エピソード03『ニアミス』


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エピソード03『ニアミス』

だんだんと日が長くなる。
 だんだんと夜がぬるんでくる。
 日付が変わる、ほんの少し前。
 帝都といっても、郊外にずれると、やはりこの時間人影が無い。
 時折、思い出したように車のライトが道を走って行く。
 くゆるような、緑の匂い。
 ぽつりと点った街灯の下を、ゆるゆると歩く。
 肩から羽織った薄いストールが、風に揺らぐ。
 流したまま、膝の辺りまである髪が、ざわ、と揺れる。
 と。

風音
「……?」

弾むように近づいてくる気配。そして未来の破片。
 目を細めて未来をやり過ごし、風音は足を止める。
 少年。
 やはり弾むような足どりの……
 ……いや、生気、それ自体が弾むような……
 真っ直ぐな。
 少年。

少年
「……?」

街灯の光の輪の中に入るにつれ、少年の姿が浮き上がってくる。
 小学校、多分高学年。まだまだかわいらしい……けれどももう既にしっかりとした芯を持ったような、そんな顔立ち。
 腕に巻いた鮮やかな色のバンダナが、目を引いた。
 それにしても、この時刻、この年齢の子供が歩いているべき時間ではない。

風音
「……あの」
少年
「……はい?」
風音
「えと……どうしたの、こんな時間に?」
少年
「……っと……」

ちょっと困ったように左右を見て。

少年
「……散歩、してます」

違和感。
 夜遊びをするような、子供には見えない。
 真面目そうな、きちんと躾られた子供、という雰囲気が、その答えからは伝わってくる。
 故に……余計に、違和感。

風音
「ここら辺、最近危ないから……」

口に出してから、思わず苦笑する。
 危ないのは……さてどちらだろう。
 からからと押し寄せる未来の破片の中の少年は、風と化して走っているというのに。

少年
「危ない……んですか?」
風音
「……うん、少し……危ない、ですよ」

この一月ほどで、既に3、4人の娘が消えているという。
 小柄な、髪の短い娘達。

風音
(……うん、危ないかも(汗))

小柄で、かわいらしい顔立ち。年齢のせいもあるのだろうが、ぱっと見には少女に見えないことも無い。

風音
「気をつけて下さいね」
少年
「ありがとうございます」

ぺこり、と頭を下げる。愛想笑いではない、自然な笑み。昨今珍しいほど、折り目の正しい振舞いである。

風音
「いえ……じゃ、おやすみなさい」
少年
「はい」

そのまま横を通りすぎたが、少年は立ち止まったままである。少し気になって振り返った風音と、少年の視線が合った。

少年
「……あのっ!」
風音
「……?」
少年
「あの……お姉さんも、気をつけてください」

心配そうな、視線。多分それはこちらに向けられた心配と共に、余計なお世話、と突き放されることに対しての心配であったろう。

風音
「はい……ありがとう」

覚えず、口元に笑みが浮かぶ。その笑みのまま会釈をすると、少年はほっと笑って、もう一度ぺこりと頭を下げたなり、走っていってしまった。
 風が、起こる。
 からからと、未来が流れる。
 まんまる。
 少年を包む、まんまる。

風音
「……………………」

この過去は、初めての過去……であるならば。
 少年の姿は、もう見えない。
 風音は、また微かに目を細めた。

解説

風音と鞍馬の最初の遭遇です。

関連資料

白鷺洲風音
 岡崎鞍馬



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