- 白雲 (はくうん)
- 魍魎喰らいの仙犬。通称、白犬。
- 一見普通の犬だが、不老長寿を体得している。
- 前野 みかん (まえの・みかん)
- 人狼の少女。
- 前野浩に拾われ、妹として暮らしている。
だんだんと風も温んできている、春の昼下がりの、川の土手。
先刻まで降っていた雨も止み、お散歩をしているみかんと白犬の姿があった。
- みかん
- 「……でね、きのうはしゅーぎょーしきだったの」
- 白雲
- 『ほほぉ』
幼い少女と、大きな大きな犬。
一風変わった取り合わせだが、言葉が通じるという点でお互いにとても貴重な話し相手になっている。
ちなみに言えば、白犬の方が遥かに年上ではある。
- みかん
- 「でね、そのあとね、つうちひょうをもらってね。それでおしまいなの。今日からはるやすみなんだよっ☆」
- 白雲
- 『満足の行く結果は、出せたのかね?』
- みかん
- 「うんっ、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、ほめてくれたのっ」
- 白雲
- 『そうかい。それは良かったじゃないかね』
- みかん
- 「えへへ……(てれっ)」
照れることしきり。昨夜の一家団欒が目に見えるようである。
- みかん
- 「それでねっ、らいしゅうのらいしゅうになったら、またがっこうがはじまるの。3年生になるんだよっ」
- 白雲
- 『3ねんせい……?』
白犬は、気になったことを問いかけてみた。
- 白雲
- 『お嬢ちゃんは、いつ大人になるのかね?』
- みかん
- 「へ?」
いきなり言われても、びっくりする……のだが。
- 白雲
- 『お兄さんやお姉さんのような姿に、なることだが』
- みかん
- 「んーっと……」
指折り数えてみる。
- みかん
- 「しょうがっこうをそつぎょうして、ちゅうがっこうがおわって、こうこうせいになって……」
- 白雲
- 『……それを、全部済ませるのかね?』
- みかん
- 「うん……ちかげおねえちゃんが去年までこうこうせいだったから……10ねんくらいかな?」
- 白雲
- 『お嬢ちゃんは……』
白犬は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
お嬢ちゃんは……人狼だから。
人狼は、もっと早く大人になれる。大人の姿をとれる。
早く大人になりたくは、ないかね?
……しかし、そのことを言うのは、止めた。
- 白雲
- 『……早く、大人になれると良いね』
- みかん
- 「うんっ。でも、がっこうでみんなとあそぶ方が、もっとたのしいとおもうのっ」
- 白雲
- 『そうかね』
白犬は、思う。
- 白雲
- 「(……平和な世の中に、なったものだ……)」
願わくば、この平和な時代が続いてくれますよう。
人狼が大人の姿を得ることに焦らずとも良い、平和な世の中が。
- 白雲
- 『今日は、お出かけすることは言ってあるのかね?』
- みかん
- 「うん、はるやすみはお昼はお出かけしていいっていわれたのっ(嬉)」
- 白雲
- 『じゃあ本町の方に行くが、一緒に行くかね?』
- みかん
- 「うんっ☆」
願わくばこの幼い人狼の未来に、幸多からんことを……。
小学校の終業式が終わって新学期に夢膨らむみかんと、犬属の先輩として彼女を微笑ましくも複雑な心境で見守る白犬の、とある春の日の1シーンです。
ちなみに、みかんちゃんの実際の成長予定は……
「ひ、ひみつ★」(ハリ=ハラさん)
だそうです(笑)
2000年3月25日(土)の午後。
連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部