エピソード1436『ある日の夕食』


目次


エピソード1436『ある日の夕食』

登場人物

長生哲也(ちょうせい・てつなり)
カレー魔術師
原口奈緒子(はらぐち・なおこ)
哲也の婚約者

本編

ある日の夕方。夕日の綺麗な日であった。

哲也
「今日の晩御飯な」

哲也がそれとなく言う。相手は奈緒子。会社帰りらしく、服装は、地味な色のブラウスにスカート。

奈緒子
「……カレーは私、やだからね」

“や”にアクセント。

哲也
「…………」

じゃぁ、自分の家で食えばいいじゃないか。とは、哲也は言わない。好きな人に食べてもらうのは素直に嬉しい。多少文句が多くても。

哲也
「じゃ、鯖味噌はどうだろうな」
奈緒子
「いいんじゃない」

これで決まった。哲也はいそいそと買い物に行く。奈緒子はついてこない。いつぞや、一緒に買い物に行って、哲也あまりのこだわりに閉口したからである。
 その間奈緒子は、割と片付けられた部屋にごろりと横になり、ゲーム機と戯れる。一時期ゲームプログラマーを目指していた哲也の部屋には沢山のゲームがあり、奈緒子を飽きさせなかった。
 買い物から帰ると、そのまま調理に取り掛かる。秋の夕暮れは案外と短い。調理が終わる頃にはすっかり日は暮れていた。
 そして、夕食。

哲也
「いただきます」
奈緒子
「いただきます」

今日のニュースなぞを見ながら、無言で進む夕食。二人が付き合い始めてもう5年になる。毎日の会話はすっかり湿りがちであった。

奈緒子
「ごちそうさま」
哲也
「お粗末さまでした」

TVの音が二人の沈黙を埋める。

奈緒子
「今日会社でね…」

沈黙を破るのは決まって奈緒子だった。今日の出来事をまるで小学生のように楽しそうに報告する。哲也は、茶をいれて、梨を剥きながらそれを聞いた。
 8時が過ぎ、奈緒子が帰り支度を始めた。奈緒子の家は哲也の家から歩いて30分ほどの距離がある。

奈緒子
「今日の鯖美味しかったよ。後、漬物。美味しく漬かってた」
哲也
「ありがとさん」
奈緒子
「じゃぁね」

ばたんと音がして、戸が閉まった。
 残った茶をすすりながら、哲也は幸せをかみ締めた。

時系列と場所

2000年10月初め。吹利市の長生哲也の家。

解説

なんでもない日常の幸せって奴ですか?そーいうの書いてみようと。ERさんに教わった、「軽く書く」って奴を自分なりにやってみようって事で、書いてみました。
 一応エピソード処女作ですな。感想などいただけると嬉しいです。



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