ある日の夕方。夕日の綺麗な日であった。
哲也がそれとなく言う。相手は奈緒子。会社帰りらしく、服装は、地味な色のブラウスにスカート。
“や”にアクセント。
じゃぁ、自分の家で食えばいいじゃないか。とは、哲也は言わない。好きな人に食べてもらうのは素直に嬉しい。多少文句が多くても。
これで決まった。哲也はいそいそと買い物に行く。奈緒子はついてこない。いつぞや、一緒に買い物に行って、哲也あまりのこだわりに閉口したからである。
その間奈緒子は、割と片付けられた部屋にごろりと横になり、ゲーム機と戯れる。一時期ゲームプログラマーを目指していた哲也の部屋には沢山のゲームがあり、奈緒子を飽きさせなかった。
買い物から帰ると、そのまま調理に取り掛かる。秋の夕暮れは案外と短い。調理が終わる頃にはすっかり日は暮れていた。
そして、夕食。
今日のニュースなぞを見ながら、無言で進む夕食。二人が付き合い始めてもう5年になる。毎日の会話はすっかり湿りがちであった。
TVの音が二人の沈黙を埋める。
沈黙を破るのは決まって奈緒子だった。今日の出来事をまるで小学生のように楽しそうに報告する。哲也は、茶をいれて、梨を剥きながらそれを聞いた。
8時が過ぎ、奈緒子が帰り支度を始めた。奈緒子の家は哲也の家から歩いて30分ほどの距離がある。
ばたんと音がして、戸が閉まった。
残った茶をすすりながら、哲也は幸せをかみ締めた。
2000年10月初め。吹利市の長生哲也の家。
なんでもない日常の幸せって奴ですか?そーいうの書いてみようと。ERさんに教わった、「軽く書く」って奴を自分なりにやってみようって事で、書いてみました。
一応エピソード処女作ですな。感想などいただけると嬉しいです。