- 「んー、ビーカーをコップ代わりに使うのはいいけどしっかり洗ってから使いなさい。何がついているかわからないんだから」
- 玉緒
- 「お気遣いどうも」
- 火撫
- 「先生? おどろかないんですか?」
- 染木
- 「ビーカーの中身のこと? まあ、好みは人それぞれだから、あまり立ち入るのもね」
- 玉緒
- 「おいしいのよ。先生もおひとつどうですか?」
- 火撫
- 「勧めんなよ、おい」
- 染木
- 「せっかくだけど、遠慮するわ。ビーカーでジュースを飲むのは私の好みじゃないのよ」
染木先生はいつものように穏やかな物腰でにこりと微笑む。
- 玉緒
- 「わかります?」
- 染木
- 「ま、教師の勘ってやつね」
- 火撫
- (教師の勘でわかるものなのか?)
火撫は内心つっこむ。
- 染木
- 「それじゃ、ちょっと職員室にいってくるから今日の実験始めるのはもう少し待っててね」
- 火撫
- 「あ、はーい」
化学室。再び二人だけでのんびりと。
- 火撫
- 「なんだ、やっぱりただのジュースだったんじゃないかぁ。比企さんのことだからてっきりさ〜」
安心した途端に少し喉が渇く。火撫はにこやかにビーカーに手を伸ばし、残った『ジュース』をごくごくっと軽快に飲み干す。
- 玉緒
- 「癖に、なるのよね」
その味は、まぎれもなくタバスコのそれ。冷水機へと走る火撫の目からは、ぽろぽろと涙。
神様は残酷だね。
いつだって僕に過酷な運命を用意してるんだ。
2000年梅雨入り直前のお話
これが日常なんです。
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