小説002『ケーキ崩し』


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小説002『ケーキ崩し』


本文

 静かな喫茶店。などと人は言うけれども。
 ケーキの一番角の部分をほんのわずかだけ削る。
 小さな粒になって、フォークの先についた、スポンジ。
 ケーキのスポンジを。崩す。
 世界の構造を。
 俺達はいつも少しずつ少しずつ崩しているのかもしれない。
 世界の構造を暴くことで。世界の真相を知ってしまうことで。
 世界そのものをこのケーキのように。
 小麦粉のダマを。削り取るように。
 そう考えると、口元が緩むのを留められない。
 世界の闇を覗き込めるのならば。本望だ。
 世界の深層はいつも闇の中にある。
 誰が世界の深層を本当に知っていようか。
「誰が死んだの?」
 彼女はそう尋ねる。
「……………べつに…………たくさん死んでしまった、だけ」
 人間なんて簡単に死ぬ。
 人外だって簡単に死ぬ。
 自分だってその例外じゃない。
「こっちに来るのは、いつ?」
 彼女はいつも尋ねるばかり。
「まだまだ先の予定。……………あるいはもうそっち側かも」
 小麦粉のダマを削り取る。フォークの角の先に付いたわずかな破
片を舌先で舐め取る。
 紅茶の薫りだけが。
 静かに腐る。

                           (終)


登場人物

 西田七緒:吹利県警捜査零課3班の刑事。広域霊感を持つナメクジ刑事。


解説

 西田七緒の日常の一端。
 得意技のケーキ崩しを当人のなかからみた情景。



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