1999(1st)年の12月31日深夜。
1999年12月31日深夜。新宿。
伊野部荘司は新宿をさまよっていた。
家族と一緒に来たのだが、はぐれてしまったのである。
すでに1時間がたとうとしていた。
先に帰るか。
そう思い始めたとき。
振り向いたそこに、男が立っていた。
3ヶ月前に台湾で見た顔。
3ヶ月前と同じ表情で、同じ台詞を放つ。
違うのは男の手に大型のナイフが握られていること。
辺りを見回しても誰もいない。
世界には男と自分しか存在しない。そんな感覚に襲われる。
だが、体は言うことを聞かなかった。
荘司が逃げられないことを察したのか、男は悠然と歩いてくる。
ナイフの背が頬をなでる。
冷たい。
ナイフが首に移動する。
男は唇をゆがめてそう言った。
思わず目を閉じる。
腕時計のアラームの音が何処か遠くに聞こえた。
…………
目を閉じたまま数分。想像していた痛みは来ない。
そっと目を開けると、そこにはもう、誰もいなかった。
大通りからにぎやかな声が聞こえる。
さっきまで人が見えなかったのが信じられない。
酔っぱらった男に声をかけられた。
電光掲示板を見上げると、
「A HAPPY NEW YEAR!!
WELCOME 1999」
の文字が光っていた。
終末の住人である荘司とその対である楊の最初の遭遇。
楊はループ現象によって、台湾へと引き戻されることになる。