無道邸の一室にて。
みかんが取り出したるは、一枚のエプロン。
小ぶりで(おそらくはみかん自身のだろう)、花柄にフリフリが付いている。
もとより白犬自身が着けられるわけではなく、みかんが抱きつくように白犬の首に腕を回して、前掛けよろしく何とかくくりつける。
いい匂いが漂ってくる。
ということは、みかんのお手製ということか?
大きな平皿に盛られて出されたのは、美味しそうなシチューである。
みかんの心遣いはもちろん嬉しいが、既に白犬は別のことを心配していた。
白犬は、犬であるから、直接口をつけて飲むわけだが。
こういったスープの類を飲むと、どうしても口の周りにべっとりと付いてしまう。人間なら「おひげー」などと言えば済むのだが、白犬のふさふさした毛並みに付くと、どうしてもそこから滴ってしまう。
……そう思うところで既に論点がずれているのだが。
結局、このシチューをぺろりといただいた後で彼は、舐めて取れなかった口の周りの汚れを何と絨毯にこすりつけて拭き取ってしまい、橘川さんにしっかりと怒られてしまったのであった。
終)
無道邸にて、みかんが白犬を手料理のシチューで接待してくれたときの一コマ。
2000年5月のある日のこと。
白犬が無道邸に出入りするようになっていくらか経った時を想定しています。