エピソード『設計図』


目次



エピソード『設計図』


登場人物

 本宮友久(もとみや・ともひさ)	:魔性の瞳を持つ空間操作能力者
 宮部晃一(みやべ・こういち)	:強化超能力少年。
 谷山麻衣(たにがわ・まい)	:天才的な才能を持つ(鎮魂の)舞姫
 森江新(もりえ・あらた)	:先天的な操水術士


本文

 お昼過ぎ、近くの河原で。仲良く遊んでいる晃一と新、麻衣の三人。そして
子供らのお守り役として友久が不承不承付き添っていた。

 友久		:「保父さんじゃねえぞ……」

 ぶつぶついいながらも、それほど悪い気もしていないらしい。程なく、遊び
つかれた子供達がまとわりついてくる。

 晃一		:『友久お兄ちゃんの目、どうして青いの?』

 最初は晃一の何気ない一言だった。

 麻衣		:「ホントだね。お兄ちゃんの目、あたしたちと違う」
 新		:「なんで?」

 次々と不思議そうに覗き込む子供達の顔。あまり嬉しくない質問だが、あま
りに正直に聞いてくる子供達に、思わず笑って答える。

 友久		:「ああ、これか? これは俺のばあちゃんに似たんだ」
 麻衣		:「おばあちゃん?」
 新		:「友久おにーちゃんのおばあちゃんて、青い目だったの?」
 友久		:「そうだ、遠い外国から来た人で、俺と同じ青い瞳をして
		:いた。俺の目はそのばあちゃんに似て青いんだ」
 新		:「へぇ」
 麻衣		:「そうなんだ」

 納得する二人、しかし……

 晃一		:『どうして似てるの?』

 なぜ、似てるのか? 家族が似ている、そのことがわからない晃一。

 麻衣		:「おばあちゃんだからでしょ」
 晃一		:『どうして? おばあちゃんだとお兄ちゃんと似てるの?』
 友久		:「それは……」

 口ごもってしまう。親戚だから似てる。どうして? と聞かれてしまうと言
葉に詰まってしまう。こんな子供に遺伝子云々などと説明するのも無茶な話だ。
かといって、適当にお茶をにごすのも頭が痛い。

 晃一		:『お兄ちゃん?』

 不思議そうに顔を覗き込んでくる晃一。

 友久		:「ああ、それは……だ……な」

 少し、考える。晃一にどうやって説明するか……を。ひとつ、なんとか頭に
浮かぶ。

 友久		:「……お前達、設計図って知ってるか?」
 麻衣		:「はいっ! あたし知ってるっ」
 新		:「僕も知ってるっ」
 晃一		:『僕も』
 新		:「まもるちゃんとこにあった飛行機のプラモデルについて
		:たよ」
 友久		:「そうか。ともかく設計図ってのは、何かを作ろうとする
		:時、作る前に完成した姿を書いて、それにしたがって何か
		:を作るもんだ。わかるか?」

 なんとか子供にわかりやすいよう、簡単に説明する。肯き合う子供達三人。

 友久		:「と、話は変るが。猫の子は猫が生まれる。人の子供は人
		:が生まれる。これもわかるか?」

 いきなり関係のない話になって、不思議そうな顔になるが、肯く三人。

 友久		:「じゃ、なんで猫の子は猫になると思う?」

 顔を見合わせる子供達。

 新		:「そうだよね」
 麻衣		:「なんでかな?」
 晃一		:『なんでだろ?』

 友久		:「設計図があるんだ。猫には猫の、人には人の」

 ここでやっとさっきと話がつながる。が、やっぱりよくわかっていないらし
い子供達。

 友久		:「自分がどんな命になるのか、例えば人か、それとも猫か
		:みんな、それを示した設計図を持っている。子供が母さん
		:のお腹にいる時に、子供はそれぞれの設計図を元に、それ
		:に合わせて自分にを作る。人の子は人に、猫の子は猫に」

 神妙な顔で肯く三人。

 友久		:「そして、その設計図は自分の父親、母親から設計図を半
		:分づつ貰う。だから、子供は母親にも父親にも似ている。
		:その父親、母親もまた、自分の父母から半分づつ設計図を
		:貰ってる。つまり、俺の四分の一は、ばあちゃんから設計
		:図を貰ってることになる」

 ここで、晃一も理解したらしい。

 晃一		:『だから……』
 友久		:「そう。だから俺は、ばあちゃんから設計図の四分の一を
		:貰って、ばあちゃんと同じ青い目をしている」

 じっと見詰めてくる三人の瞳。

 友久		:「……わかってもらえたか?」

 こくん……と真面目な顔で肯く三人。うまく説明できた自信はないが、ある
程度は理解はしてもらえたらしい。

 友久		:「さ……て、疲れたろ。なんか、食べてくか?」

 神妙な顔になってしまった子供達に、なんとか違う話題を持ち出す。

 新		:「うん、食べてくっ」
 麻衣		:「あたしも行くっ」

 元気に答えてくる二人。

 友久		:「どうした、晃一?」
 晃一		:『え、うん。僕も行く』
 友久		:「よし、行くか」

 子供達と連れ立って歩き出す。歩きながら……考えてみる。さっきの自分の
言葉。受け継がれていく設計図。
 例えば……魔性の瞳を持つこと、鎮めの舞を踊ること、超能力を持つこと、
水を操ること。どれにしても、はじめから自分で望んだ持ったものではないだ
ろう。

 新		:「友久おにーちゃん。僕、パフェ食べたい」
 麻衣		:「あたしもっ」
 友久		:「わかったわかった。晃一、いくぞ」
 晃一		:『うん』

 晃一の手をつなぎ、麻衣と新に引っ張られながら歩く。
 この子らに何かをしてやれるわけでもない、でも。

 友久		:「……できることをするさ、俺に」
 晃一		:『お兄ちゃん?』
 麻衣		:「どうしたの? お兄ちゃん」
 友久		:「あ、いや何でもない」



解説

 特殊な血筋に生まれてしまったこと、その事じたいに思いをめぐらせる友久
の話ですか。



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