- 厳侠児(げん・きょうじ)
- 唯一人で"災厄"と戦い続ける終末の住人。
- 声
- 「ねえ」
声が聞こえる。
- 声
- 「ねえ。おぢちゃん」
子供の声だ。
- 侠児
- 「ぅ……?」
眠っていたようだ。侠児は頭を振る。
- 女の子
- 「寝てたの?」
- 侠児
- 「ぁ……あぁ……」
目の前に4、5歳ぐらいの女の子が立っていた。
女の子の目線は座っている侠児と同じくらい。
侠児は自分の状況を思い出す。
……連日の堕とし子との戦いで……
……疲れていた……
……仕方無く休もうと……
……影が濃いこの裏通りで……
……結界を……
……そう……結界を……誰にも……
……災厄にも……見つからないように……慎重に……巧妙に……小さく……
- 侠児
- 「(結界? そうだ結界だ! 結界を張っていたんだ!)」
- 女の子
- 「……?」
目の前に女の子がいる。見覚えがない。思考を整理し一応の結論を出してみる。
- 侠児
- 「(……寝てしまって……その間に解けたのか?)」
- 女の子
- (じーっ……)<侠児を見る
侠児は周囲に気を配る。辺りに人の気配が無く、侠児と女の子の二人だけしかいない。
侠児は現在の状況を察知する。
- 侠児
- 「(……! 結界が張り直されている!? ここは私の張った結界じゃない!?)」」
- 女の子
- (……じーーっ)<侠児を見る
侠児の記憶にある自分の張った結界より、もっと広い結界に変わってた。
先ほどからずっと、女の子が黒く大きな瞳で侠児を見つめてる。女の子は、桃色のワンピースを着ていて、黒く柔らかそうな髪をおさげにしていた。
黒い瞳と色白の肌が印象的だった。
- 侠児
- 「(まさか……この子が……?)」
- 女の子
- 「ねぇ」
- 侠児
- 「(!! この子が住人なら"堕とし子"が……!)」
侠児は警戒するが、周囲に堕とし子はいない……ようだ……。
- 侠児
- 「(狩人……か? それなら大丈夫……)」
沈黙し、思考を巡らせる侠児の耳に、女の子の声が飛び込んだ。
- 女の子
- 「ねえ、おぢちゃんっ」
- 侠児
- 「ん……?」
- 女の子
- 「こんなところで寝てたらいけないんだよーっ」
- 侠児
- 「あ、ああ……」
- 女の子
- 「どうして寝てたのーっ?(好奇心)」
- 侠児
- 「ん? え~と……」
さて、こんな子供に何から説明したものか……。
- 女の子
- 「ねえ、どうしてーっ?(興味津々)」
- 侠児
- 「( ……しかし、 俺も "おじちゃん" って呼ばれるトシかぁ……(トホホ))」
いろんな意味でため息をつく。
それから侠児は女の子の質問攻めを受けた。
侠児は女の子にとって、結界の中で初めて出会った人間らしく、女の子のいい好奇心の的にされていた。
- 女の子
- 「じゃあ、おぢちゃん、ひとりぼっちなの?(哀)」
- 侠児
- 「ん、……うん、まあ、そうなんだ」
女の子はあれこれと侠児の身の上話を根堀葉堀と聞いた。
- 女の子
- 「おぢちゃんかわいそう……。(しんみり)」
- 侠児
- 「あ、心配しなくても、おじちゃんは大丈夫だよ(焦)」
- 女の子
- 「さみしくないの……?」
- 侠児
- 「寂しいよ。でも……」
今の侠児には、弱音も泣き言も立ち止まることも許されない。
- 女の子
- 「………………」
- 侠児
- 「あ……」
女の子がしばし黙った。いらぬ気を使わせたか、と思う。
- 女の子
- 「じゃあねー(にこ)」
- 侠児
- 「?」
- 女の子
- 「まみがね、 おぢちゃんのおともだちになってあげる。(にこにこ)」
女の子が小さな右手を差し出した。
- 女の子
- 「ママがね、おともだちになったらね、 あくしゅするんだって言ってたの(にこにこ)」
- 侠児
- 「……そうなんだ(にこ) じゃあ、まみちゃんとおじちゃんは、お友達になろう」
侠児は自分の右手を差し出した。
女の子の白く小さく柔らかい手が、侠児の硬くてゴツい手と握手をする。
- 女の子
- 「まみとね、おじちゃんはね、これでおともだちっ(喜)」
- 侠児
- 「ありがとう(微笑)」
- 女の子
- 「もうさみしくないねっ(喜)」
女の子の喜ぶ顔を見て、こんな笑顔を見るのはどれぐらい久しぶりのことだろうか、と侠児は思う。
- 女の子
- 「……ねえ、おぢちゃん」
女の子が表情を変えた。
- 侠児
- 「?」
- 女の子
- 「だれかくるよ」
女の子は自分の結界に何者かが侵入したのを察知したようだ。
- 女の子
- 「おぢちゃんみたいなひとかな?」
- 侠児
- 「……誰か? ……いかん!」
侵入者が堕とし子の可能性がある。
- 侠児
- 「(やはりこの子は住人なのか!?)」
- 女の子
- 「……おぢちゃん……?」
侠児は立ち上がり、声を荒げて女の子に言葉を投げる。
- 侠児
- 「逃げろ!」
……何処へ?
- 侠児
- 「いや、隠れろ!」
……どうやって?
- 侠児
- 「くっ……おじちゃんの側を離れるなっ!」
- SE
- スラン……
天降太刀を引き抜き、構える。
天地四方に気を張り巡らす。
- 侠児
- 「(何処だ!? 何処から来る!? この裏路地は影が濃いぞ!さあ、来いっっっ!)」
- SE
- たたたたたた……
- 侠児
- 「まみちゃん……!?」
高まる侠児の気迫を恐がったのか、女の子は侠児の側から駆け出した。
- 侠児
- 「まみちゃん、待てっ! 危険だ!」
- SE
- しゅュパぁっッッッ……
路地の外へ向かって走る女の子が、ヒッ……と詰まるような悲鳴を上げて宙に舞った。
そして弾けて、砕けて、紅いものをぶちまけながらミンチになる。
- 侠児
- 「………………………………………………………………」
侠児が呆然と見つめる路地の出口に、女の子の小さな白い……いや、朱に染まった右手……の破片がべちゃりと落ちる。
そして、そこに異形の怪物が立っていた。
少女の張った結界が消えてゆく……。
3rd.1999.5.中旬
"災厄"にマークされた男、厳侠児。
侠児と関わる住人、侠児が関わろうとする住人は、堕とし子に抹殺される。
そんな侠児の日常のある出会いの1シーン。
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