月島直人(つきしま・なおと) : : 喫茶店「月影」店長。物体操作能力者。川島竜也(かわしま・りゅうや) : : 月島直人の元に居候中の5歳の少年。光の女性体召還能力者。
- 直人
- 「じゃあ、竜也、いくよ」
- 竜也
- 「う……うん」(身構える)
喫茶店の店内は、さほど広くはない。その中で二人が数メートル離れて対峙する。
片方はこの喫茶店の店長。白いワイシャツに紺のベストを着込んでいる。
片方は、まだ小学生にもなっていない少年。Tシャツに半ズボンという、春には少し寒い格好だが、本人はいたって元気である。
- 直人
- 「大切なのは、イメージだと思う。しっかりと『彼女』をイメージするんだ」(眼鏡を外す)
眼鏡を外してすぐに、直人の左の瞳がが銀色に変色する。よく見ればコンタクトレンズだという事が分かるのだが、竜也にはその違いは判別できない。
彼の「鍵」である。これから力を引き出し、このコンタクトを通してみる物体を操作するのが、彼の能力だ。
- 直人
- 「さあ、『出して』ごらん」
- 竜也
- 「……」(目をつぶって集中している)
竜也の傍らに、光のもやのようなものが生まれる。しかし、はっきりとした形状を取る事はない。
- 直人
- 「その程度かい?自分の力で出来るのは……もっとちゃんと具現させるんだ」
- 竜也
- 「く……も……もう、無理だよ……」
- 直人
- 「そうか、かわいそうに、じゃあ、彼女はあっという間に消えてしまうね」
そう言うと、カウンターにあったグラスを数個投げつける。竜也の上を通り過ぎたときに、いきなり空中で破裂した。
- 竜也
- 「うわっ!」
- 直人
- 「彼女は消えるよ!そんな存在感ではこの世界には長く要られない!」
- 竜也
- 「やだっ!消えちゃやだっ!」
- 直人
- 「だったらしっかり召還するんだ!彼女の全てを!」
割れたガラスの破片は、そのまま重力に引かれて竜也に降り注ぐ。それを、光のもやが竜也に覆い被さるようにして守るが、触れた側から削り取られ、霧散して行く。
- 竜也
- 「いやだっ!母さん!」
- 直人
- 「戻れ、元ある姿にっ!」(指を鳴らす)
地面に降り注いだガラスの破片が、今度は一箇所に、もやの中心に向かって集中して行く。その動きは重力の束縛を解かれ、弾丸のごとき速さを持っている。無数と思われる破片の一つ一つが、鋭い弾丸のようなのだ。一度に受ければ、人間なら即死は免れない。
- SE
- ぱきぃぃぃん
その破片が、すべてはじかれた。別の場所でグラスへと再生している。はじいたのは、光の壁。竜也と彼を抱くように座っている大人の女性の形状を持った光の固まりの周囲を、薄い光の壁が包んでいる。
- 竜也
- 「かあ……さん?」
- 直人
- 「ようやく出来たか……」
少し息をつき、ほっとしたような表情を見せる直人。
光の女性は、立ち上がり、光の壁を消す。
- 直人
- 「竜也、まだやれるね?」
- 竜也
- 「うん。大丈夫だよ」
- 直人
- 「じゃあ、続きだ。とりあえずは格闘戦だね」(身構える)
- 竜也
- 「うんっ……母さん。おねがいっ」
竜也の答えを聞いてから、間合いを詰めようとする直人。しかし、それよりも早く光の女性が動く。
- 直人
- 「げっ」
瞬時に間合いを詰められ、動揺する直人。女性は打ち込んで来ない。
- 直人
- 「このっ!」(右拳を彼女に向かって放つ)
- 竜也
- 「母さんっ」
- 光の女性
- (そのまま前進しつつ拳を避け、直人とのすれ違いざまに膝を腹に叩き込む)
- 直人
- 「速いっ?!……ぐっ……(服の再生っ……衝撃は緩和しきれないかっ)」
- 光の女性
- (膝を下ろそうとする瞬間に、前のめりになって無防備になった直人の後頭部を肘で狙う)
- 竜也
- 「あっ……母さん!ストップ!」
- 光の女性
- (肘を直人の後頭部の直前で止める)
光の女性は、そのまま直人の側から離れ、竜也の元に戻ってくる。
直人は、まだ前傾姿勢のままだ。骨にも内臓にも異常はないが、素人のパンチを腹部に受けたくらいの衝撃は残っている。
- 竜也
- 「おっちゃん、大丈夫か?」
- 直人
- 「ああ……大丈夫だよ。まさかそんなに速く動かれるなんて思っても見なかったよ」
- 竜也
- 「うん」
- 直人
- 「服を瞬間で再生と崩壊を繰り返させて衝撃吸収したけど、普通だったら内臓破裂おこしてるね……」
- 竜也
- 「うん……ごめん」
- 直人
- 「謝る必要はないさ。手加減はこれから覚えていけば良いんだからね。でも、手加減が出来るまでは、普通の人に使っちゃだめだよ」
- 竜也
- 「うん。大丈夫」
- 直人
- 「さて、次の訓練にいこうか。さすがに僕が相手をするともたないから、グラスを使おう」(グラスをカウンターに3つ並べる)
- 竜也
- 「どうすれば良いの?」
- 直人
- 「この位置から、この前出してた光弾であれを狙うんだ」
- 竜也
- 「うん!分かった!」
- 光の女性
- (右手をカウンターの方に向け、竜也を見る)
- 竜也
- 「うん……行くよっ」
- 光の女性
- (野球ボールくらいの光弾を3つ発射)
- 直人
- 「でかいっ!」
彼女の放った光弾は、正確に3つのグラスに命中した。そのまま貫通し、背後の棚に命中する。棚を崩壊しつつ、壁を貫いて爆発、店の半分を吹き飛ばした。
- 竜也
- 「あ……」
- 光の女性
- (困った顔で竜也を見る)
- 直人
- 「あらら。全く、ここが結界内じゃなかったら、大惨事になる所だよ」
- 竜也
- 「うん……ごめんなさい」
- 直人
- 「まあ、そのための結界だけどね。でも、本当に使い方を間違えちゃだめだよ」
- 竜也
- 「うん。もっと練習しなくちゃいけないね」
- 直人
- 「今日はもう終わろう。そろそろ店も開けないといけないしね」
- 竜也
- 「うん」
- 直人
- 「じゃあ、結界を解くから、さよならしなさい」(眼鏡をかける)
- 竜也
- 「あ……」(光の女性を見る)
- 光の女性
- (竜也に微笑むと、勝手に消えてゆく)
- 竜也
- 「……またねっ!」
光の女性は消え、直人の左目の色も元に戻る。
- 直人
- 「さて、最後の練習だ。僕の張った結界を解いてごらん」
- 竜也
- 「え……」
- 直人
- 「そんなに強く張ってないから、簡単だと思う」
- 竜也
- 「うん」(目をつぶって集中を始める)
しばらくすると、外の雑踏が戻ってきた。破壊された店も元どおりになっている。無事、結界が解かれたのだ。
- 竜也
- 「ふうぅぅ」
- 直人
- 「お疲れさま。よくがんばったね。じゃあ、お昼ご飯にしようか」
- 竜也
- 「うん!」
- 直人
- 「じゃあ、特別にハンバーグでも作るかな」
- 竜也
- 「うん!」
- 直人
- 「玉ねぎも、たっぷり入れるからね」
- 竜也
- 「え゛……」
- 直人
- 「好き嫌いしちゃ、大きくなれないぞ。あと、僕の事は『お兄ちゃん』と呼ぶように」
- 竜也
- 「うぅ……根に持ってる……」
- 直人
- 「そんな事はないさ、君のためを思ってのことだよ」
そう言いながら、玉ねぎを切り出す直人。
竜也の目に光る涙は、玉ねぎのせいといえば、そうなのであろう。
月影の開店までは、あと数十分ある。
月影の店主と、その居候の5歳の少年の異能訓練の話です。
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