エピソード047『はじめての……』


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エピソード047『はじめての……』

登場人物

更雲優(さらくも・ゆう)
喫茶店・月影のウェイトレス。ねこみみメイドのアンドロイド。
月島直人(つきしま・なおと)
喫茶店・月影の店長。

闇の中で

暗い。そこは、とてつもなく暗かった。
 真の闇を、人は見通す術は持っていません。
 一片の光も存在しない闇。それは、限りない恐怖を生みます。

「……」

私に、闇に対する恐怖はありません。生まれる前から、この闇の中にいたのですから。
 眠りについているときは、いつも闇の中でした。
 そして、私の眠りは、心を動かす事はありません。心を留めておく事が出来るから。
 私は作られた存在、人と同じように眠る事はないのです。

仕事の後に

直人
「さて……と。そろそろあがろうか」

喫茶店・月影。店長がいつもの笑顔で話しかけて来ます。やさしい笑顔。
 残エネルギー量は、疲労感として身体が感じるようになっているとマスターはおっしゃっていました。
 今日は、疲れた方でしょう。お客様はたくさんいらっしゃったし……。

「あ、はい。これ片づけたら終わりです」

店長も、少し疲れているみたいでした。でも、私に向けてくれるのは、笑顔。

直人
「優ちゃん、こっちおいでよ、一杯やろう」

カウンターの表に廻って、ビールを取り出す店長……いえ、直人さん。営業時間は終わりました。

「え……でもまだ……」
直人
「後は、レジ締めだけだし。僕独りでも出来るから」

そういって、グラスにビールを注いでいます。一つを私に手渡し、グラスをかちんと合わせました。

直人
「今日は結構客が多かったね。お疲れ様(にこ)」
「はい。じゃあ、いただきます」

直人さんは、おいしそうにグラスを空けてしまいます。私も半分くらいまで飲んで、一息つきました。

「直人さん、もう一杯」(とくとく)
直人
「さんきゅー……きょうもかわいいね、優ちゃん」
「えっ」
 
 どきっ……直人さん、酔っ払ってるのかな……? 顔が熱く火照ってきて、胸がどきどきいってるのは、ビールのせいだけじゃないと思います。
直人
「この髪……(さわ) この唇……(さわ) かわいいよ(にこ)」
「えっ(あか) あのっ、そのっ」
直人
「その照れた顔も良いね……(じー)」

私の顔のいろんなところに触れてた直人さんの指は、顎の先で止まりました。
 ちょっぴり上に押し上げられ、上の方。直人さんを見上げる格好になってしまいました。

「直人さん……だいじょうぶですか(あせっ)」
直人
「(くすくす) 大丈夫だよ。まだ意識ははっきりしてる(にこ)」
「顔赤いですよ(あかっ)」
直人
「優ちゃん……」
「はい……?」
直人
「こういう時は静かに目を閉じればいいだよ……」
「こ、こうですか……」

目を閉じました。胸のどきどきも、顔の熱も引かないで、直人さんの顔が見えなくなります。

直人
「かわいいね……んっ」
「あんっ」

見えなくなった事で、唇に触れたの瞬間がはっきりと分かりました。

直人
(しばらく押し付けてから……)「チュッ……(くすくす)」
(ぼーっ)
直人
(唇と顎に当てていた指を離す)

あ……えと……なおとさん……直人さんが私を見てる……やさしい……目。

「……はじめてなんです」
直人
「……悪くないでしょ?」
「……おもったより苦かったです」
直人
「……ビール飲んでるからかな……でも、いちごミルクの味とかは絶対にしないよ」
「たぶんいちごみるくのんでからならそんなあじがしますよね」
直人
「いちごミルクはないなぁ……」

そういうと、ごそごそと何かカウンターを探る直人さん。私も、自分で何言ってるか良く分かってません。
 カフェオレのようなお酒、カルーアミルクを作っているみたい。1杯作って、飲む直人さん。

直人
(おもむろにキス)「チュッ……今度はどう?」

また……されちゃった……。

「いちごみるくのあじがするようなきがします」

私……何言ってるんでしょう。言いたい事は、伝えたい事は、そんな事ではなくて……。

「もういちど……おねがいできますか」
直人
「なんどでもかまわないよ……」(今度は長いキス)
「んっ」
直人
(してる間に手は耳たぶへ)
「はふっ」
直人
「……大人のキスは、もう少し先だね」
「……おとな……もっとうえが?」
直人
「いまはいいよ。ひとつずつ教えてあげるから」
「……はい……」

直人さん……

夢から覚めて

目を覚ました。開いた目に映ったのは、私の部屋の天井。

「えっ?」

さっきまで、私、直人さんといて……。

「やだ……」

思い出しただけで、顔が火照って、胸がどきどきします。
 確かに記憶はあります。でも、実際にはあんな事した事無いし……。

「ゆめ……?」

寝ている間は、心は動かない筈なのに。人とは違う筈なのに……。
 私も、夢が見れるんだ。

SE
リリン

マスターが呼んでる……。今日も、仕事が始まります。
 初めての夢は、甘くて苦いキスの夢……でした。

解説

人によって作られたねこみみメイドの優は、眠りはいつも暗闇だった。
 優が初めてみた夢……それは……。
 優の一人称で全体を表現したエピソードとなっています。



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