エピソード044『決心』


目次


エピソード044『決心』

登場人物

岡崎鞍馬(おかざき・くらま) :生まれながらに無敵の肉体を持つ小学生。放浪癖があり不登校気味。 :バンダナを『鍵』とし、特に大事としているバンダナが一枚ある。
 月島直人(つきしま・なおと) :喫茶店・月影の店長にして終末の住人の組織『月影』のマスター。
 更雲優(さらくも・ゆう) :喫茶店・月影のアルバイト。更雲翔の手による人造人間。 :諸々の事情により、メイド服を着ていることが多い。終末の住人。
 桜居珠希(さくらい・たまき。話題にのみ登場) :放課後首斬り魔とでも言うべき能力を持つ女子高校生。終末の住人。 :『対』であるヘッドコレクターにより深い傷を負い、未だ癒えない。

初体験

灼熱の昼下がり、東京・新宿、喫茶「月影」。

SE
カラカラン ……カラン。

何やら控えめなドアベルの音。

「いらっしゃいませ。……あ、こんにちは」
鞍馬
「こんにちは」

照れくさそうに、おそるおそる入ってくる鞍馬。

直人
「いらっしゃい、鞍馬君。珍しいですね、一人で」
鞍馬
「ちょっと買い物があるから、新宿に」
直人
「なるほど」

カウンター席に着く鞍馬。
 こうして見ると、普通の小学生である。

直人
「ご注文は、何にしましょうか?」
鞍馬
「えっ…と………………何がありますか?(汗)」
直人
「何でも……(はっ)」(身を乗り出して)「もしかして、喫茶店で自分から注文をした事が無い?」
鞍馬
「……」(赤くなって頷く)
直人
「でも、うちは初めてじゃないですよね?」
鞍馬
「前は珠希ちゃんとかがいたから……」
直人
「ああ、そうか。じゃあ、うちの特製アイスコーヒーにするけど、それで良いですか?」
鞍馬
「お願いします」
直人
「鞍馬君の記念すべき初注文という事で、サービスにしておきますよ」
鞍馬
「え?(きょとん)」
直人
「(苦笑)……無料、ってことです」
鞍馬
「いいんですか?!」
直人
「もちろん」
鞍馬
「……ありがとう」(上目遣いににっこり)

決心

暫し、くつろぎの時。

直人
「お待たせしました」
鞍馬
「ありがとう。……ねぇ、直人さん」
直人
「何ですか?」
鞍馬
「……珠希ちゃん、まだ来ないんですね」
直人
「……そうですね」

シロップやミルクを傍らに置きながら、ほうっ、と息をつく直人。

直人
「まだ意識が戻らないんです」
鞍馬
「そうなんだ……」
直人
「身体の傷は、皆の力も使ってある程度まで回復したのですがね……なぜか、意識だけは戻らないのです」
鞍馬
「……相手が、何かした……?」
直人
「それは分かりません。コクシチョウではないようですが……。ただ、有希さんの話によると、相手は珠希さんの『対』だった様ですね」
鞍馬
「……」

沈黙が訪れる。
 次に口を開いたのは、鞍馬だった。

鞍馬
「直人さん。もし……」
直人
「?」

鞍馬はポケットに手を突っ込む。
 取り出したのは……一枚のバンダナ。

鞍馬
「……もし、ある人が『結界』を張ったときに、このバンダナを着けていたら……僕と同じバンダナを着けていたら。その人は……ぼくの『対』なのかな?」
直人
「確証は持てませんが……その可能性は高いでしょう」
鞍馬
「…………」
直人
「……心当たりが……あるんですね?」

沈黙をもって答える鞍馬。一息で、残りのアイスコーヒーを飲み干す。

鞍馬
「ごちそうさまでした」(早々にカウンター席を下りようとする)
直人
「まだ、ゆっくりしていって良いですよ。今の時間はお客は少ないですから」
鞍馬
「いえ、もう行きます。買い物がいっぱいあるし……。それに、しばらく旅行に行くから、当分来れないと思います」
直人
「旅行ですか……どこへ?」
鞍馬
「わかりません。長くなると思います。……捜しているものが、見つかるまでだから」
直人
「そうですか……できるだけ早く見つかる事を、僕も祈っています。何かあったら、連絡を下さいね」
鞍馬
「はい。ありがとう……それじゃ」
SE
カラカラン
直人
「……気をつけて、鞍馬君」

解説

ヘッドコレクターとの戦闘でいまだに意識が戻らない珠希の身を案じつつ、自分の『対』と思しき人物に思いを馳せる鞍馬。その人物とは……?
 2回目の1999年の夏、夏休みに入って早々に、鞍馬は長い旅に出ます。彼はその旅で何を見つけてくるのでしょうか。
 このEPは、その旅に出るまでのとある1シーンを描写したものです。
 EP『中野決戦』の一週間後の話です。

時系列

1999(2nd)年7月18日・日曜日の昼下がりのこと。



連絡先 / ディレクトリルートに戻る / TRPGと創作のTRPGと創作“語り部”総本部