エピソード『天気明朗』


目次



エピソード『天気明朗』



本編

某日。野枝実の部屋から。

 晃一		:『お姉ちゃん、今日は空が青いね』
 野枝実	:「うん」

 この二三日、雨が多かった。今日はその分、空が蒼い。

 野枝実	:「段々空が深くなるね」
 晃一		:『深く?』
 野枝実	:「色が濃くなる」

 ふと、思い出す。あれは、三年前。一歩も前に進めなくなり、体を丸めて座
り込んでいた時。
 ……それでも空は蒼いだろうか。ふと、そんなことを考えて、空を見やった。
空は蒼かった。
 蒼い空を見て、憎いと思うか? ……憎いとは、少しも思わなかった。ただ、
にっちもさっちも行かない筈の自分の中に、そんな思考の横道にそれる余裕が
あるのがおかしかった。

 晃一		:『お兄ちゃんの目の色みたいだね』

 ぶっつり、と、記憶が途切れた。

 野枝実	:「……そう、かね」
 晃一		:『同じ、青だもん』
 野枝実	:「……そう、かね(嘆息)」

 思わず頭を抱える。晃一の言いたい事は判るし、反対すべきではないのだろ
うが。横目で眺めていた鬼李が、ふい、と野枝実の影の中に姿を消した。大笑
いしている気配だけが、伝わってくる。

 晃一		:『……違う?』
 野枝実	:「……晃一。この件で、同意を求めないでくれないかな」
 晃一		:『?』
 野枝実	:「空見て憂さ晴らしが出来なくなる」
 晃一		:『??』

 思いきり不思議そうな顔をされて、野枝実はそれ以上の交渉を断念した。

 野枝実	:「……鬼李。人の影の中で莫迦笑いしてんじゃないっ!」

 そして、程なく友久が帰ってきて夕食になる。その食事中……ふと顔をあげ
た時。同じく顔を上げた友久と一瞬目が合う。
 澄んだ青い瞳。さっきの秋の空を思い出させるような……深い蒼。とたんに
不機嫌そうな顔になる野枝実。

 友久		:「なんだよ。人の顔みるなり」
 野枝実	:「……うるさい」
 友久		:「?」

 仏頂面でふいとそっぽ向く野枝実。わけがわからず、不思議そうに隣の晃一
にこっそり話し掛ける。

 友久		:「どうしたんだ……あいつ」

 同じく不思議そうな顔で、ぷるぷると首を横に振る晃一。

 晃一		:『わかんない』

 その間、鬼李はひたすら笑い転げていた。


解説

 野枝実の心理描写的な話、ですかね。



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