静かな喫茶店。などと人は言うけれども。
ケーキの一番角の部分をほんのわずかだけ削る。
小さな粒になって、フォークの先についた、スポンジ。
ケーキのスポンジを。崩す。
世界の構造を。
俺達はいつも少しずつ少しずつ崩しているのかもしれない。
世界の構造を暴くことで。世界の真相を知ってしまうことで。
世界そのものをこのケーキのように。
小麦粉のダマを。削り取るように。
そう考えると、口元が緩むのを留められない。
世界の闇を覗き込めるのならば。本望だ。
世界の深層はいつも闇の中にある。
誰が世界の深層を本当に知っていようか。
「誰が死んだの?」
彼女はそう尋ねる。
「……………べつに…………たくさん死んでしまった、だけ」
人間なんて簡単に死ぬ。
人外だって簡単に死ぬ。
自分だってその例外じゃない。
「こっちに来るのは、いつ?」
彼女はいつも尋ねるばかり。
「まだまだ先の予定。……………あるいはもうそっち側かも」
小麦粉のダマを削り取る。フォークの角の先に付いたわずかな破
片を舌先で舐め取る。
紅茶の薫りだけが。
静かに腐る。
(終)
西田七緒:吹利県警捜査零課3班の刑事。広域霊感を持つナメクジ刑事。
西田七緒の日常の一端。
得意技のケーキ崩しを当人のなかからみた情景。
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