暗い。そこは、とてつもなく暗かった。
真の闇を、人は見通す術は持っていません。
一片の光も存在しない闇。それは、限りない恐怖を生みます。
私に、闇に対する恐怖はありません。生まれる前から、この闇の中にいたのですから。
眠りについているときは、いつも闇の中でした。
そして、私の眠りは、心を動かす事はありません。心を留めておく事が出来るから。
私は作られた存在、人と同じように眠る事はないのです。
喫茶店・月影。店長がいつもの笑顔で話しかけて来ます。やさしい笑顔。
残エネルギー量は、疲労感として身体が感じるようになっているとマスターはおっしゃっていました。
今日は、疲れた方でしょう。お客様はたくさんいらっしゃったし……。
店長も、少し疲れているみたいでした。でも、私に向けてくれるのは、笑顔。
カウンターの表に廻って、ビールを取り出す店長……いえ、直人さん。営業時間は終わりました。
そういって、グラスにビールを注いでいます。一つを私に手渡し、グラスをかちんと合わせました。
直人さんは、おいしそうにグラスを空けてしまいます。私も半分くらいまで飲んで、一息つきました。
私の顔のいろんなところに触れてた直人さんの指は、顎の先で止まりました。
ちょっぴり上に押し上げられ、上の方。直人さんを見上げる格好になってしまいました。
目を閉じました。胸のどきどきも、顔の熱も引かないで、直人さんの顔が見えなくなります。
見えなくなった事で、唇に触れたの瞬間がはっきりと分かりました。
あ……えと……なおとさん……直人さんが私を見てる……やさしい……目。
そういうと、ごそごそと何かカウンターを探る直人さん。私も、自分で何言ってるか良く分かってません。
カフェオレのようなお酒、カルーアミルクを作っているみたい。1杯作って、飲む直人さん。
また……されちゃった……。
私……何言ってるんでしょう。言いたい事は、伝えたい事は、そんな事ではなくて……。
直人さん……
目を覚ました。開いた目に映ったのは、私の部屋の天井。
さっきまで、私、直人さんといて……。
思い出しただけで、顔が火照って、胸がどきどきします。
確かに記憶はあります。でも、実際にはあんな事した事無いし……。
寝ている間は、心は動かない筈なのに。人とは違う筈なのに……。
私も、夢が見れるんだ。
マスターが呼んでる……。今日も、仕事が始まります。
初めての夢は、甘くて苦いキスの夢……でした。
人によって作られたねこみみメイドの優は、眠りはいつも暗闇だった。
優が初めてみた夢……それは……。
優の一人称で全体を表現したエピソードとなっています。