小説『図書室の風景』


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小説『図書室の風景』


「はいどうぞ」
「どうも」

 本を丁寧に差し出してくる三年の図書委員長は、言葉遣いも何となく丁寧で
こちらがつられる。
 新着書。取り合いになるので、まずは確保。

「中公新書の宦官の本、帰ってきてますか?」
「ええっと……ええ、そこの棚に」
「はい」

 一礼してから、本を探す。
 視線の中に、いつぞやの図書委員の顔が入る。
 きつめの、でも綺麗な顔の……佐柄夢希と、いったっけか。
 本を、理力で持ち上げていた奴。
 ……エネルギーの有り余っている類、かもしれず。

 探していた本は、成程、以前の位置に収まっていた。

「?」

 借りに行こうとして、コルクボードに張ってある図書広報に気が付く。
 百人一首……か。
 百句覚えている自信はあるが、上の句数文字で下の句を連想するような器用な
真似が出来ない。
 しかし……三千円は大きい。取りあえず情報として記憶しておく。

 そして……
 
「長期貸し出し?」
「水無瀬川さん、回収やってみない?」

 呟いた積りが、しっかり聞こえていたらしい。

「というと?」
 長期貸し出し者から、本を回収する係。そこに書いてあるでしょ?」
「……」

 確かに書いてある。
 思考する。
 自分の読んでいない本があると思うと腹が立つが、しかし借りた連中皆が、
こちらの読みたい本を持っているわけでもないだろう。
 
「……考えておきます」

 読みたくも無い本の為に時間を潰すのも莫迦らしい……とは、腹の中で
呟いておく。
 三年の先輩に、無用にたてつく必要もあるまい。

「宜しくね」

 眼鏡の奥で、図書委員長はにっこり笑った。

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 今のところ、百人一首大会にも、本回収にも、気は引かれるがその程度、
 というところでしょうか。

 にっこり笑っていらっしゃるのが、図書委員長の「望月綾香さん」です。

 でわでわ。



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