狭間から吹く風とともに:1998/01/09-1


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狭間から吹く風とともに:1998/01/09-1

狭間から吹く風とともにって?

 本メールマガジンは、創作TRPG語り部の世界設定のひとつ、現代オカルト物 である http://kataribe.com/HA/ 狭間さまよえるもの達  に関して、編集済みエピソードとちょっとした新聞記事ふうのシナリオフッ ク、追加設定や前日の情報についてまとめてお伝えするというものです。  記述方式は setext 形式で、対応ツールを利用することでより読みやすく、 利用しやすくなります。 http://www.age.ne.jp/x/sf/SETEXT/ setextについて  編集は sfこと古谷俊一、連絡先は sf@x.age.ne.jp です。  発送には、インターネットの本屋さん『まぐまぐ http://www.mag2.com/ 』を 利用させていただいております。前回の発行部数は137部でした。  また、語り部通信倶楽部やサイバラ電劇ネットのような草の根BBSなどでも 配布されております。ちなみに転載は自由、引用は出所を明らかにすれば問題 ありませんし、シナリオネタとして利用する分にはとくに断る必要はありませ ん。  登録・解除は http://kataribe.com/HA/maga/ 狭間から吹く風とともに  の案内ページからお願いします。 > -【宣伝】----------------------------------------------------------- > 〜 その国は、そこを訪れる全ての人々の為に、常にそこに在る…… 〜 > TRPGサークル『冒険帝国』では、月一度の例会に参加して下さる会員・ゲス > トの方を、常時募集しております。下記までお気軽にお問い合わせ下さい。 > → 代表への E-mail GFF02522@niftyserve.or.jp > → 『冒険帝国』Page http://www2.osk.3web.ne.jp/~gombe/TRPG/BOUKEN/ > --------------------------------------------------------------------

ひとこと

 長らく停止しておりましたが、ぼちぼちと出していけるように努力します。  最近の展開の要約が、けっこう手間かかりますね。

最近の狭間の展開

http://kataribe.com/ML/ 語り部メーリングリスト  を中心に、狭間について先日にあった活動をお伝えするものです。  新着ページについては http://www.mahoroba.ne.jp/~furutani/kataribe/KATA_NEW.html 語り部関連ページ新着情報  もご利用くださいませ。  新型オンラインコミュニティシステムが完成したら、紹介には集約リンクな どもつく予定です。今回は1998年1月5〜8日のできごとです。

コード06『キャラからのエピソード作成』

http://kataribe.com/HA/06/ ・新規エピソード『年の瀬』  部屋の掃除を終えて、年の瀬の夜道を歩く花澄と譲羽。ふたりは穢れを掃除 する小さき神々の姿を見た……。 ・新規エピソード『筆まめ、筆不精』  大晦日、祖母の家に親戚とも度も集まった時、花澄は叔母にいとこたちから の手紙を見せられる……。 ・新規エピソード『除夜の鐘』  大晦日の夜遅く、留守番していた譲羽と除夜の鐘を聞きに出かける花澄は、 切り捨てられる煩悩たちの恨みの声を聞く……。 ・エピソード『25日・瑞鶴風景』  肴をつつきながら酒に興じる参加者の面々。平塚兄妹、高校生に酒すすめて ますなぁ。 ・エピソード『パーティーやろうぜっ!』  クリスマスエピソードですが、なんか最近宇宙刑事ショーと化してますな。 葵一さんによる仮編集が行われております。 ・キャラクター『練原努(ねるばる・つとむ)』 ・新規キャラクター『川島京の影:かげ』 ・新規エピソード『どこで雪が降ってるって?』  東京が雪で静止したある日、雪の中を帰るのが面倒になった茜は、ベーカリー 楠に遊びにテレポートすることにした。コートに残る雪を店長に見とがめられる 茜。関西はいま、雨なのだ……。

コード14『霞ヶ池の影』

http://kataribe.com/HA/14/ ・新規エピソード『年の始め』  新年二日目、祖母のもとを訪ねた野枝実は、着物を着せられてかえってくる が……。絹製拘束服とかいいつつ、ちゃんと着てかえるあたり、おばあちゃんっ 子なんでしょうかね。 ・玖珂一門に関する資料がアップデートされてます。 ・白井姉妹の進路について検討。  ひとみは葛城芸術大学声楽科、みきは紅雀院大学のどこかだそうです。

夕刊風都:1998年01月09日

猫に小判?

 吹利市で飼い猫が十万円の入った袋を拾い、話題になっている。  この猫は吹利市八幡町の野中宏昌さん(67)宅の飼い猫のミケで、20日の朝方、 ビニール袋に入った現金十万円を拾ってきたもの。  この珍事に飼い主の宏昌さんは、「汚い袋を拾ってきて、と捨てようとした ら現金が入っていたので、驚いた」と話している。

利用法

 なぜ現金がごみ袋に……ということについてアイデアをひねり回してみます と、幾つかシナリオが作成できそうです。動機探し、原因探しなど、推理もの 的な構成で進めるのが定番でしょうか。

最新編集済みストーリー:エピソード629『瓜双子』

http://kataribe.com/HA/06/P/ 狭間06エピソード集  に追加された編集済みエピソードです。  今回の話は、 http://kataribe.com/HA/06/P/6/HAP06629.HTM  にHTML化して編集公開してあります。

本編

 ベーカリー楠にて。  夕方、少し込みかかった店内に、美樹がやってくる。珍しいことにきっちり としたスーツ姿である。  観楠 :「あ、いらっしゃい」  美樹? :「そのサンドイッチ二つと、あとそこの牛乳一本」  観楠 :「(なんか、様子が変だな) あれ? コーヒーは」  美樹? :「俺はコーヒーは飲まないが」  観楠 :「(絶対おかしいぞ) 何かあったんですか?」  美樹? :「別に」  観楠 :「(な、なんだ?)」  美樹? :「それよか、レジは?」  観楠 :「(おかしいぞ、美樹さんの話し方じゃない)あ、はい、450 :円に」  美樹? :「おぅ(小銭受けに500円玉を置く)」  観楠 :「あの……美樹さん?」  美樹? :「……なんだ、もしかして兄貴の知り合いか?」  観楠 :「へ、あの、美樹さんじゃ……」  美樹? :「あんなのと一緒にしないでほしいな。俺は狭淵麻樹。美 :樹は双子の兄貴だ」  観楠 :「(弟さんか……ずいぶん美樹さんとは性格がちがうな) : はぁ、はじめまして、わたしはここの店長の湊川観楠で :す。美樹さんはよくその奥でコーヒー飲んでおられますけ :ど」  麻樹 :「あ、そうなのか。兄貴がいつも世話になってます」  観楠 :「いえいえ、こちらこそ」  ちょうど、もさったジーンズの上に白衣を引っかけたいつもの美樹が、ベー カリーの入口から入ってくる。  美樹 :「あ、店長、いつものコーヒーお願いします」  そう言いながら、麻樹の脇を抜けていつもの奥座席へ向かう。  麻樹 :「おぃ、美樹!」  美樹 :「……おや。麻樹ではないか。どうしました、こんなとこ :ろで」  麻樹 :「あのな、留守電聞いてねぇのか?」  美樹 :「そういえば、最近留守電を聞くのを忘れてますね」  麻樹 :「何回電話かけてもいねぇし」  美樹 :「そういえば、ここ三日ほど下宿に帰ってませんね」  麻樹 :「……何してんだ?」  美樹 :「研究ですが。一応」  麻樹 :「……ま、いい。しかし、つかまって良かったぜ」  美樹 :「なんかあったんですか?」  麻樹 :「面接だよ、面接」  美樹 :「面接というと」  麻樹 :「くだらんボケはかますなよ」  美樹 :「……とにかく、座って話しませんか? 他のお客さんの :邪魔ですし」  麻樹 :「そだな」  「いつもの席」に座る美樹と、その向かいに座る麻樹。観楠が美樹のコーヒー を持ってくる。  観楠 :「弟さんとずいぶん性格が違うんですね」  美樹 :「あ……」  麻樹 :「てんちょーさん、おとーとに見えますか(にっこり)」  美樹 :「……(汗) これ、妹なんですけど」  申し訳なさそうなそぶりで、観楠がレジの方に去っていく。  美樹 :「で、なにかあったんですか?」  麻樹 :「……人の話、聞いてるか?」  美樹 :「わたしは聞くより読む方が好きなんですけどね。で、な :んの面接だったんです?」  麻樹 :「……就職(ぼそっ)」  美樹 :「……へ?」  麻樹 :「就職だよ。来年卒業なんだから。お・れ・は」  美樹 :「(ぽん) そういえば、そうでしたね」  麻樹 :「……兄貴はあと何年かかるつもりなんだ?」  美樹 :「今の所最低2年ですね。これ以上落とさなければですけ :ど」  麻樹 :「落とすなっ!」  美樹 :「いや、落とすつもりで受ける試験はありませんが……な :んか話ずれてません?」  麻樹 :「おめーがずらしたんだろうが。で、なんの話だったっけ?」  美樹 :「麻樹の卒業の話」  麻樹 :「そうそう、さっき面接受けてきたんだ……」  美樹 :「なるほど。それでその格好ですか……って、それって男 :物のスーツじゃないか?」  麻樹 :「ま、いいじゃないか。スカートなんてあんなすかすかし :たもん履けるか」  美樹 :「(……絶対、男だと思われたでしょうね) で、どこの面 :接受けてきたんですか?」  麻樹 :「吹利中央病院の和漢薬診療科。あそこなら修行にもちょ :うどいいしな」  美樹 :「修行って……なんの?」  麻樹 :「……兄貴、自分ちの商売忘れてねぇか?」  美樹 :「あ、そういえばそうでしたね」  解説しよう。狭淵家は戦国より伝わる鍼灸術の家系(の分家の分家)である。 狭淵麻樹は父親より狭淵流鍼灸術の継承者とされているのだっ!   ……美樹は、逃げ出したのだが。  麻樹 :「ま、教授の推薦状もあったから、まず通ってるからな」  美樹 :「ふーん。そうですか、それはそれは……」  麻樹 :「そういうわけで、来年の春からは吹利に住むことになる :んだが、判ってるか?」  美樹 :「へ、なるほど。それは、そうですな」  麻樹 :「はぁ……(この、ボケ兄貴がぁ) ホントはな、兄貴の下 :宿に泊まっていく予定だったんだが……」  美樹 :「ん? なんか不都合でもあるんですか? わたしは別 :に……」  麻樹 :「泊まる予定だったのは昨日の夜だ。明日は朝から向こう :で仕事が入ってるんでな」  美樹 :「そか。それは残念」  麻樹 :「ま、そういうわけだから、来年の春からの俺の下宿、探 :しといてくれ。頼んだからな」  美樹 :「……判りましたよ。探しておきましょう。で、条件は?」  麻樹 :「吹利市内。屋根と床があること。安けりゃ安いほどいい。 :出来れば1万5千円以下。2万までは許可」  美樹 :「そんな条件でいいんですか?」  麻樹 :「他に必要な条件なんかあるか?」  美樹 :「はぁ……(これだから、女性として見られないんですよ :ね……)」  麻樹 :「ないだろ」  美樹 :「判りました。適当に見繕っておきましょう。で、もう帰 :るんですか?」  麻樹 :「ん、まぁな。とりあえず6時の新幹線に乗るつもりだが」  美樹 :「そうですか。それならもういい時間ですね、吹利駅まで :送りますよ」  麻樹 :「お、悪り」  二人は立ち上がる。  美樹 :「店長さん、ちょっと駅まで妹を送りに行って来ますんで、 :荷物とコーヒーカップはそのままにしておいて下さい」  観楠 :「はいはい」  美樹と麻樹が出ていったあと……麻樹の座っていた座席に6時発の新幹線の 切符を観楠が見つけたのは……それから15分後のことであった。

解説

 狭淵麻樹の紹介エピソードですね。実際に赴任してくる1998年4月からは、 活躍してくれることでしょう。 > -【宣伝】----------------------------------------------------------- > ○ ○〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜○ _// > <[■]\ £_ )サイバラ電劇ネット( ____/>>>>>\ > −−−−−→/ ゜)○〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜○ /<<<<<<<<<< ◎ <<<\ > 〜y/ ̄~>> ̄~`\/^ 03-3721-2501(アナログ) <>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>▼ > / ) ||___ / 03-5483-7408(デジタル) VvVvV<<<<<<<<<<<<<<▼ > --------------------------------------------------------------------

狭間から吹く風とともに:1998/01/09-2

 おもに夕刊風都の作成が遅れており、発行が止まっていたことも合って、編 集済みエピソードのバックオーダーが溜まっているので、ついでにあと二件を 掲載します。 http://kataribe.com/HA/06/P/ 狭間06エピソード集  は、最近おおむね、毎日一件追加されております。

エピソード631『死者の眠る場所』

登場人物

 三河夏和流(みかわ・かわる) :高校生。  湊川観楠(みなとがわ・かなみ) :ベーカリー楠店長。

本編

 夏和流 :「こんにちは、店長さん」  観楠 :「いらっしゃい(笑)」  夏和流 :「……ふう……なんだか、四日ぶりくらいのはずなのに、 :ずいぶんと懐かしいです」  観楠 :「そういえばちょっと見かけなかったけど、旅行でも行っ :てたの?」  夏和流 :「……お盆、でしたから(微笑)」  観楠 :「じゃあ、田舎に?」  夏和流 :「東京なんですけれどね。お墓に行ってきたんですよ。二 :泊三日で」  観楠 :「へえ、東京かぁ(笑) どうだった?」  夏和流 :「……色々と、よかったです……」  観楠 :「やけに、しみじみしてるねぇ(苦笑)」  夏和流 :「……ねぇ、店長さん。お墓って、何であるんだと思いま :す?」  観楠 :「え? ……と」  夏和流 :「色々考えたんですよ。 : 今回ね、お墓に遅く出かけて……五時頃かな、全然誰も :いないんですよ。……これが、いつものお墓なんだな、っ :て思って。……人間って、死んじゃえばただの物になるじゃ :ないですか。なのに、お墓作ったり。でも、たった一年に :数回しか来なくって。 : それに、先祖が生きていたって言われても、ピンときま :せんし。あんまりお爺ちゃんやお婆ちゃんと仲が良かった :わけでもないですからね。あんまりわからなかったんです :よ、今まで。 : ……でも、飼い犬が死んで……わかった気がするんです」  観楠 :「お墓のあるわけが?」  夏和流 :「(うなずく) お墓って……その人の事をずっと忘れない :ためにあるのかなぁって……そう思ったんです。 : いつまでも、いつまでも忘れないように……」  観楠 :「……よかったね」  夏和流 :「……はい」

解説

 実話系エピソード……だと思います。  酒場のマスターじゃないけど、ベーカリー楠の店長は、こうした打ち上げ話、 内面を吐露する相手として多用されていますね。いつもの仲間と囲まれている 時とは違う話題、違う態度。こうした一対一での語りは、人物の掘り下げのた めの手法としてけっこう使用されています。 $$ > -【宣伝】----------------------------------------------------------- > サイバラの電脳通信網的擬似配役虚実演遊戯場ネット(サイバラ電劇ネット) > 03-3721-2501(アナログ14.4k)/03-5483-7408(デジタル非同期38.4k) > 電話代以外の料金は一切掛からない草の根無料ネットです。東京都大田区 > 語り部関係の各種資料転載しています。TRPG中心にMIDI,ANIME,CG,GAMEなど > ID"GUEST"で自動サインアップ、プロフィール確認後正会員登録です! > --------------------------------------------------------------------

エピソード632『旧友――懸垂席の客――』

登場人物

 小松訪雪(こまつ・ほうせつ) :骨董屋松陰堂の若主人。  松崎渾(まつざき・こん) :冒険野郎な考古学者。

本編

 松蔭堂の昼下がり。  『懸垂席』の登り綱は、新しいものにつけかえられている。軒に打ち込まれ た金具を軋ませて、人影がひとつ、杉板張りの壁面をよじ登っている。路地の 人通りは途絶えて、それを見る人も、怪しむ者もない。  茶室の中では。納戸色の絽の単を、いつもよりこころもち堅めに着込んだ訪 雪が、誰もいない客座に向かって、独り点前の稽古を繰り返している。室内に 篭った炉の熱気が、開け放した窓から流れ出す。  開くはずのない板戸が敷居を滑る音がして、訪雪は柄杓を手にしたまま、視 線を音のする方に向ける。真っ黒に日焼けした髭面が、逆光の中で小さく手を 振った。  男 :「よぉ、小松。俺だ」  訪雪 :「! ……松崎……か?」  男 :「ああ。まさかここに、人がいるとは思わなかったな。と :にかく、中へ入れてくれよ」  訪雪に腕をつかんで引き上げられて、男……松崎は、茶室の中に転げ込む。 静謐な稽古の雰囲気の残滓を吸い込んだ所為か、ごつい巨体の膝をちんまりと 揃えて、落ち着かなさげに茶室の中を見回す。  訪雪 :「とりあえず靴は脱いどくれ(汗)」  松崎 :「おう、忘れてた(靴を脱いで窓辺に並べる)」  訪雪 :「出来ればそこも遠慮して欲しいんだが……まあ仕方ない。 :この間は、急ぎの修復仕事をやってくれてありがとう。先 :方さん、えらく喜んでくれとったよ」  松崎 :「そいつぁ何より。あの晩の中華はサイコーだったよ」  訪雪 :「しかし、あんな所から入ってくるなんて……儂ゃてっき :り泥棒かと思ったぞ」  松崎 :「軒から綱がぶら下がってるなんて、随分と妙な造りの家 :だと思ってたんだが……まさか茶室だったとはな」  訪雪 :「(泥棒が入らんように、綱はまとめといたはずなんだが。 : ……こいつ、どうにかして落としたな) : 大昔の店主の冗談だそうだ。冗談にしちゃ、えらく金が :かかっとるがね」  松崎 :「こいつを冗談で、ねえ……(感心したように頷く) ああ :そうだ、ちょうどいい。喉がからからなんだが、そこに用 :意してある道具で、茶を一杯、点てちゃくれないか」  しばし後。痺れた膝を崩した松崎は、神妙な顔で茶を啜っている。  訪雪 :「少しは落ち着いたかね」  松崎 :「この雰囲気じゃ、暴れろというほうが無茶だ」  訪雪 :「慣れない人間には、ちょいと肩が凝るだろうがね。で…… :今日は、何の用があって来たのかね?  : お前さんが一年に二度以上顔を出すなんぞ、滅多にない :ことだ。泊まりに来ただけとは思えんが」  松崎 :「最大の目的が、泊めてもらうことなのは本当だ。あと、 :ちょいと見て貰いたい品があってな」  言いながら、松崎は着ていた小汚いベストの、幾つもあるポケットのひとつ を探って、茶封筒の中身を訪雪の掌に落とし込んだ。  訪雪 :「(品物を一瞥して) 和同開宝だね。多分本物だ。銀貨だ :から銅貨よか珍しいが、妙なもんじゃあない。 : この手の品物は、お前さんのほうが専門だろう」  松崎 :「あたりまえだ。そんな鑑定聞きに、わざわざお前んとこ :まで来るかよ」  訪雪 :「んじゃ、何を見て欲しいわけよ」  松崎 :「お前……面白い特技があるそうじゃないか?」  銀貨を載せた掌が汗ばんできて、訪雪は銀貨を袖に包んで握り直す。  訪雪 :「一体何処で、そんな話を仕入れてきたのかね」  松崎 :「おいおい……この世界は狭いんだぜ? そんなに隠しと :きたい力なら、そいつで飯を喰おうなんて思わないこった」  訪雪 :「……参ったね。とりあえず、事情を聞こうか。 : この手の仕事じゃ、こないだひどい目に遭っとるからね」  松崎 :「そんなに危ないもんじゃないよ。何処から出たのか知り :たいっていう、純粋な俺の好奇心だ。報酬は払うよ」  訪雪 :「ってことは、骨董屋で見つけなすったね? まあいいや。 :場所の特定までは無理だが、ヒントくらいは今週中に見て :おこう」  松崎 :「恩に着るよ。じゃ、夜にまた来る」  訪雪 :「今度は玄関から来いな」  ぐいと飲み干した碗を畳の上に置くと、松崎は登ってきた綱を滑り降りて、 あっという間に路地の向こうへ消えた。  訪雪 :「あいつも……相変わらずだな(苦笑)」  丸めた綱を軒下の釘に括り直しながら、訪雪が呟いた。

解説

 松崎渾は狭間のコード06(異能を持ったちょっと優秀めな人間による日常中心 の話)の登場人物ではなく、コード14『霞ヶ池の影』の登場人物です。文化庁特 殊遺物課非常勤職員として、遺物の発掘・保護を行っています。  コード14は、特定の技術については世界的トップの人間による、日常を破壊 できる脅威に関係した話なので、コード06とはかなり趣が異なります。このよ うなクロスオーバーは確かに話的にも面白いのですが、14では06の登場人物程 度では相手にならない問題を扱いやすいので、あまり多用するとまずいでしょ う。今回のように06の枠内で、ゲスト的に登場させるのが無難です。 > -【宣伝】----------------------------------------------------------- > 成人式の夜の吹利市南部。失われたはずのものを観た人々がいた。一面の芦 > 原を、月光の冷たく照らす湖面を、魂をも打ち砕くほどの威厳をもったなに > かが飛翔するさまを。はるかな古代に栄えた吹利の都にあった霞ヶ池は、あ > えて四神相応を崩さざるを得ないほどの力を持っていたという……。 > http://kataribe.com/HA/14/ 霞ヶ池の影 / 語り部MLにて進行中 > --------------------------------------------------------------------


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