エピソード070『結界戦闘』


目次


エピソード070『結界戦闘』

登場人物

厳侠児(げん・きょうじ)
終末の住人。経歴、行動に謎が多い。異能は影の上を高速で移動す
る"疾影"
八島小次郎(やしま・こじろう)
終末の狩人。侠児を父の仇として追う。異能は影とその実態を切断
する"斬影"

小次郎の結界

首都高の陸橋の下。昼。影が濃い。
 周囲が結界に包まれる。
 そして侠児が中に召喚される。

侠児
「……」
SE
タタタタタ……

駆けてくる者がいる。
 その歩みは躍動感がある。

侠児
「(……10代……男……身長は…………距離15…12………………来るな)」

侠児は、足音からその主を若者と判断する。

SE
ザッ……

足音が止まった。

侠児
「やはり君か」
小次郎
「今日こそ逃がさねえっ!」
侠児
「……」
小次郎
「キサマと同じ力だ! 今日は絶対逃がさねぇ!」
侠児
「(……この程度の結界を張ったくらいで……)」

侠児は小次郎に少し失望し、不機嫌になった。
 結界が張れるようになってうかれている。戦うべき場所まで見誤っている。小次郎のこの甘さはいずれ死に通じる。
 侠児はそう判断した。

侠児
「(……少し灸を据えてやるか)」
SE
キィィィィィィィ…………

小次郎が鍵を具現化する。
 小次郎が構える前に侠児が口を開く。

侠児
「……で、どうする?」
小次郎
「!」

侠児の立つ位置は陸橋の下。侠児の身体と影は陸橋が落とした影に包まれている。
 "斬影"で斬ろうにも侠児の影の位置は……

小次郎
「(くっ……こうなりゃ陸橋ごとブッタ斬って下敷きにしてやるっ! それに……)」

侠児が竹刀の袋から天降太刀を取り出す。

小次郎
「(……俺が立つ場所は日向だ。奴だって"あの力"で俺に近づけない筈だ)」
SE
ィィィン……

侠児が"疾影"で日向と影の境目まで、小次郎に近づいた。侠児と小次郎の距離は3メートル程。
 侠児は天降太刀を掴んでいる左手を小次郎に向かって突き出した。

侠児
「欲しいか?」
小次郎
「な!?」
侠児
「返してやろうか?」

小次郎は混乱した。あれほど返す気が無いと言っていた太刀を返すと……。

小次郎
「………………(睨)」
侠児
「ただし、私に勝てばだ」

SE
スラン……

侠児
「えあぁぁぁっっっっ…………!」
SE
キンッッ……

侠児が鞘から天降太刀を引き抜き、烈迫の気合いと共にコンクリートの地面に突き刺す。
 隕鉄の太刀がコンクリートにヒビを走らせる。
 魔刀は折れず、曲がらず、欠けず……。
 
 侠児は鞘を持ったまま突き刺した太刀から離れた。
 侠児と小次郎が太刀を挟んで一直線上に並ぶ。
 侠児と太刀、太刀と小次郎の距離はほぼ同じ。
 
 小次郎は侠児の思惑を理解できなかった。迂闊に動けば侠児の術中にはまる。小次郎は警戒し、影の中の侠児を睨む。
 侠児は右手をポケットに手を入れる。

侠児
「さ、始めようか」
小次郎
「な……!?」

侠児は左手に鞘こそ持っているが丸腰に等しい。

小次郎
「な、なめやがってっ……」
侠児
「いくぞ。合図はこの10円玉だ」

侠児がポケットから10円玉を取り出す。

SE
ピーーーン…………

侠児が10円玉を指で弾いた。10円玉は上昇し、弧を描いてコンクリートの上に落ちる。

SE
チャリーーーーンン…………

10円玉の音が響くと同時に侠児は動いた。一直線に"疾影"で小次郎に接近する。

小次郎
「(ばかな! いくら何でもそんな軌道ならっっ!!)」

侠児が突き刺さった太刀に近づき、日向へ出ようとする直前、小次郎は一瞬で影の位置を判断した。歩みを進めそして……

小次郎
「ぜあぁぁぁぁぁっっっ…………!」
 
SE
キィン!
SE
(重低音)
SE
ピッキィ…………

陸橋に"斬影"による切断線が走る。

SE
カランン…………………………

侠児の持っていた鞘が手を離れ地面に落ちた。
 その音が陸橋の下で反響する。
 
 侠児の姿が消えた。

瞬きの間

侠児が消えた。

小次郎
「???」

何処へ消えた? いやそれより、何故? どうやって?
 小次郎が混乱する。しかしそれは瞬きに等しい間。

小次郎
「!!?」

侠児が突然現れる。文字通り目の前に。同時に太刀を持つ手は抑えられ、顔に……いや眼に衝撃が来る。
 小次郎は反射的にのけぞった。鳩尾が前へ浮く。その鳩尾へ砲丸が突き刺さるような衝撃。そして浮遊感。

小次郎
「(足を払われたっっっ!!?)」

背中から落下する。辛うじて受け身をとるが、地面はコンクリート。ダメージを逃がしきれない。小次郎は鳩尾と背中の痛みで悶絶し、思考が停止する。

小次郎
「がっっ…………!!?」

左手の甲に痛みが走る。受け身をとった小次郎の左手を侠児が踏みつけていた。

実力差

侠児が小次郎の太刀の鍔を左手で抑えつつ、右掌で顔面を撃ち、右肘で鳩尾を突いて脚を払っただけ。
 侠児が消えてから僅か一呼吸にも満たない間の出来事だった。

侠児
「…………」

倒れ痛みに悶える小次郎とそれを踏みつける侠児。
 結果は歴然。
 小次郎はまだ辛うじて握っていた右手の太刀で侠児を突き刺そうと体を動かす……

小次郎
「あ"ぐがあ"ぁ"ぁ"……!」

侠児が左手を踏んでいるカカトを捻る。
 激痛で小次郎の意志が萎え、鍵が消える。
 侠児が口を開く。

侠児
「結界は、張っている方が常に有利、と勘違いするな」

侠児が仕掛けた消える戦術は、本来、結界能力者が二人以上で堕とし子を倒すときに使うもの。

侠児
「未熟な君が相手ならこんな芸当もできる」

今回の侠児は、小次郎の結界操作能力の未熟さに着け込み、天降太刀を餌にして小次郎の心理に揺さぶりをかけ、隙を突いたにすぎない。
 
 侠児が踏みつけていた脚を離す。

小次郎
「……」
 
SE
ドスッッ…………
 
小次郎
「ウグゥッッ…………」

離した脚の爪先を小次郎の鳩尾に突き刺す。
 小次郎は転がり、くの字に身体をまげ痙攣する。もう動けない。
 侠児は小次郎から離れ、間合いを計るために地面に刺した天降太刀を引き抜いた。

侠児
「今のタネ明かしが解るまで、精進しろ」

鞘を拾い、太刀を鞘にしまう。

侠児
「それに、この程度の結界……」
 
SE
バュウゥゥゥゥ…………

侠児が小次郎の結界をかき消した。

小次郎
「(……畜生!)」

侠児が立ち去り際に言った。

侠児
「あの世の父上が見たら、君をどう思うかな?」
小次郎
「!」

侠児が去っても、小次郎は地面に転がったままダメージで動けなかった。

小次郎
「(畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生………)」

小次郎の目には涙が滲んでいた。

時系列

3rd.1999 小次郎が葛城水稚から結界の張りかたを学んだ後。

解説

小次郎と侠児の遭遇。小次郎と侠児の戦士としての実力の差



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