小説『声なき悲鳴』


目次



小説『声なき悲鳴』



登場人物

 宮部晃一	:超能力実験体
 その他大勢	:適当な科学者


本編

『お母さん……さみしいよ……外に出たいよ』
 誰にも届かない心の叫び……。
 見えるのはリノリウムの床、立ち並ぶ機械、白衣を着た大人達。
「心拍数、異常ありません」
「血圧、平均値です」
「脳波、正常です」
「感情起伏値、安定しています」
 飾りのない広い部屋に無機質な声だけが響く。
『……お母さん……誰も……オトモダチに……なってくれないよ……』
 固いベッドの上。さっきから体が締め付けられるような圧迫感が続いている。
「よし、超能力阻害シールド解除」
 ふいに体がすぅっと軽くなる、でもしびれたように体が動かない。
「晃一君、聞こえるかい?」
「まだ、先ほどのパラライズの効果が残ってるようですね」
「そうか、しかし今日はやけに反抗するな」
「はい、最近はシールドの抑圧にも抵抗するになってきました」
「それはまずいな、あまりに反発するようではこれからの研究に支障をきたす」
 大人達の言ってる事の意味はよく分からない。でも……、誰もオトモダチに
なってくれないことははっきり分かる。
『……おかあさん……たすけて……』
 ぎらぎらと照らす照明。覗き込む大人達。
『……そとにでたい……』
 悲鳴にも似た心の叫びがあたりに響く。しかし、完全に超能力防御のされて
いる大人達には叫びは聞こえない。
『……たすけて……』
 声のない悲鳴はどこまでも……どこまでも……厚い壁を抜け、夜の街にすい
こまれていった。



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