- 桜居珠希(さくらい・たまき)
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私立道玄坂学園で二度目の二年生をしている高校生。首使い。
- 伊野部荘司(いのべ・そうじ)
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私立道玄坂学園で二度目の二年生をしている高校生。異能操者。
- 月島直人(つきしま・なおと)
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喫茶店月影の店長。物体操者。
- 月島竜也(つきしま・りゅうや)
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直人に保護されている少年。喫茶店月影の手伝いもしている。
ある暑い夏の日。喫茶店である月影のカウンター席でだらだらとテレビを眺めている男女がいる。二人とも道玄坂学園高等部の制服を着ている。席を一つ離して座っていて、カップルというわけでもない。ただ同じ時間を共有している仲間、だ。暇そうにレモンティのレモンをつつき回していた髪の長い少女、桜居珠希の方が思い出したように会話を切り出す。
- 珠希
- 「今月も出費がかさむわね…なんか短時間で割のいいバイト無いモノかしら」
- 荘司
- 「病院で死体洗い、とか…」
- 珠希
- 「あー、そう」
ぼそりと返した少年、伊野部荘司の冗談は冷ややかに流される。そこに店の手伝いをしていた月島竜也も割り込んでくる。
- 竜也
- 「土方!」
- 珠希
- 「私くらいか弱い乙女にはちょっと厳しいわね」
- 竜也
- 「そうか……か弱い乙女……うーん……」
- 荘司
- (か弱いって誰だろう……)
- 直人
- 「はい、スペシャルブレンド」
荘司が追加で注文していたコーヒーを、店長である月島直也が出す。
- 荘司
- 「ありがとう、直人さん」
砂糖を入れスプーンでかき回しながら、荘司は少し考えてから言う。
- 荘司
- 「でも、短時間でわりのいいバイトだと肉体労働じゃないかな? 後はみ……(むにゃむにゃ)」
- 珠希
- 「……なにかいった?」
- 荘司
- 「い、いや、何でもないよ」
- 珠希
- 「ふーん……」
大方何を言いかけていたか予想のついた珠希は再び冷ややかな視線を送る。
- 珠希
- 「でも確かに肉体労働しかないわよね。ちょっと真面目に考えようかしら」
とりあえず仕事の無くなった直人が少し身を乗り出すようにして言う。
- 直人
- 「バイトかぁ……無いことも無いですよ」
- 珠希
- 「なになに、何かあてがあるの?」
- 直人
- 「まあね。ただし、肉体労働だし、厳しいですよ」
- 珠希
- 「まあいいわよ、教えて?」
- 直人
- 「喫茶店のウェイトレスです」
それはこの月影でのバイトの誘いだった。珠希は少しの間この店で働く日々を思い描き、それが悪くない生活だという結論に達する。
- 珠希
- 「やらせて。ここなら近いし、知り合いも多いし」
- 直人
- 「でも、あんまり出せませんよ」
確かに月影は客入りこそ悪くないがけして大きな店でもないし、そうそうバイトを雇う余裕があるようには見えない。そしてさらに、既に一人バイトを雇ってはいるのだ。
- 珠希
- 「まあ普通に出してくれればいいわよ、私なら多少遅くまででもバイトできるしね」
- 直人
- 「自給800円プラス臨時特別手当くらいですね。出せても。それでも良いですか?」
けして大きな額ではない、都内のファーストフードを探せばもっと割のいいバイトはいくらでもあるだろう。しかし珠希はすでに自分の思い描いた青写真にすくなからず魅力を感じていた。
- 珠希
- 「宜しくお願いします」
珠希はスツールから立ち上がって、頭を下げる。
- 直人
- 「じゃあ、シフトとかの説明は後でしますね。履歴書とか、一応持ってきてください」
- 珠希
- 「はい」
ある暑い夏の日、喫茶店月影のカウンター席でダラダラとテレビを眺めている男女。高校生であるというのにいまだ中性的な少年の方が今度は会話を切り出す。
- 荘司
- 「ここでバイトする事にしたんだ」
- 珠希
- 「うん、たくさん注文して私に貢いでね」
- 荘司
- 「いやだよ」
ムンとした熱気の立ちこめる店の外に行く気もおきず、二人はダラダラとし続けていた。
桜居珠希の月影でバイトを始めることになった経緯と、午前授業を終え、昼からダラダラと喫茶店に入り浸る高校生活。
六月後半から七月始め
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