登場人物


目次


エピソード『蟋蟀(こおろぎ)』
===========================

登場人物

 宮部晃一(みやべ・こういち)	:強化超能力少年。
 鬼崎野枝実(きざき・のえみ)	:影使い、現在の晃一の保護者代り
 鬼李(きり)			:野枝実の相棒の影猫
 本宮友久(もとみや・ともひさ)	:空間操作能力者、野枝実の家に居候



本編

 お昼過ぎ、アパートで鬼李を抱きかかえ、ぼんやりしている晃一。不意に玄
関の空間が歪み、友久の体が現れる。

 晃一		:『お帰りなさいお兄ちゃん』
 友久		:「なんだ、野枝実はまだ帰ってないのか」
 鬼李		:「れぽーとがどうしたと言っていたぞ」
 友久		:「なるほどな、丁度いい」

 にやにやと子供っぽい顔で笑いながら晃一を手招きする。

 友久		:「晃一、いいもんやるぜ。ちょっと来い」
 晃一		:『いいもの?』
 友久		:「ちっと目つぶって手ぇだしな」
 鬼李		:「変なものではないだろうな」
 友久		:「まともなもんだぜ」

 目を閉じて、おずおずと手を出す晃一。

 友久		:「逃がすなよ」

 そっと晃一の手の平に手を重ねる。

 友久		:「ほら」
 晃一		:『わ……』

 晃一の手の平に茶色いグロテスクな小さな生き物が乗っている。今にも手か
ら飛びだそうとして、慌てて手を閉じ、捕まえる。

 晃一		:『お兄ちゃんこれ何?』
 友久		:「これか、コオロギだ」
 晃一		:『こおろぎ?』
 鬼李		:「コオロギか、よく食べたな」
 晃一		:『コオロギ……はじめて見た』

 めずらしげに手の中を覗き込む。

 晃一		:『ありがとうっお兄ちゃん!』

 嬉しくてしょうがないといった顔で元気にお礼を言う晃一。

 友久		:「え、ああ……よかったな」
 晃一		:『うんっ』

 晃一のあまりの反応に少し面食らった様子の友久。

 友久		:「あんなに……喜ぶもんか、普通」
 鬼李		:「何かを貰った経験すらほとんどなかったんだろうな」
 友久		:「たかが虫一匹でか」
 鬼李		:「価値があるないは関係ないさ」

 そして……程なく、野枝実が帰ってきた。

 野枝実	:「ただいま」
 晃一		:『おかえりっ! 野枝実お姉ちゃん見て見て』
 野枝実	:「どうしたの少年?」
 晃一		:『これっ』

 差し出したもの、籠に入れられた一匹のコオロギ

 野枝実	:「何これ?」
 晃一		:『コオロギ! お兄ちゃんがくれたの』
 野枝実	:「友久が」
 晃一		:『うんっ』

 元気に答える晃一。その後の食事の間もコオロギの話題で持ちきりだった。

 晃一		:『お兄ちゃん、コオロギどこにいたの?』
 友久		:「すぐそこの河原に一杯いたけどな」
 晃一		:『明日、せんせのとこにコオロギ持っていく』
 野枝実	:「中原さんのとこ?」
 晃一		:『うん、新くんにもコオロギ見せてあげるの』
 友久		:「そんなめずらしいもんでもないんだが……」
 晃一		:『コオロギって何食べるのかなぁ?』
 野枝実	:「何食べるの?」
 友久		:「知らん、飼ったことはない」
 鬼李		:「捕まえておいて無責任だな」
 友久		:「あくまで俺は捕まえる係で、面倒は弟共が見てたからな」
 野枝実	:「へぇあんた弟いたの?」

 野枝実の何気ない一言に、一瞬はっとした表情になる友久。少し慌てて言葉
を濁す。

 友久		:「あ……いや、とにかくわからん」
 野枝実	:「そう」

 そして、食事を終えて、枕元に虫の入った籠を置く晃一。

 晃一		:『早く明日にならないかなぁ』
 鬼李		:「そうだな」
 晃一		:『新くんにも、コオロギ捕まえてくれないかな』
 鬼李		:「今度、本宮くんにお願いしような」
 晃一		:『うん』

 そして程なく。はしゃぎ疲れたのか、晃一はすぐ寝入ってしまった。日本酒
の入ったコップを片手に、ぐっすりと眠る晃一の寝顔を見ている野枝実。

 鬼李		:「やっぱり男の子だな、晃一は」
 野枝実	:「確かに、あいつにしてはめずらしく役に立った」
 鬼李		:「そう言えば本宮君は?」
 野枝実	:「さあ? タバコじゃない」

 そして、アパートの外。手すりに寄りかかり、タバコをふかしてる友久。さっ
きまでの嬉しそうな晃一の顔を思い出す。

 友久		:「けっ……」

 溜息混じりに煙を吐き出す。

 友久		:「たかだか虫一匹で……馬鹿みたいにはしゃぎやがって」

 そっと目を閉じる、頭に懐かしい言葉が響く。
『和久、いいもんやるぜ』
『えっ? いいものって何?』
『ちょっと目つぶって手だしな』
 もう昔の事。
『友兄ちゃんこれ何?』
『コオロギだ』
『こおろぎ? これが? ありがとうっ友兄ちゃん』
 嬉しそうに笑う弟の顔。
『友兄ちゃん、コオロギって何食べるのっ?』
『図鑑で調べろよ』
『うんっ』
 毎日せっせと餌をやってコオロギの世話をしていた弟。

 友久		:「同じこと……言いやがる」

 肩を竦め小さく笑い……背後に気配を感じ振り向く。そこにいたのは……

 友久		:「野枝実か」
 野枝実	:「まだ起きてたの」
 友久		:「ん……ああ、ちょっとな」

 曖昧な答えを返す友久。野枝実もそれ以上は聞こうとはしなかった。

 友久		:「さ……て、寝るか」
 野枝実	:「そうね」



解説

 野枝実宅在住の面々が、ますます疑似家族化していく情景のひとこま。
 友久の家族への思いと対比することで、新たな家族という光景を演出してい
るんだと思います。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作“語り部”総本部