- 月島直人(つきしま・なおと)
-
:喫茶・月影の店長。8月11日が誕生日。物体の再生と崩壊が可能。
- 更雲優(さらくも・ゆう)
-
:月影でウェイトレスをしている終末の住人の一人。
- 更雲翔(さらくも・しょう)
-
:直人の高校時代からの友人で天才マッドエンジニア。更雲優の製作者。
閉店間際、客は既に居なく、優が後かたずけと言って残ってくれていた。
- 直人
- 「優ちゃん、もうあがって良いよ」
- 優
- 「あ、はい……」
最後のテーブルを拭き終わり、手を休める。
いつもの、何か雰囲気の違う優。
- 直人
- 「? ……あ、ごめん。お茶出そうか?」
- 優
- 「いえ……」
- 直人
- 「もう、後レジ締めて終わりだからさ、大丈夫だよ」
- 優
- 「はい……」
なにか、引っかかる受け答え。依然として着替えに奥に戻ろうとしない。
- 直人
- 「どうしたの?」
- 優
- 「あの……もう少し……ここに居ても良いですか?」
- 直人
- 「いいけど……家に帰らなくて大丈夫?」
- 優
- 「はい……マスター……あ、翔さんが……『今日は帰ってこなくて良い』……って(赤面)」
途切れ途切れに、耳まで真っ赤に染めながら言葉を出す。
- 直人
- 「え……?」
- 優
- 「だから……私……今日は……直人さんに……」
- 直人
- 「え……あの……いや……まずいよ……ねぇ、やっぱ。もう少し自分を大切にだね……」
途中で、言葉を遮られる。遮ったのは、涙で潤んだ優の瞳。
- 優
- 「……」
- 直人
- 「ゆう……ちゃん……」
ゆっくりと、二人の距離が縮まる。
- SE
- カラカラン
- 翔
- 「お〜い。仕事終わったかぁ」
- 直人
- 「うわぁぁっ! ……し……翔」
- 優
- 「あ……(赤面)」
- 翔
- 「ん? どうした? ……よいしょっと」
何か、大きな物をテーブルの上に載せながら、飄々とした表情を向ける翔。
- 直人
- 「な……なんで今ごろくるんだよ……」
- 優
- 「あの……『今日は帰ってこなくて良い』って……」
- 翔
- 「ん? ……ああ、今日は夜通しだからな」
- 直人
- 「なんで……夜通し何をするんだ?」
- 翔
- 「何言ってるんだ、忘れてるのか?明日は何日だ?」
- 優
- 「あ……」
- 直人
- 「明日?8月11日……って、俺の誕生日か……」
- 翔
- 「そういう事だ。去年もやっただろう?」(がさがさ)
持ってきた荷物の梱包を解く翔。
- 翔
- 「去年のと同じ看板使えるかららくだのぅ」
- 直人
- 「持ってたのかよ……」
- 翔
- 「うむ。『こんなこともあろうかと』な」
- 直人
- 「で、わざわざ持ってきたのか……」
- 翔
- 「若干改造されているんだぞ」
そう言いつつ、看板はついにその全貌をあらわす。……と言うほど大袈裟なものではないが……。
- 直人
- 「どう変わったんだ?」
- 翔 :「『祝
- 第○○回目1999年度なおとくんお誕生会』。○○のぶぶんは電光掲示板だ。しかもちゃんと2ケタ表示だぞ」
- 直人
- 「10回以上もループさせるつもりはないっ」
- 翔
- 「念のためだ」
念のため……にしては不謹慎ではある。
- 直人
- 「んなことしてたら、俺達三十路過ぎちまうんだぞっ」
直人は直人で、全然別の危機感を抱いているらしい。
- 翔
- 「それは困るのぅ」
- 直人
- 「もっと真剣に困ってくれよ……」
- 翔
- 「まぁなんとかなるさ」
- 直人
- 「やれやれ……」
溜め息をつきながらも、その表情に笑みが浮かぶ。
翔のこの行動は、ちゃんと計算されているものだと知っている。去年のこの日は、何かあるとノイローゼ気味であったのだ。
方に力を入れすぎては、何も成功しないのは確かである。
- 翔
- 「さて……後数分だな」
- 優
- 「直人さん、今日もまた来ますかね?」
- 直人
- 「ああ……あれかぁ……」
グランドクルスと関係があるかは不明なのだが、昨年のこの日、能力が飛躍的に高まった事があるのだ。
そのおかげで見つけた住人の仲間も居るくらいである。
- 直人
- 「今夜は、こないかもしれないし、一時的な力を当てにするわけには行かないよ」
- 優
- 「そう……ですね」
- 翔
- 「よし、始めるか」
- 直人
- 「ああ」
- 優
- 「直人さん、誕生日おめでとうございます」
- 翔
- 「またひとつ老いたな」
- 直人
- 「ありがとう。優ちゃん。お前も同い年だと言う事を忘れるなよ……翔」
シャンパンをあけ、グラスを合わせる。
- 直人
- 「!」
直人の動きが止まる。
- 直人
- 「結界? ……それと……アルタの崩壊か?」
感覚が研ぎ澄まされている。ここから新宿アルタまで、結構な距離がある。結界を感知し、しかも、普段は出来ない物質が崩壊して行くのをも感知したのだ。
- SE
- ジリリリッ
電話が鳴る。
- 直人
- 「はい、月影です」
- 珠希(電話)
- 「あ、直人くん? 敵よ……場所は……」
- 直人
- 「アルタ前ですね?」
- 珠希(電話)
- 「え……うん」
- 直人
- 「すぐ行きます」
そのまま、電話を切る。
- 優
- 「直人さん……」
- 直人
- 「早く、2000年を迎えましょうね」
- 翔
- 「いくのか?」
- 直人
- 「ああ、今日の俺は普通じゃない。すぐに終わるさ」
- 優
- 「私も行きます。今夜は一緒に居るって決めたから……」
- 直人
- 「ありがとう。じゃあ、行って来る」
- 翔
- 「さっさと終わらせてこい」
早く、まともに誕生日くらい祝える身分になりたい。
終末の住人に、月影に、休息が与えられるのは、もう少し先の話だ。
新宿の夜に、月の光は奇麗に差し込み、ビルは影を作っていた。
1999年8月10日夜
1999年8月11日のグランドクロスの日が、月島直人の誕生日であった。
誕生日にすら安息の無い月島直人の異能力が、一時的に強化される……。
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