エピソード039『終末の誕生日』


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エピソード039『終末の誕生日』

登場人物

月島直人(つきしま・なおと)
  :喫茶・月影の店長。8月11日が誕生日。物体の再生と崩壊が可能。
更雲優(さらくも・ゆう)
  :月影でウェイトレスをしている終末の住人の一人。
更雲翔(さらくも・しょう)
  :直人の高校時代からの友人で天才マッドエンジニア。更雲優の製作者。

8月10日、喫茶・月影

閉店間際、客は既に居なく、優が後かたずけと言って残ってくれていた。

直人
「優ちゃん、もうあがって良いよ」
「あ、はい……」

最後のテーブルを拭き終わり、手を休める。
 いつもの、何か雰囲気の違う優。

直人
「? ……あ、ごめん。お茶出そうか?」
「いえ……」
直人
「もう、後レジ締めて終わりだからさ、大丈夫だよ」
「はい……」

なにか、引っかかる受け答え。依然として着替えに奥に戻ろうとしない。

直人
「どうしたの?」
「あの……もう少し……ここに居ても良いですか?」
直人
「いいけど……家に帰らなくて大丈夫?」
「はい……マスター……あ、翔さんが……『今日は帰ってこなくて良い』……って(赤面)」

途切れ途切れに、耳まで真っ赤に染めながら言葉を出す。

直人
「え……?」
「だから……私……今日は……直人さんに……」
直人
「え……あの……いや……まずいよ……ねぇ、やっぱ。もう少し自分を大切にだね……」

途中で、言葉を遮られる。遮ったのは、涙で潤んだ優の瞳。

「……」
直人
「ゆう……ちゃん……」

ゆっくりと、二人の距離が縮まる。

SE
カラカラン
「お〜い。仕事終わったかぁ」
直人
「うわぁぁっ! ……し……翔」
「あ……(赤面)」
「ん? どうした? ……よいしょっと」

何か、大きな物をテーブルの上に載せながら、飄々とした表情を向ける翔。

直人
「な……なんで今ごろくるんだよ……」
「あの……『今日は帰ってこなくて良い』って……」
「ん? ……ああ、今日は夜通しだからな」
直人
「なんで……夜通し何をするんだ?」
「何言ってるんだ、忘れてるのか?明日は何日だ?」
「あ……」
直人
「明日?8月11日……って、俺の誕生日か……」
「そういう事だ。去年もやっただろう?」(がさがさ)

持ってきた荷物の梱包を解く翔。

「去年のと同じ看板使えるかららくだのぅ」
直人
「持ってたのかよ……」
「うむ。『こんなこともあろうかと』な」
直人
「で、わざわざ持ってきたのか……」
「若干改造されているんだぞ」

そう言いつつ、看板はついにその全貌をあらわす。……と言うほど大袈裟なものではないが……。

直人
「どう変わったんだ?」
翔      :「『祝
第○○回目1999年度なおとくんお誕生会』。○○のぶぶんは電光掲示板だ。しかもちゃんと2ケタ表示だぞ」
直人
「10回以上もループさせるつもりはないっ」
「念のためだ」

念のため……にしては不謹慎ではある。

直人
「んなことしてたら、俺達三十路過ぎちまうんだぞっ」

直人は直人で、全然別の危機感を抱いているらしい。

「それは困るのぅ」
直人
「もっと真剣に困ってくれよ……」
「まぁなんとかなるさ」
直人
「やれやれ……」

溜め息をつきながらも、その表情に笑みが浮かぶ。
 翔のこの行動は、ちゃんと計算されているものだと知っている。去年のこの日は、何かあるとノイローゼ気味であったのだ。
 方に力を入れすぎては、何も成功しないのは確かである。

「さて……後数分だな」
「直人さん、今日もまた来ますかね?」
直人
「ああ……あれかぁ……」

グランドクルスと関係があるかは不明なのだが、昨年のこの日、能力が飛躍的に高まった事があるのだ。
 そのおかげで見つけた住人の仲間も居るくらいである。

直人
「今夜は、こないかもしれないし、一時的な力を当てにするわけには行かないよ」
「そう……ですね」
「よし、始めるか」
直人
「ああ」
「直人さん、誕生日おめでとうございます」
「またひとつ老いたな」
直人
「ありがとう。優ちゃん。お前も同い年だと言う事を忘れるなよ……翔」

シャンパンをあけ、グラスを合わせる。

直人
「!」

直人の動きが止まる。

直人
「結界? ……それと……アルタの崩壊か?」

感覚が研ぎ澄まされている。ここから新宿アルタまで、結構な距離がある。結界を感知し、しかも、普段は出来ない物質が崩壊して行くのをも感知したのだ。

SE
ジリリリッ

電話が鳴る。

直人
「はい、月影です」
珠希(電話)
「あ、直人くん? 敵よ……場所は……」
直人
「アルタ前ですね?」
珠希(電話)
「え……うん」
直人
「すぐ行きます」

そのまま、電話を切る。

「直人さん……」
直人
「早く、2000年を迎えましょうね」
「いくのか?」
直人
「ああ、今日の俺は普通じゃない。すぐに終わるさ」
「私も行きます。今夜は一緒に居るって決めたから……」
直人
「ありがとう。じゃあ、行って来る」
「さっさと終わらせてこい」

早く、まともに誕生日くらい祝える身分になりたい。
 終末の住人に、月影に、休息が与えられるのは、もう少し先の話だ。
 
 新宿の夜に、月の光は奇麗に差し込み、ビルは影を作っていた。

時系列

1999年8月10日夜

解説

1999年8月11日のグランドクロスの日が、月島直人の誕生日であった。
 誕生日にすら安息の無い月島直人の異能力が、一時的に強化される……。



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