エピソード『基準?』


目次



エピソード『基準?』


登場人物

 森江新(もりえ・あらた)	:先天的な操水術士:
 加賀閑哉(かが・しづなり)	:親ばか(新バカ)な水道局情報員:
 薔氷冴(みずたで・ひさえ)	:バー FROZEN ROSES の経営者。呪符使い。
 我那覇鷹央(がなは・ようおう)	:老若男女どんな人間にも化けられる役者。


本文

 カララン! とドアが元気に鳴る。古めかしいバーには不釣り合いな音。そ
して、不釣り合いな人物が入ってくる。

 新		:「しづ! はーやくっ。このお店でしょ?」

 くるりとドアの外に声をかける。どう見ても7〜8歳の男の子。日焼けした
肌と勝ち気な瞳が印象的だ。

 加賀		:「新、そんなに急がなくても……」

 その言葉は最後まで言われることなく鈍い音がし、つられてドアベルが鳴る。
ごぃん……カララン

 氷冴		:「ドアは押して入るものよ(くす) 変わったお客様ね」
 加賀		:「……ああ、申し訳ない」
 氷冴		:「お連れのコも変わってるわね。子連れでこの店に来たの
		:は貴方がはじめてよ」
 加賀		:「そうだろうなぁ。フロリダ貰えるか?」
 氷冴		:「フロリダ……ね。貴方が?」
 加賀		:「いや、新に……って、新?」

 きょろと辺りを見回す。グランドピアノのあるステージ。じぃっとピアノの
前に張り付いている。

 鷹央		:「(くす) これが気に入ったの? 坊や」
 新		:「うん! まえね、麻衣ちゃんの家でみたことあるよ。僕
		:がさわった時は、こんなおとしなかったよ。なんでかなぁ」
 鷹央		:「前はどんな音がしたのかしらね?」
 新		:「うーんとね、ダンダーンっておと!」
 鷹央		:「坊やと同じで元気そうな音ね。あら、お父さんが呼んで
		:いるわよ」
 加賀		:「新、邪魔しちゃだめだろ」
 新		:「はぁーい。じゃぁね、おねーさん!」

 くす……と笑い、手を振るとゆるやかに歌い始める。深く澄んだ声が流れて
ゆく。

 氷冴		:「で、子連れでなんの御用かしら? 加賀さん」
 加賀		:「今日は飲みにきただけ」
 氷冴		:「君に会いに来た、くらい言えないのかしらね」
 加賀		:「そんなに上手に滑る口は持ち合わせてないんでね。……
		:そうだな、君の髪が見たくてってのは?」
 氷冴		:「なかなか滑る口ね。はい、フロリダ」
 加賀		:「おう、ほら新」
 新		:「ありがとー、おばちゃん!」

 静寂。気のせいか店の温度が3度下がったような気がした。

 氷冴		:「……どういたしまして、新くん(にっこり)」
 加賀		:「(……顔は笑ってるが、こめかみにアヲスジが(滝汗))
		:新……」
 新		:「どーしたの? しづ。顔、あおいよ??」

 がしっと新を小脇に抱えると、もの凄いスピードでドアに駆けていく。遠く
から

 加賀		:「すまん! 代金は付けといてくれーーーー!!」
 新		:「しづ。僕まだ飲んでないよぉーーー!」


 その夜、吹利の町に一陣の突風が吹き荒れた。


解説

 加賀+新、FROZEN ROSESに初登場……というところですが。加賀がでてくる
と、どうにもコメディとなってしまいますね。



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