エピソード069『先頭車両に飛び散る血液』


目次


エピソード069『先頭車両に飛び散る血液』

登場人物

桜居珠希(さくらい・たまき)
やや怒りっぽいところのある首使いの女子高生。終末の住人。
ヘッドコレクター
珠希の対。いくつもの頭部を持ち、肉体を否定する終末の狩人。

本編

学校帰り。いつものように三鷹にある自宅へ帰るために新宿駅に一人。やたらに長いエスカレーターを越え、やたらに人の多い駅のホームに、周囲と同じように並ぶ。この日本一自殺者の多い路線を中学生のときから使っていた。とは言え、いまだに飛びこんだ者たちの気持ちは珠希にはわかりそうにない。わかろうと努力した記憶もないのだが。
 ただ、あのオレンジの車体にパッと赤い血が飛び散ったら奇麗なのかもしれないな、などとなんとなく思ってみた。
 
 キィーン
 
 耳鳴り。ノイズにあふれていた駅のホームが静けさに包まれる。軽い目眩い。自分は結界に取り込まれたのだ。反射的に珠希は気づく。とっさに身構えて周囲を見渡す。そして線路の真上5メートルほどのところに、「アイツ」を見つける。
 いくつもの頭。華美で中世を思わせる服飾。頭の先から服の一番先までを見ると250cmを越える。しかし足に当たる部分は見当たらない。そして、怪人ヘッドコレクターはそれぞれ別々の頭部から順繰りに言葉を発した。ヘッドコレクター:「やあ桜居珠希。相変わらず激情に身を焦がしているか」

「ここに来れば、あなたの心にも平穏が」「この世界を受け入れて、そしてワシらも受け入れれば」

不快感。皮肉を込めて返す。

珠希
「珍しい。そっちからやってくるのは覚醒した日以来だっけ?」 ヘッドコレクター:「いや、そろそろ君の首を」
「あなたの魂を取り込みたいの」
珠希
「チッ、反吐が出る……」

とっさに珠希は真横に飛ぶ。その次の瞬間ヘッドコレクターの左腕が音もなく伸びて先程まで珠希が立っていたホームのコンクリートを抉る。珠希はそのまま止まることなくホームから飛びおり、線路を疾走する。

珠希
「由紀夫! 起きなさい!」

走りながら持っていたスポーツバッグに怒鳴りつける。後方にヘッドコレクターの気配を感じる。相変わらず動きが早いが、逃げ足だけは負ける気がしなかった。ヘッドコレクター:「ほら、追いついた」

「珠希ちゃんピーンチ。けらけら」

両脇にホーム。背後には乗客乗員全てが消えて動きを止めた電車。そして前方にヘッドコレクター。珠希は追い詰められた。
 無言で集中。怯むことなく「鍵」である首刈り鎌を召喚する珠希。ヘッドコレクターも同様の鎌を取り出す。

珠希
「その首、全部落として、気分よく帰るんだから……」 ヘッドコレクター:「ふーん」

しゅるしゅると伸びてくる腕。しかし珠希は攻撃に転じると見せかけて微動だにしなかった。鎌で一撃をしのぐとそのまま力一杯ひっつかんで線路にヘッドコレクターごと叩きつけ、自分はホームに飛び乗る。ヘッドコレクター:「ほほう、なかなかやりおる」

「まあ、意味はないけどな」

空洞の服を叩きつけられたところでヘッドコレクターにはなんの痛みもない。そもそも痛みという概念があるかどうかすらあやしいのだ。ヘッドコレクターはふたたびフワリと舞い上がる。

珠希
「はぁはぁはぁ……」 ヘッドコレクター:「もう息が上がってきたのか」
「運動不足なんじゃないの?」「あはははは」

その瞬間、止まっていたはずの電車が突然動き始めた。あり得ない加速度で先頭車両だけが突進し、ヘッドコレクターを巻き込みつつホームを駆け抜ける。

珠希
「……トップスピードでないと、血は飛び散らないか」

そして、ヘッドコレクターは姿を消した。

時系列

二度目の1999年。4月前後。エピソード『失われしは我が想い』よりは以前の出来事。

解説

珠希とヘッドコレクターの衝突。珠希はヘッドコレクターを仕留めそこなう。



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