鬼崎野枝実(きざき・のえみ) :影使い、現在の晃一の保護者代り
本宮友久(もとみや・ともひさ) :空間操作能力者、野枝実の家に居候
鬼李(きり) :野枝実の相棒の影猫
宮部晃一(みやべ・こういち) :強化超能力少年。
ガキの頃、近所の草原に……毎年、月見草が咲いていた。
長谷川宅で夕食を食べた帰り、いつものように晃一を負ぶって帰る。河原の
側を通りかかる。ふと、一輪の花が友久の目に付いた。月の光を浴び、ほのか
に淡い色の花弁を揺らす花一輪。
友久 :「まだ、咲いてたんだな」
月見草……夏の夜に咲く一輪の花。夕方、花開いて、朝を待たずにしぼんで
いく花。淡い、ほのか、静寂……そんな印象を抱く花。思わず花に引き寄せら
れるようにがさがさと河原に踏み入っていく。
晃一 :『お兄ちゃん?』
鬼李 :「どうした」
友久 :「いや……これが、な」
鬼李 :「月見草か?」
友久 :「ああ」
昔は、昼間のしぼんだ花しか見たことがなかった。
『月見草は夕方から夜に咲くんだ、昼間は見れないんだ』
小さな頃、そう教えられた。月見草の咲く近所の河原は家からそう遠い所で
もなかった。でも、小さな頃はとても遠いところにあるように思えた。
いつだったか……夜中、家を抜け出して、近所の草原まで月見草を見に行っ
た。夜、すべてを覆い隠し鬼のうごめく刻。
風に揺れ、ざわめく草はうごめく亡霊。
夜空に浮かぶよどんだ雲は月を食らう悪魔の化身。
ざわざわと揺れる葉の音は鬼の嘆き声。
露に湿り、暗闇に浮かぶ小さな花々は……心惑わすあやかしの罠。
恐ろしかった夜の草原。でも……それは……すべて心の幻。心に染み付いた
恐怖が生み出す闇の者達。
しかし、程なく、捜しにきた父に見つかりひどく怒られた。そして、自分の
手を取って一緒に草原に咲く月見草を見に行ってくれた。思い出す、魔の草原
に浮かびあがるように咲いていた一輪の月見草。
友久 :「何年、見てなかっただろうな」
月に照らされたこの花を……。
不意に、きゅ……と晃一が服の裾を掴む。
友久 :「どうした? 晃一」
晃一 :『……怖い』
震える手、周りの暗闇に怯える黒い瞳。あの頃、自分はこんな目をしていた
のだろうか?
友久 :「帰るか、晃一」
ひょいと晃一を負ぶって、河原を後にした。最後に一度、月見草を振り仰い
で……。
友久が晃一に対して代理父てき心理的位置にある、もしくはそうなりつつあ
ることを示す、
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