だんだんと日が長くなる。
だんだんと夜がぬるんでくる。
日付が変わる、ほんの少し前。
帝都といっても、郊外にずれると、やはりこの時間人影が無い。
時折、思い出したように車のライトが道を走って行く。
くゆるような、緑の匂い。
ぽつりと点った街灯の下を、ゆるゆると歩く。
肩から羽織った薄いストールが、風に揺らぐ。
流したまま、膝の辺りまである髪が、ざわ、と揺れる。
と。
弾むように近づいてくる気配。そして未来の破片。
目を細めて未来をやり過ごし、風音は足を止める。
少年。
やはり弾むような足どりの……
……いや、生気、それ自体が弾むような……
真っ直ぐな。
少年。
街灯の光の輪の中に入るにつれ、少年の姿が浮き上がってくる。
小学校、多分高学年。まだまだかわいらしい……けれどももう既にしっかりとした芯を持ったような、そんな顔立ち。
腕に巻いた鮮やかな色のバンダナが、目を引いた。
それにしても、この時刻、この年齢の子供が歩いているべき時間ではない。
ちょっと困ったように左右を見て。
違和感。
夜遊びをするような、子供には見えない。
真面目そうな、きちんと躾られた子供、という雰囲気が、その答えからは伝わってくる。
故に……余計に、違和感。
口に出してから、思わず苦笑する。
危ないのは……さてどちらだろう。
からからと押し寄せる未来の破片の中の少年は、風と化して走っているというのに。
この一月ほどで、既に3、4人の娘が消えているという。
小柄な、髪の短い娘達。
小柄で、かわいらしい顔立ち。年齢のせいもあるのだろうが、ぱっと見には少女に見えないことも無い。
ぺこり、と頭を下げる。愛想笑いではない、自然な笑み。昨今珍しいほど、折り目の正しい振舞いである。
そのまま横を通りすぎたが、少年は立ち止まったままである。少し気になって振り返った風音と、少年の視線が合った。
心配そうな、視線。多分それはこちらに向けられた心配と共に、余計なお世話、と突き放されることに対しての心配であったろう。
覚えず、口元に笑みが浮かぶ。その笑みのまま会釈をすると、少年はほっと笑って、もう一度ぺこりと頭を下げたなり、走っていってしまった。
風が、起こる。
からからと、未来が流れる。
まんまる。
少年を包む、まんまる。
この過去は、初めての過去……であるならば。
少年の姿は、もう見えない。
風音は、また微かに目を細めた。
風音と鞍馬の最初の遭遇です。
白鷺洲風音
岡崎鞍馬